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第9話「女には、負けるとわかっていても挑まねばならない戦いがある。」

サブタイトルがどうしても決まらなかったので、取り急ぎ更新だけして、また改めて付け直そうかなと思っています……。ごめんなさい。

 ピコピコとスマホが鳴る。僕はポケットからそれを取り出し、画面に映ったメッセージを読んだ。


『もう入って来ていいよ』

『ごめんね』


 清水からのLI〇Eだった。僕は大きく息を吐きながら、マ〇クの扉を開けて店内へと入った。


 暖房の聞いた屋内へと入り、眼鏡が一気に曇っていく。僕はややしかめっ面をしながら眼鏡を取り、レンズを服の裾で拭くと、清水が僕の方へと話しかけてきた。



「河野。こっち」


「ああ、うん。わかってるよ」



 そうして彼女のいる席につくと、僕はふと、天音さんがいなくなっていることに気が付いた。



「あれ? 天音さんはどこにいったの?」


「あー……トイレ。……ねえ、河野。アンタの知り合いってさ、みんなあんな感じなの?」


「え? ……天音さん、悪い人じゃないと思うけど。何かしたの?」


「いや、なんか突然泣きそうな顔になったかと思えば、トイレ行ったからさ。一体なにがあったんだろって」



 ……? それは、確かに気になるな。僕は普段見ている彼女らしからぬ言動を聞き、「なに、あったのかい?」と清水に尋ねた。


 しかし清水はと言うと、本当に心当たりがないと言う感じで、「ん~……」と眉間にしわを寄せ、結局「わかんない」と肩をすくめた。



「まあ、でも、ちょっとこの間の姫川さんのことは話したけど。いやでも、別にバカにしたわけじゃないし、由希さんのことも悪く言ってないって言うか」


「んん……それでも、そんな、人前で泣くような人ではないのだけど」


「うん。それは私も感じたんだけど。……どうしたんだろう、一体」



 清水は本当の本当に悩んでいる様子だった。さっきは少し文句があるような口ぶりだったが、それ以上に、天音さんのことをどこかで心配しているような、そんな雰囲気が見られた。


 そんなことをしていると、トイレの扉が開き、天音さんが現れた。



「ごめん、ちょっと」



 天音さんはやや気まずそうに、しかし気さくな様子で僕らに手を挙げながら、こちらへと近寄って来た。


 清水が「いいよ」とほのかに笑う。僕は黙って天音さんが席につくのを待ったが、彼女が目の前に来た途端、ハッとあることに気が付いた。


 目元がわずかに腫れている。いや、よくよく見ると、目が赤い。清水が「泣きそうな」と言っていたが、僕が思った以上に、強く、激しく泣いていたようだった。



「天音さん、大丈夫?」



 僕ははっと気づいた時には、声を出していた。しまった、と思った時には、天音さんがこちらを見て、やや呆けたような表情をしていた。



「……え?」


「あ、いや……なんか、ごめん。ちょっと、心配になったから」


「なんそれ」



 天音さんはそう言ってくすりと笑った。だけど、その笑いは、心の底から出たというよりかは、酷く乾いた――もとい、何かをごまかそうとしたいがための笑みだった。


 触れるべきではなかった。僕は彼女から顔を背け、なんとも言えない気まずさに苛まれた。



「まあ、ありがとう、2人とも。今日は」



 と、天音さんが僕らに向けてそうと言った。清水は目を大きくして、「え、もういいの?」と天音さんに尋ねる。



「うん。私はまあ、ね。……ん、うん。もう、でよっか。あんましいてもしょうがないし」



 天音さんは落ち着いた笑みを浮かべながらそうと言った。僕は場の雰囲気に流されて、「う、うん」と小さく言うと、そこで清水が「ちょっと待って」と声をあげた。



「せめてなんか買ってから出ようよ。流石に集まるだけ集まって、なにもせんと帰るってなったら申し訳ないじゃん」



 清水はそうと言いながら、女性の店員さんが接客をしているカウンターへと並んだ。


 僕は「そうだね」と言いながら、天音さんと一緒にその列へ並んだ。



◇ ◇ ◇ ◇



 手軽なサイドメニューを買い、僕たちは外へと出た。


 冬の夜風が吹き、体が冷気に包まれる。僕は少しだけ身震いをすると、目の前の2人に声をかけた。



「これで解散でいいのかい?」



 僕が尋ねると、天音さんが「ん、いいよ。私の用は済んだ」と言い、清水の方はやや首を傾げながら、「まあ、アンタがそう言うなら」と頷き返していた。



「あ、けどさ。ちょっと、ほら。その、時間。遅めだしさ」



 と。清水はそう言って、僕の方をちらりと見た。僕はドキリとして、しかし次いで、天音さんの方へと視線を移し。


 ――どうしようか。そんな迷いが、胸の中に生まれた。



「……あー、ああ。まあ、うん。送ってくよ」



 とは言え、女の子を一人で帰らせるのも悪い。僕はとりあえず、清水の(暗黙の)提案に了承をした。


 清水が少し喜んだ様子を見せる。僕はそれに、なんともやり切れない気まずさを覚えた。


 ――と。



「あー、河野。ごめん。私、もうちょっと心春さんと話したい」



 天音さんが、突然僕にそうと伝えてきた。


 鶴の一声だ。僕はこのまま天音さんに任せてしまおうと考えたが、そこで清水は、「えっ」と驚いたような声をあげた。



「ちょ、べ、別にいいって。ほら、あれじゃん! お、女の子だけだと、危ないしさ」


「いや、河野と行くよりかは万倍良いと思うけど」


「いや、でもさあ! ほら、やっぱり――」



 僕はそこで思わず、「まあ、悔しい事に、天音さんの方が下手な男よりは頼りになるよ」と口をはさんでしまった。



「えっ、そ、そんな! いやいや、やっぱ男の方がいいって!」


「ん……こんなこと言うとあれだけど、僕が天音さんとガチで殴り合ったら、たぶん殺されるよ」


「え? そんなばかな……」



 清水が『そんな大袈裟な!』とでも言うように苦笑いを浮かべ、天音さんの方を見る。


 と。天音さんは、どうやら財布から取り出したらしいゲームセンターのコイン(なんであんなもの持ってるんだろう)をこれでもかと言うように僕たちへ見せつけると、その瞬間。


 コインを摘まんだ親指と小指で、ぐにゃりとそれを曲げてしまった。



「うそやん……」



 清水が呆然と声を出す。僕も全く同じ気持ちだ(と言うか握りにくい小指でやるってなんだよ)。



「ん、まあ、こういうこと。じゃあ、それでいい? 心春さん」


「えー……」



 清水はそう言ってまた僕を見つめてきた。


 なにが言いたいかはわかるけど、正直困る。僕は彼女が僕と帰りたいと言い出さないことを願った。


 ――と。



「河野。明日暇?」


「え? あ、ああ、暇だけど……」


「じゃあデート行こ」


「え?」


「決まりね。それじゃあ、また」



 清水は一方的に僕に言うと、そのまま天音さんと並んで帰り出してしまった。


 ――どうしよう。困ったな。僕はどこかムズムズとした感情を抱きながら、一方で、やはり、拭いきれないような何かがべっとりと体に張り付いていた。

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