第8話「ハーレムエンドのラブコメのような誰も傷つかない都合の良い恋愛は存在しない」②
「この作品の本編(予定している第三部)終了後」という体で新しくほのぼの日常系恋愛モノ書こうかなって考えてるのですが、需要ありますかね……? 一応予定段階では、この作品とは打って変わってかなりイチャラブしてる感じの甘ったるい感じになってるのですが。
――やけに、足元がおぼつかない気がする。
私はマク〇ナル〇の店内で、机に座りコーヒーを飲んでいた。
今日は、河野の女友達に会う日だ。2日、3日程度の期間を待ったが、ずっと大会の前日のような緊張が拭えず、ベッドに入っても寝付けなかった。
正直なところ、家に帰りたい。だけれど、それだといつまでもこの緊張は拭えないだろう。私は口を固く結んで、大きく鼻息を鳴らした。
――と。出入り口のドアがカランカランと鳴り、そして、2人の男女が現れた。
河野と、知らない女だ。しかし女と河野はそれなりに仲が良さげで、アイツが件の女友達だということが見て取れた。
――まあ、なんというか。かなり垢ぬけた雰囲気で、かわいらしい。黒い髪の毛はつやがあって、動く度に滑らかにさらさらと流れている(見た感じ黒染めなのだろうが)。
「あ、天音さん」
と、河野がこちらに気付き軽く手を挙げる。私は「よ」と軽く返して、そして、私の対面に座る女の方を見た。
「……そっちは?」
「え、あ、ああ……わ、私は清水。清水心春。よろしく」
心春、と名乗った女はちょっと私を怖がっているようだった。少し気を張り過ぎたのかもしれない。
「私は、天音由希って言うの。河野とは友達」
「へ、へぇ……。……」
心春は明らかにこちらを警戒していた。というか、警戒と言うより、これはもはや敵意と言ってもいいだろう。
知らない物を見た猫のように、こちらをジッと睨みつけている。しばらくしたらパンチでも飛んできそうだな、と、この状況にそぐわないことをなんとなく思った。
「……ま、前にも、こういうことあったよね、河野」
心春は私から視線を逸らしながら言う。河野はバツが悪そうに、「あの時は、ごめんね」と謝り、心春は「いいよ別に、そんなの!」と努めて明るく言った。
「それよりも。……天音さん、その、なんで私と会いたいって?」
「ちょっと確かめたいことがあっただけ。ごめんね、知らない奴にいきなり会わされて。そっちも正直、キツイって思ったと思うけど」
「あ……あはは、正直。その、前のこともあったし……」
心春は笑顔を引きつらせてそうと言った。私は努めて冷静に心春を見つめ、彼女が以前会った人物と言うのに言及した。
「前のってさ。うた……姫川のこと?」
「えっ……あ、うん。え、やっぱし知り合いだったんだ?」
「ん。友達。……うん、友達」
「……?」
「いや。まあ、心春さんに会いたいって言ったのも、元はアイツが理由」
「お、おお……いきなり下の名前……」
「別にいいでしょ、女同士だし」
「ま、まあ、そだね。……あの、もしかしてだけど、固くならなくていい?」
「ん。ごめんね。たぶん私のせい。まあ、別に、気にしなくていいから。過ごしやすい感じでいて」
私がそう言うと、心春は「な、な~んだ。私、てっきり……」とほっとしたように呟いた。
……てっきり、なんなのだろうか。私がそう思った瞬間、「あのさ」と心春が私に話しかけてきた。
「その、友達の事を言うのはアレだけどさ。ぶっっちゃけ、その、私、あんまり姫川さんに良い印象が無くて」
「ん? ……姫川と、なんかあったの?」
「いや、その……。……えっと、ごめん、河野。ちょっと、また席外してもらえる?」
河野は心春に言われ、「えっ、また? まあ、いいけど」と言って、首を傾げながらも割と素直に店の外へと出て行った。
なんとも言えない緊張感が、私と心春の間に流れる。すると心春は、「えっとね」と言って、ピリついた空気の中で口火を切った。
「その、私……前姫川さんと会った時、ちょっと、バトっちゃってさ」
「え、殴った?」
「バトるってそういう意味じゃないよ! いや、なんていうか。口喧嘩しちゃったんだよね。その、なんか、いきなり突っかかって来て、わけわかんなくてさ。それで私もカチンと来ちゃったって言うか」
「……? 詩子がそんなことを……? アイツ、そんな非常識な奴じゃないって思うけど」
「あー、まあ、うん。まあ、初めて見た時から、なんか格好が痛いから苦手だな~っては思ったけどさ。地雷系と言うか」
「あー……ま、まあ、それは、ちょっと。いや、服装なんて自由なんだけどさあ」
