表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/152

第9話「女には、負けるとわかっていても挑まねばならない戦いがある。②」

更新遅れて申し訳ございません。賞用の原稿がもうそろそろ仕上がりそう(と言っても応募の前提条件の枚数になりそうなだけですが)なので、集中し過ぎてました……。

「……それで、話ってなによ」



 帰り道。心春が口を尖らせ私に話しかけてくる。私はしばらく目線をあちこちに動かしてから、やがて意を決して彼女に自身の気持ちを明かした。



「……。その、実は、アンタ呼んだのには理由があってさ」


「いや、そらそうだろうけど。それで、なに?」


「えっと。……その。私、なんって言うか……好きな人が、いる……ってか……」



 私が酷く遠回しに言うと、心春は「えっ、まさかやっぱり河野が……?」と不安そうな表情を浮かべた。私は即座に「違う」と言い返し、観念して、単刀直入に意味を伝えた。



「その。好きな人ってのは……まあ、詩子……のことで……」


「…………ん? え、え? もっかい言って?」


「いや、だから。私…………。……詩子のことが、好きで……」



 心春は私の言葉を聞いて、困ったように眉端を下げた。しばらくぽくぽくと考えてから、「その好きって、友達としてって意味じゃないよね?」と尋ね返してくる。私はそれを聞き、「んん……違う」と小さく返事をした。



「え、ええ? じゃあ、由希さんって……」



 心春がギョッとした表情でこちらを見てくる。私は彼女の言わんとしていることを把握し、小さく首を縦に振った。


 心春は私の返答を見て、「うわ……えっ、え~……マジかぁ……」と、若干引き気味の反応を示した。



「その……キモいのはわかってるけど、えっと……」


「あー、ごめん。そういうことじゃなくて……。……いや、そ、そう言うことだよね。……なんて言うか、ごめん……」


「あ、う、うん。いや、慣れてるし、いいけど……」


「慣れるもんじゃ無いんだけどね。……あー、あ~……そっか。てなると、そういうことかぁ……」



 心春は額を押さえ、どうやら色々な物を察したらしい表情で唸りをあげた。



「……いや。だとしたら、それめっちゃ辛いじゃん」



 と。心春は私の予想と違って、至極真っ当な返事をした。



「……引かないの?」


「え? あ、いや。……ぶっちゃけ引いてるけどさ。そういうことじゃなくて。ようは、失恋なわけでしょ? あ、いや、そうと決まったわけじゃないけど。だったらやっぱりさぁ」


