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第7話「自分の気持ちは他人の気持ちと同じくらいにわかり辛い」①

 翌日。私は清水に言われたことを忘れようとして、かなり唐突ではあったが、由希を誘い遊びに行くことにした。


 何かをしていないと、すぐに頭の中にアイツの言葉が浮かんで来た。ゲームやアニメでごまかそうとしたが、どうにもダメだった。おそらく、『一人』と言う状況が、今の私にはアウトだったのだ。



 由希とは、家の近くのコンビニで待ち合わせをしている。私は急いで部屋を飛び出すと、ちょっと転びそうになりながらも例のコンビニの前へと向かった。


 と、由紀はもう既にコンビニ前に来ていて、いつも通りお洒落な格好で私に向かって手を振って来た。



「やっほー、詩子」


「よー。悪いね、突然呼び出して」


「別に、暇だったからいいよ」



 由希はそう言って私に笑いかけた。私は、コイツの変わらない笑顔を見て少しばかり安心した。



「それじゃあ、どこ行く?」



 由希が私に言う。私は「えっ?」とキョトンとして、しばし返答を考えた。


 ――考えていなかった。とにかく、遊びに行こうとしか思っていなかった。私は「えっと……」と間を繋いで、パッと提案をした。



「とりあえず、カラオケ行かない?」


「カラオケか。おっけ、んじゃあ行こ!」



 由希は私の提案に笑って答えた。


 ――なんか、変じゃないかな、自分。私はやけに自分の言動が気になって仕方が無かった。



◇ ◇ ◇ ◇



 電灯の点いた個室内。モニターに映った謎映像と歌詞を見ながら、私は声を出していた。


 歌っているのは、某刀で鬼を殺すアニメのオープニングだ。映画は日本映画史上最大の興行収入を叩き出し、今作のメインキャラクターである男は「400億の男」とも呼ばれている。


 このアニメは陽キャ陰キャ関係なく多くの人が見ており、由希もこれに関してはよく見ていたと言う。曲調も格好が良いし、気分を盛り上げる上では最適な曲だろう。


 そんなこんなで、画面に採点が表示された。結果はちょっと低く88点。まあ、初めて歌った曲ならこんなもんだろう。



「相変わらず高いね」


「こんなもんじゃない?」


「普通は平均点なんてなかなか超えないんだけど」


「あー、まあ、カラオケの平均点って普通に高いしね」



 私は「よっと」と言いながらソファーに座り込んだ。



「まあけど、そもそもカラオケよく行く奴なんて歌好きで上手い奴らが多いし。平均点上がるのも無理ないわな」


「平均って言葉は普通って意味じゃないって言うのがよくわかるよな〜」



 由希はそんなことを言いながら、マイクを握りソファから立ち上がった。


 そして画面に次の曲が表示される。そこには、『君の知ら○な○物語』と言うタイトルが写っていた。



「……あれ? 由希、○物語見たことあったっけ?」


「ん、まあちょっとだけあるよ。けどまあ、この曲は詩子がよく歌ってるから覚えたって言うかさ」


「ま、まあ、中学の頃からの推し曲だからね」



 私はなぜか焦りを覚えた。なんと言うか、今はこの曲を聞きたくない、と言うか。


 とは言え、カラオケで他人の曲を打ち消すのはマナー違反だ。そんなこんなで悶々としていたら、リズム取りのためのイントロが始まってしまい、由希が表示された歌詞を歌い始めた。


 相変わらず、きら星のような雰囲気の、切なくて良いメロディーだ。歌詞の内容も相まって、聞き込むとじんわりとした何かが広まる感じがする。


 アニメがやっていた当時は、ただ本編の内容との関連性に感心していただけだった。一人の少女の、うまく実らなかった恋を歌ったその歌詞に。

 とは言え、当時は誰からの視点の歌なのかがよくわからなかったが。調べてみると、どうやら誰からのものでもなく、本編の内容を知ったアーティストが別の物語を作り、それを歌にした物らしい(ソースは某知恵袋だから確信は無いが)。


