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第2話

 吉田航平は、デパートのゲームセンターを出たところで、視界に映った光景に固まってしまった。


 ――ウソだろ。あの女が……姫川が、河野君と一緒にいる。


 航平の視線の先には、ベンチの前で子供と応対している真白と詩子がいた。


 航平は一瞬、2人に子供でも出来たのかと疑ったが、すぐにそんなわけが無いと考えを修正する。おおよそ迷子でも見つけたのだろうと考え直した航平だが、彼にとって、子供の状況はどうでも良いことだった。


 詩子と真白が共にいる。それが何を指し示すか、航平にとって最も気になっていたのは、その一点のみであった。


 考えなくともわかる。2人は付き合っているのだ。そしてデートでこのデパートを訪れ、迷子に出会った……と言うところだろう。


 航平は自らの中で、とりわけ河野真白に対する評価がガタガタと崩れ落ちるのを感じた。


 以前、真白と話した時、航平は彼に良い印象を抱いていた。自分のコンプレックスに気付き、それを『変わることができる』と言った彼に、航平は少し勇気づけられたのだ。


 しかし、現実はそう甘くない。航平はその時こそ意気込んでいたが、ずるずると怠惰な生活を送り、結局現在も、変わるための具体的な努力は行っていない。


 それがどこか真白に対する後ろめたさにもなっていたのだが、今回デートをする2人を見たことで、航平の中でそれが取り払われる感覚がした。



「……なんだよ。あの時は、『そんな関係じゃない』って否定していた癖に。結局、やることをやっているじゃん」



 航平は聞こえないように、真白に不満を口にした。


 以前、真白と詩子が付き合っているのでは、と言う噂が立った時、航平は確かに、詩子への理想が打ち砕かれたような、そんな感触を覚えていた。しかし、確かに詩子への幻滅が大きくなったとは言え、航平にとって、詩子が大層可愛らしい女性であることは変わりなかった。


 クラスでかわいい女の子が、誰かと付き合い出したと聞くと、別段好きでなくとも、少しだけショックを受けることがあるだろう。航平にとって、詩子が真白と付き合っていると言う事実は、その程度の衝撃だったのだが。


 しかし、感情が過激化しやすい航平にとって、その程度の衝撃であっても、腹が唸るような寝取られ感を覚えてしまったのだ。


 航平は真白に嫉妬していた。そして、その身勝手な嫉妬心に理由を付けるために、真白を倫理的に非難していたのだ。


 どうせ、顔が良くて、おっぱいが大きいから付き合ったんだろう、と。男が女に対して向ける目線など、そんなものなのだ、と。



◇ ◇ ◇ ◇



 開け放したカーテンから、昼過ぎの太陽光が入り込んでくる。青山四郎は、「ん……」と、瞼に飛び込んできた光に目を覚ました。


 1人用のベッドで体を起こす。掛け布団がめくれ、ほのかに寒気のある空気に素肌が晒される。


 と、四郎の傍らで、同じく裸になっている女が、狭苦しそうに「んん……」と身をよじった。


 四郎の恋人である、琴月ことつき優花里ゆかりだ。茶色い髪の毛がわずかに上裸を覆っている姿に、四郎は少しばかり微笑ましさを感じ、何も言わずに彼女の頭を撫でた。



「…………んん……朝?」


「ん~……こりゃもう、昼だな」



 四郎が答えると、優花里は枕の傍らに置かれたスマートフォンを手に取った。


 寝転がった姿勢のまま画面を付ける。優花里は目を細めて時間を確認し、「うわぁ、マジじゃん」と呟いた。



「ちょっと、昨日ヤリ過ぎたわ……」


「……すまん」


「別にいいよ~。まあ、昼過ぎまでだらだらする休日もありじゃん」



 優花里はそう言いながら、「ヨイショ」と体を起こした。


 ボサボサの髪が垂れる。優花里は「シャワー借りていい?」と四郎に尋ね、四郎は「うん」と短く答えた。



「…………。四郎」


「ん?」


「なんかあった?」



 優花里が四郎に尋ねる。四郎はしばらく押し黙ってから、「まあ」と小さく答えた。



「ちょっと、昔の夢見てて」


「昔?」


「……いや。まあ、なんだ。……別に、なんでもないって言うか」



 四郎はもごもごとバツが悪そうに口を動かす。優花里はあくびをしてから、「まあ、じゃあ、気にしないよ」と答えた。



「……ああ、そう言えばさ」


「ん?」


「四郎って、河野君と友達じゃん? ……なんで、アイツと友達になったのかなって」



 四郎は優花里に言われ、「あー」と天井を見上げた。


 腕を組み、四郎は昔を思い出す。そして四郎は、ゆっくりと、かつての事を語り始めた。



「……正直、昔はさ、俺、アイツのこと好きじゃなかった」


「へぇ、そうなんだ」


「ただ、付き合っていくうちに……なんて言うか……アイツの良さに気付いた……って言うか……自分の未熟さに気付かされたって言うか……」


「どゆこと、それ?」



 優花里が四郎の口ぶりに笑う。四郎は「なんだよ」とやや照れ臭そうに口を尖らせる。そしてガリガリと頭を搔いて、仕切り直すように言葉を紡いだ。



「昔の俺はさ、正直……ゴミもいいところな奴でさ。今の俺は、アイツがいたから出来上がったようなもんなんだよ」


「へぇ」


「だから、なんっつーか……アイツはだから、俺にとっては本当に、無二の親友なんだよ」


「……なんか、四郎ってやっぱ、河野君のことは特別扱いしてるよね」



 四郎は優花里に言われ、「まあな」と頬を指先で掻いた。



「……アイツと関わるようになったのは中学の頃からなんだけど。……アイツは、それまでいなかった奴だったから。だから、俺にとって、こんだけデカい存在になったのかもな」



 四郎は恍惚とした表情で、遠い過去を見つめながら、語る。



「……やっぱきっかけは、デパートで迷子を見つけた時だったな……」

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