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第15話「運命とは都合のいいものでは無い」②

 ――あの時。何年ぶりに真白と本屋で再会した、あの日。私はそれを、『運命』だと思った。


 だって、私は正直、アイツがどこに進学したかなんて知らなかった。あの時言えなかった「ごめんね」を、私はいつも引きずり続けて、だけど、結局、何年経っても、何十年経っても、それが罪悪感として残り続けるのだろうなと、そう思っていた。


 でも、私は出会えたのだ。アイツと。真白と。自分の罪悪感を晴らすチャンスだと思った。


 でも、土壇場で私は怖気づいた。それで、食事に誘ったり、とりあえずLI〇Eを交換したりして、必死に、自分の勢いがつくそのチャンスを待っていた。


 そうしているうちに、私は、会いたくなかった男とも再会した。あまりに最低なことを言われて、ムキになって食って掛かったら、真白はしかし、そんな私を止めてくれた。


 昔の私なら、あの対応を疎ましく思っただろう。だけど、ある程度大人になった今、アレができるというのが、どれほど凄い事なのかを実感している。

 真白がゲームセンターで見せた、『何もしない』というあの選択は。私から見て、満点に近い回答だったように思えた。


 それからアイツと逃げて、ちょっと、雰囲気がよくなって――ここしかないと思って、私は自分の気持ちを打ち明けた。


 そして、気が付いたら、ぽっとあの言葉が出てきてしまったのだ。



『……あの時の告白さ。まだ、有効だったりする?』



 ――我ながら、大層に女々しいと思ったけど、でも、あの言葉が出て、私は自分の気持ちを理解した。


 ああ、なるほど。私、コイツを、『良い』って思ったんだ、って。


 だけど、そこで断られて、私はそれで、ますます『良い』って思った。アイツが見せたあの表情には、どこか、誠実であろうとする精神が垣間見えたからだ。


 ――でも。それは同時に、私の中に、ひとつの不安を思わせた。


 それは、もう既に、アイツの中に、『特別』が存在していると言う、その可能性だ。


 そんなことはないって、私は自分の中の結論にしがみついた。だけど、それは所詮、私の中にしかない結論で。


 ――いや、まだだ。まだ、チャンスは、きっとある。私は不安を掻き消そうと、そう心の中で何度も呟いた。



◇ ◇ ◇ ◇



 ――土曜日。僕は、今朝方に清水から送られてきた待ち合わせ場所へと来ていた。


 場所は、家からそれなりに歩いた先の、この町でも栄えた部類である駅前。僕はそこで、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、まだ昇り切ってはいない陽の見える空を呆然と眺めていた。


 待ち合わせの時間は10時。現在時刻は、9時45分。まあ、これくらいの時間だろうと言う感触で、僕は彼女が来るのを重苦しく待っていた。


 ――と。



「わっ!」



 後ろからそう声が聞こえて、僕は思わずビクリと身を跳ねさせてしまった。


 体を向けると、そこには、清水がいた。



「――驚かせないでよ」


「アッハッハ! 待った、真白?」



 清水はそう言って、僕の顔を笑顔で覗き込んだ。


 今日は一段と、気合いの入っているように見える格好だった。白いもこもことしたコートを羽織り、袖から指先を出して、所謂萌え袖を作っている。冬で気温が低いと言うのに、ズボンではなく丈の短い茶色のスカートを履いていて、太ももから先が露出している。コートの下には薄い赤のシャツを着ていて、落ち着いた他の色との良いアクセントになっていて、思わずそちらへと目を向けてしまう(流石に胸元なので、すぐに逸らすのだが)。


 鞄も小さくて落ち着いた色の、少し高級感のある物になっている。髪の毛はゆるふわな様相で、いい具合にボリュームがある感じの巻き髪をしていた。前髪も額が右半分だけ出ているような造りになっていて、それがそれとなく明るさを醸し出している。


 それだけじゃない。唇もいつもより、ピンク色が輝いて見えたし、肌もどことなく白かった。その上で頬にはやや赤みがかったチークが薄く塗られていて、どうやら、化粧にも全力を出してきたのだろう、と言うのが見て取れた。



「……待ってはいないよ。さっき来たとこ」


「待ち合わせまで時間あったのに、早く来てくれたんだね。ありがとう」


「それを言ったら、君だって少し早いじゃないか」



 僕は彼女から目を逸らしながら会話を続ける。しかし清水は、「ん~?」と言いながら、にやにやとこちらを見透かしたように笑い、視線を逸らした先へと目線を合わせてくる。


 身を屈んだ拍子に、少しだけシャツの下が見えた気がした。僕はドキリとして、急いで顔をまた別の方へと背ける。



「……真白。今日の私見て、言うことない?」


「……べ、別に……」


「そんなことないよね? だって、凄く顔赤いもん」


「……それは、その……だって、えっと、み、見えそうだったから……」



 僕が申し訳なさそうにそう言うと、清水は「えっ」と言って胸元を手で隠した。


 と、しかし。清水はすぐに僕の方へとにんまりとした笑みを向け、すると、前かがみになるように僕に迫った。


 僕はドキリとして身を後ろへ引く。清水は「あはは」と笑って、僕に可愛らしい笑みを向けた。



「かわいい? 真白」


「……まあ、その……似合っては、いる」


「かわいいってことで良いんだよね?」


「……」



 僕は何も言わず、ゆっくりと頷いた。すると清水は更に嬉しそうに笑った。


 ――ああ、クソ。なんでこんなに、良い雰囲気になるんだ。僕は図らずも高鳴る心臓に、焦りを覚えた。


 今日僕がここへ来たのは、彼女に思いを伝えるためだ。だとしたら、デートになんて行っている場合じゃない。とにかくいち早く、気持ちを伝えないと。僕は苦虫を噛み潰すように奥歯に力を込め、大きく深呼吸をして、清水と向かい合った。



「――清水。君には、伝えなきゃいけないことが……」


「真白!」



 と、そう言って清水は、突然僕の手を掴んできた。



「そんなの、いいから。早く、行こ。デート」


「――……」



 僕は彼女が眩しく笑うのを見て、ますます心が苦しくなるのを感じた。


 と。僕はパッと、清水の手を、無理矢理に振り払い。



「ごめん、清水。その、とにかく、僕は、君に――」



 そう声を捻り出すと、しかし、清水は、またしても僕の手を掴みに来た。


 ぎゅっと握られる手から、強く体温を感じた。今度はさっきよりも力が強くて、僕はその密着感に思わず声を失くしてしまった。



「――真白。その、実はさ。もう、予約してあるんだ。ご飯の場所」



 清水は僕の片手を、両の手で、強く、しっかりと握りながら告げた。



「お昼も、夜も、もう、場所、決まってる。私さ、今日のために、一生懸命デートプラン、練って来たんだ」


「……」


「本当はこういうの、男の子の役目なんだからね。でも、今日は特別。だけど、真白。代わりに、今日は、私に付き合って。キャンセルしちゃうと、お金ももったいないしさ。……お願い」



 僕は声を出せなくなった。そうまでされているのに、断るわけにはいかなくなったからだ。


 そうして、僕は結局、彼女に話をすることもできないまま、「……うん」と小さく首を縦に振った。



「よかった!」



 すると、清水はにぱっと笑って、僕の手を引いて走り出した。



「ほら、行こう! 向こうに車、停めてあるからさ!」


「あ……」



 僕はその、強く僕の手を握る手に引きずられるようにして、彼女の後ろをついていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 真白君の心が決まってなかったら普通に押し切られてたんだろうなぁって感じですね、すごくつよい。
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