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第16話「複雑な乙女心」②

 ――朝。目が覚めると、私は、その瞬間に、大きなため息を吐いた。


 昨日はあれから、家に帰って、ふてくされたようにすぐに寝た。そうしたら夢にあの出来事が現れて、私は、寝逃げでリセットと言うわけにもいかなくなり、朝の眩しさがやけに脳を締め付けた。


 昨日の自分の発言は、あまりに最悪だった。追いつめられていたとは言え、もう少し、何か、言葉を選ぶべきだった。


 無理、だなんて。あれでは完全に、河野を嫌っているみたいじゃないか。私は頭を抱えて、頭痛にでも苛まれるようにうつむいた。



「……流石にアレは無いわ……。いくらなんでも、他になにかあっただろ……」



 もしもこれが理由で嫌われたらどうしよう、と、そんな不安が頭をよぎる。それと同時に、『だったら、あんなこと言わなければ良かったのに』と、そんな後悔も湧き出てくる。


 ……とにかく、今日は、アイツと会ったら、何よりもまず謝らないと。私はひとまずすべきことを浮かべて、「うん、」と呟き、ベッドから立ち上がる。


 ふと。私は、昨日の河野の姿を思い出した。



『どうか、僕の気持ちを――』



 ――。きっと、あれは、間違いなく、愛の告白だ。


 でも、だとしたら――謝ったとして、私は一体、どうすればいいのだろう。私は、追い詰められていく感覚に、奥歯を噛み締め、強く拳を握り締めた。



◇ ◇ ◇ ◇



 家を出て、しばらく歩くと、またしても、私は河野の後ろ姿を見つけた。


 大学までは、まだもう少しかかる。私はここで彼に話しかけようと、昨日のように、そろりそろりと、河野に近付こうとした。


 けど、そうしようとして、足が止まった。話しかけたとして、それからどうすればいいのかがわからなかったからだ。


 もしも、あの言葉の続きを聞くことになったら――私は、どう答えればいいのか。


 だけど、もしも普通に受け答えたとして、そうしたら、私たちの関係性はどうなってしまうのか。少なくとも、今まで通りと言うわけにはいかなくなるだろう。


 だけど、そんなことは、絶対に嫌だ。私は呆然と、彼の背中を見続けていると――



「……ん?」



 河野が、私の方を振り返った。私は、彼と視線が合ってしまい、ドキリと体を小さく震わせてしまう。



「あ……お、はよう……河野」


「あ……お、お、おはよ、姫川……」



 河野は気まずそうに、私から顔を逸らした。


 互いに向かい合ったまま、動きを止める。息苦しさを煽るように車が通り過ぎ、排気ガスの匂いや、青信号のぴよぴよとした音が過ぎ去って行く。


 どうすればいいのだろう。そんな迷いを持ちながら、私は、とにかくと言う感じで、「あっ、」と吃らせた声を発すると、その時だった。



「……昨日は、ごめん」



 河野が、私が言うよりも先に、私にそうと謝って来た。



「その……アレは……なんて言うか……。別に、なんでもないから。だから、その……気にしなくて、いいから」



 河野はたどたどしく、言葉を紡いだ。私は彼に便乗するように、「あ、う、うん……」と返事をする。



「だから…………。…………これまでと、変わりなくしてくれると……助かる」


「あ…………う、うん。……そう、だね」



 私はそう言うと、ゆっくりと、彼の隣にへと足を運んだ。



「……行こっか」


「……うん」



 たどたどしいながらも、私と河野は言い合って、学校までの道を、ゆっくりと歩き始めた。


 ……そうだ。これで、いいんだ。今まで通り――友達として、過ごしていければ。


 これは私が望んだ結末だ。だって、私には、恋人なんていらないから。


 これでいいんだ。こうじゃないとダメなんだ。私は何度もそうと心で呟き、ずっと黙ったまま、河野と共に大学へと向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



 その後、河野は私と、これまで通りの付き合いをしてくれた。


 最初こそ気まずくて、何の話をすればいいか分からなかったが、少しもしないうちに、ゲームのガチャがどうとか、学校の勉強がどうとか、そんな他愛もない話をすることになった。


 そうして私たちは、気が付けば、以前のようなテンションで過ごすことができるようになっていた。


 恋とは無縁の関係。男と女とで成立した友情と言う関係性。互いに気が置けなくて、でも、どこか近過ぎるわけでもないような、そんないい感じの距離感。


 私と河野の、ベストな位置。ここから先へと進んだら、互いの関係性は、一気に瓦解する。


 そんな距離感で接するようになって、2日ほどが経過し。木曜日の夕方、私は家に帰ろうと、大学の門を通り過ぎた。


 ――その時だった。



「あの、すみません」



 突然、知らない誰かから声をかけられた。


 ティッシュ配りの何某か、あるいは変な勧誘か。そう思いながら、鬱陶しいなと視線を向けると、


 そこには、やけに爽やかな感じの、茶髪の、シャキッとしたイケメンが立っていた。



「姫川さん、だよね?」



 私はイケメン野郎に名前を呼ばれ、些かドキリとしてしまった。


 なんでこいつ、私の名前を知ってるんだ? いや、ていうか、コイツ一体誰なんだ? 私は背丈の伸びた高身長にビビりまくって、一歩足を退けた、その時だった。



「ああ、ごめん。俺、青山って言います。……河野真白の友達です」



 見知った名前を聞かされ、私はハッと、目の前の男を見つめた。


 河野の友達……? この、見た感じでわかる陽キャ男子が?


 ウソだろ? いや、アイツたしかに、何気に交友関係広いけど。でもお前、流石にこのイケメンとは、なんというか、カーストが違い過ぎる。ロミオと白馬の王子様くらい違う。



「……その、突然で変だって言うのはわかるんですけど。ちょっと、話がしたいです。……よかったら、今からファミレス行きません?」



 青山、と言うイケメン男は、私にそうと提案した。


 これがもしも、ただのナンパだったら、中指でも立てて逃げ帰るところだが。


 しかし今回は、あの男の名前が出てきている。となると、そんなの、断る訳にはいかなかった。



「……わかった」



 自分でも驚くほどに、簡単に返事が出た。


 そうして私は、警戒心を強く打ち鳴らしながら、この謎の男と共にファミレスへと向かった。

評価、感想、レビューなどを頂けるとモチベーションに繋がります故、よろしければお願い致します。


※追記

詩子と四郎が出会った日が水曜日と言う記述がありましたが、計算ミスです。木曜日に修正しました。

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[一言] 愛の告白という確認作業を経て関係を変えていきたい真白君と居心地の良い関係からの変化が怖くて告白させるのを止めてしまう詩子さん。 詩子さんが真白君に甘えて真白君が感情を抑える努力をしているとも…
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