「……自分もそういう目で見てたのって思わないの?」


「ちょっとは思ったけど。いやでも、私だって男だったら誰でも好きになるわけじゃないし。それと同じでしょ?」



 心春はそうと言ってやや首を傾げた。どうにも、彼女は私のこの特異性を理解してくれているようだった。



「とにかく、う、う~ん……。その、なんて言うか……。……げ、元気出しなよ」


「あ、あはは……ありがと」



 私は心春の下手なフォローに作り笑いを返した。とは言え、慰めてくれようとしてくれたのは嬉しかった。


 けれど、どうやら彼女はあまり快く思っていないようで。しばらく「う~ん……」と唸っていたかと思えば、私の目を見つめて、ぽつりと尋ねた。



「……今から暇?」


「え? ま、まあ、予定はないけど」


「じゃあさ、カラオケ行こ! あとどっか飲み行こ!」


「はァ!? え、なんでいきなり!?」


「だってさ、嫌なことあったらとりあえず発散しようよ。そうしないとやってらんなくなるしさ。だから、ほら。行こ!」



 そう言って心春は私に手を差し出してきた。


 ……なんと言うか。私はぽかんとして、彼女の手を見つめた。


 凄く複雑な気分だ。目の前の女は、私の好きな人の恋敵なわけで。もしも彼女がただのクソ野郎なら、私はキッパリと彼女を切り捨てられたのに。


 しかしどうやら、心春は良い奴みたいだ。そうなってくると、私はどこか、彼女を応援したくなってしまう。


 だって、私の秘密を知って、それでもこうやって手を差し伸べるなんて。そんなの、幸せになって欲しいじゃないか。


 でもそれは、同時に詩子の不幸を願うことにもなる。私は彼女の手を取る事が出来ず、



「遅い! ほら、行くよ!」



 心春はしかし、私の手を無理矢理取ってグイグイと引っ張り出した。私は「うぇっ!? ちょ、ちょっと!」とギョッとしてしまった。



「なに?」


「あ、いや。…………まあ、いっか」



 私がそう言うと、心春は「ヨシっ!」と言ってまた歩き始めた。私は心春の隣に並び、「別に、歩けるから」と答えて手を放した。


 そうしてこの日は、カラオケに行ったり、心春のオススメのバーに行ったりをして過ごした。



◇ ◇ ◇ ◇



「いやぁ、飲んだね」



 心春は少し顔を赤くさせながら、べろんべろんにそう言った。私もややフラフラとしながら、「ウイ」と彼女に行った。


 時間はもう深夜だ。散々飲み騒ぎをしたせいで、喉に若干来ている。私は大きくため息を吐いて、心春の横をゆっくりと歩いた。



「どうだった、由希?」


「え? あ、うん……楽しかったけど」


「ならよかったぁ~。疲れさせてたらどうしよっかなぁ~って!」



 そう言いながら心春はケラケラと笑った。酔ったせいもあるのだろうが、声が大きいし、やけに楽しそうだ。



「……なんか、ごめんね。気を遣わせちゃって」


「いいんだよ、私がそうしたかっただけだし~。それに~、由希ちゃん楽しいから、一緒にいても全然平気~」


「あ、アハハハ……」



 大分酷く酔っ払っているな。どうやら、よく飲む割にはそこまで強くはないみたいだ。いや、と言うか、ウォッカをストレートで一気に行ったりしたのがまずかったのだと思うが。


 けれどまあ、まだゲロを吐くほどでないから大丈夫だ。私は心春が気持ち良さそうに笑っているところを見て、なぜかよくわからない安心感を覚えた。



「……あ、そう言えばだけどさぁ」



 と。心春は突然私の方を見ながら、そうと呟いた。



「由希ちゃんさ。姫川さんのこと、好きなんだよね?」


「そ、そう言ったじゃん。なに、一体」


「じゃあさ~。よかったらさ、私と組もうよ」



 私は心春の言葉に驚いてしまった。


 組もうって言うのは、どういうことだろうか。いや、言っている意味は、恐らく予想出来ている。ただ、まさか彼女の口から、そんな提案が浮かぶとは思わなかったのだ。



「……組むって言うのは?」


「だからぁ。私は、河野が好き。姫川さんは、私のライバル。んで、由希ちゃんは、姫川さんが好き。ならさ、どうにかして、姫川さん、河野とくっ付かないようにできないかなぁって。そしたら、由希ちゃんも、姫川さん取られずに済む! みんなハッピーエンドだよ?」


「……」



 私は一瞬、彼女の提案に呆然とした。


 信じられなかった――からではない。彼女の提案に、私は思わず、飛び付きそうになったのだ。


 なにせ、そんな都合のいいことはない。姫川が私に振り向くかはさておき、少なくとも、彼氏ができると言うその状況を回避することはできる。ほとんどないかもしれないけど、チャンスがゼロになるわけではないということだ。


 ――だけど。だからこそ、私は、そんな邪な感情が生まれた私自身に、どうにも嫌気が差してしまった。



「……ごめん、心春。私、そういうことできない」


「……そっか。まそうだよねぇ。ごめんね、突然変なこと聞いて」



 心春はへらへらとしながらも、どこか申し訳なさそうにしゅんとした。どうやら、彼女自身、あまり良くないことを言ったという自覚はあるようだ。


 ――そう。そんなことはできない。自分のために、詩子の心を裏で操るなんて。


 仮に私が、それで詩子と付き合ったとしても、私はもう、二度と詩子に向き合えなくなってしまうだろう。もう、アイツの友人でいる資格でさえも無くなってしまうのだ。



「……そういえば、そろそろクリスマスか」


「そろそろぉ? まだ2週間も先だよ。コンビニとかはさあ、気が早いからねぇ」



 私は歩きながらぽつりと呟く。


 ……そう。そろそろ、クリスマス。カップルが恋人と過ごす、特別な日。


 ――ああ、だとしたら。その日までに、私は、ケジメをつけなきゃいけない。私は誰のためというわけでもなく、自分の心の中で、勝手にそうと決意を固めた。

特別な日……私にはそんな日来たことないのですがね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 純愛してますねぇ。 異性愛者が異性なら誰彼構わず対象として見るかと言えば当然違うように同性愛者も対象として見る相手は限られるんですよね。 ところが何故か不思議なことにそうとは見られない偏見…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