私は思わず口角を吊り上げてしまった。
まあ、いくら好きでやってるとは言っても、正直あのセンスはちょっと。似合ってはいるのだが、似合っているのと良いファッションなのかはまあ別の問題で(高校の頃は普通の私服を着ていたのに)。
「まあ、でも、格好はともかく普通に常識的で良い奴だからさ。だからちょっと、いきなり突っかかる姿が想像できなくて」
「……もしかして、疑ってる?」
「いや。なんとなく、アンタは嘘ついてないなって言うのはわかる。それに、すぐ被害者面するクソ女って感じもしない。ていうか、河野が仲良くしてるんだから、まあまともな奴なんだろうなって」
「……ふーん」
「いや、とにかく。ただ、私も私で詩子とは付き合いがあるからさ。私が知ってるアイツは、そんな意味わからない奴じゃないから」
私がそう言って、気まずさに肩を落とすと、心春も「あー、まあ、実際のところ、そうなんじゃないかなぁっても思ってはいたけどさ」と私に受け答えた。
「どゆこと?」
「えっと、ぶっっちゃけ、さぁ。……ちょっと、話ズレるんだけど…………。
…………その、私さ。実は、アイツ……河野のこと、割と良いなって思ってて」
「え?」
「ちょっと、この辺あんま追求しないで欲しいんだけど。でもとかく、ほら。アイツって、良い奴じゃん」
「まあ、そだね」
「それでまあ、うん。私の事、すっごい大切にしてくれそうだなって。ほ、ほら、男ってさ、なんだかんだそこが一番重要じゃん?」
「まあ、男に限らずだけどな」
「いやまあそうなんだけどね。いやだから、まあ、アイツとは、その、そう言う関係になりたいって……」
「友達じゃなくて恋人、ってことね。……まあ、人の好みって言うのはそれぞれだから……」
私が目を逸らして言うと、心春は驚いたように「えっ、そっちは河野のこと好きじゃないんだ」と少し声を大きくした。
「いや、そりゃあ。あー、他の女子……詩子の友達もさ、無いって言ってたっていうか。ほら、背、私より低いし、髪ちょっとボサったいし、ヒョロってしてるし。あと大体いつもジャージかなんか明らか適当に選んだ服だし」
「その辺はまあ、確かに。髭そってりゃ清潔感あるだろって感覚なのが透けて見えてるって言うか」
「だろ?」
「まあ、でも、意外だわ。……いや、意外でもないか。私だって惚れるとは思ってなかったし。おかしいのは私の方だな」
心春はそうと言って照れたような笑みを浮かべた。
――でも、そうか。私は心春との会話で、大方の内容を把握してしまった。
「……。意外って、思ったってことはさ」
「ん?」
「なんか、そう思う何かがあったってことだよね。普通、アイツと付き合おうって考えてる方が意外なんだし」
私はそうして、確かめるために、心春を見つめながら問いかける。
少しだけ呼吸をし辛くなる。どうやらそれなりに打ち解けたらしい心春は、私の緊張に気付くこともなく、「あーねー」と言って、考えるように天井を見上げた。
「まあ、それが、ようは姫川さんの話なんだけどさ」
「詩子の」
「うん。……バトった理由でもあるんだけどさ。あの子、口じゃ河野のこと、『友達だから』『異性としては見てないから』って言ってるけど、明らかアレ惚れてんのよね。だから、私が河野のこと狙ってるって言ったら、突然キレて、『アンタなんかが、アイツの特別になれるわけがないだろ」って。しかも『アイツに失礼』とか。なんでお前にそんなこと言えんのよって」
私は胃がギリギリと痛むのを感じた。
――ああ、そうか。やっぱし、そういうことなのか。私は激しく動揺してしまって、言葉が、思わず、出にくくなった。
「あー、詩子が、そんなことを、か。い、いや、そりゃまあ……アイツが悪い。ごめん」
「いいよ、由希さんが謝ることじゃないし!」
「ん、まあ、そう、だけど」
――ああ、ヤバい。
抑えきれない。流石にここで、感情を出すのは、ダメだって、わかっているけど。
それでも、心がぐしゃってなって、あふれ出してしまう。
「……ゆ、由希さん? ちょっ、だ、大丈夫?」
心春が私の顔を覗き込みながら声をかける。私は少し呼吸を荒くしてしまって、心春から目を逸らした。
「いや。なんでも、ないから」
「なんでもなくはないでしょ。えっと、ごめん、もしかして、私なんかした? 口が悪い所はあると思うから、その……」
「いや、別に。そういう、わけじゃ……。……ご、ごめん。ちょっと、トイレ」
私は堪えきれず、急いで席を離れトイレへ向かった。
後ろから、心春が首を傾げているような雰囲気が伝わってきた。