 曲がサビにさしかかる。由希がそれに合わせより一層喉を震わせる。私は端末を持ったまま、しかしどうしてか、彼女の歌を聞き込んでしまった。


 由希の歌が上手いから――だけではない。ただ、どうしても、聞きたくないと思っても、耳がこの曲を聞くのを止めてくれないのだ。



『アンタ、本当は河野のこと、好きでしょ?』



 私の脳裏に清水の言葉が浮かぶ。私は端末の画面をそのままに、ただじっと、由希の歌を聞いていた。


 ――本当は私が好きだったのに。突然現れた女の子が、ある日好きな男の子と付き合い出してしまう。歌詞の内容も、本編のあらすじも、おおよそそんな感じだったと思う。


 ……いや。違う。私は別に、そんな内容だからこそ聞き込んでしまったわけではない。

 そうだ。単純に、明快に、由希の歌が上手いのと、かつて見たあのアニメの懐かしさに触れて、心が揺れ動いただけなのだ。アルバムを眺めると、当時の景色を思い出すように。


 あの時を。本編を見ていた中学の頃を。好きでもない彼氏と付き合い始めた高校生の頃を。そして、清水に言われたあの言葉を。


 いや。だから、違う。そんなはずがない。そうであっちゃいけない。


 だって、それだとまるで、この歌が私のことを歌っているようだって――



「……この曲さ、」



 私は由希に話しかけられ、ハッとする。曲が間奏にさしかかり、ほんのちょっとだけ話しをする隙が生まれようだ。由希は止めることなく、言葉を続ける。



「初めて聞いたの、高校の頃だったけど。アンタが歌ってるの聞いて、それでハマったんよね」


「……アニメ見てたんだよね?」


「見たのも高校入ってからだよ。まあ、なんか手に包帯巻いてる奴のところで見るのやめたけど」


「えー、その先も面白いのに」


「んー……まあ、なんか合わなくてね」



 そんな他愛もない会話をすると、間奏が終わり、続きの歌詞が表示された。由希がそれに合わせてまた声を出し、私は努めて目の前の電子端末と向き合った。


 ……そうだ。とにかく、何か曲を入れないと。私は焦って、スマホの中に入っている曲を漁り、その中から手頃な自分の歌える曲を入力した。



◇ ◇ ◇ ◇



 結局あの後は、妙に調子を崩して90点以上を取ることができなかった。私はちょっとだけモヤのかかった頭で、由希と共に道を歩いていた。


 現在は昼の一時を少し上回ったくらいか。尚更1人になるのが嫌になった私は、ちょうど飽きてきた頃合だったこともあり、由希と共に別の場所へ行こうと提案した。


 車が大通りを過ぎ去っていく。コンクリートの道を踏みしめ、駅前の大きなファッションビルへと向かっていく。私はその間、とにかく由希に適当な話題を振りまくっていた。


 どこそこのお店が美味しかっただとか。このアニメが面白かっただとか。なんてことの無い話しを矢継ぎ早にし続け、由希の返事が単調になっていくのも構っていなかった。



「……それでさ、主人公が健気でかわいくてさ。応援したくなっちゃうアニメなんだよね。作画良いし」


「へぇ……」


「個人的には、まあ絵柄が珍しいからマイナーだなって思っちゃうけど、みんなにも見てほしいって言うか。本当に面白いからさ。なんていうか、悪い人がいないって言うかさ」



 そんな話をしていたら、突然、由希が「おっ」とコンビニの方へと目を向けた。


 コンビニには、クリスマスのスイーツの旗が立っていた。私はそれを見て、「はぁー、いちごのケーキかぁ」と声を上げた。



「ケーキって、アンタ食べ物しか見えてないのかよ」


「え? だって、クリスマスって合法的にケーキ食えるイベントでしょ?」


「そりゃまあそうだけどさ。……そっか、ていうか、もうクリスマスなんだ」



 由希はそう言って、少し目を輝かせてのぼりを見つめていた。


 ――ああ、そっか。そうだ。忘れていたわけではなかったけど、そう言えば、そうだった。


 ……由希は、私のことが――



「……詩子さ」



 と。由希が私に、話しかけてきた。私は少しギョッとして、「な、なに?」と声を震わせた。


 クリスマスの予定でも聞かれるのかな。そんなことを一瞬思い浮かべたが、他方、由希が聞いてきたのは、全く、別のことであった。



「さっきから聞こうと思ってたんだけど。……アンタさ、最近なんかあった?」


「え?」



 ドキリとした。心臓をキュッと掴まれたようで、そしてその時、私は、由希がどれほど恐ろしい能力を持っているのか思い出した。


 ――そうだ。由希は、察しが良いんだ。河野と同じくらいに。ほんのちょっとの動作から、何かを感じ取ってしまうくらいに。


 だとしたら、まずい。これ以上、私の気持ちを悟られるわけにはいかない。



「う、ううん、なんでも!」



 私は由希の手を握り、先へ、先へと歩き出した。


 とにかく、ごまかさないと。この気持ちを。でないと、きっとこの関係は終わってしまうから。

※詩子たちは20歳ですが、なぜ○○の刃のアニメを知っているのに中学時代に○物語を見ているのだろう、と感じるかもですが、コ○ンで連載が長くなるに連れガラケーがスマホに変わっていった的なのと同じだと思ってください。あまりその辺りは気にしないで書いています。あまり本編のストーリーに関係ない故。

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