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第6話「人間というのは全体的に面倒臭い」

 人間関係をなにに例えるかと聞かれれば、私はか細いロープだと答える。

 それは一見強靭にも思えるだろう。しかしほんの少し何かがあるだけでプツリと切れてしまう、そんな弱い繋がりでもある。

 これはどんな人間でも変わらないし、どんなきっかけで切れるのかもわからない。

 親、恋人、あるいは友人。どんな関係であっても、それがどんなきっかけであっても、切れる時は切れてしまうのだ。

 相手から不快なことをされたとか。裏切られたとか。あるいは、好きな人を取られたとか。単に連絡が無かっただけだとか。

 だからこそ、崩れ去る時は一瞬だ。乙女ゲーの難解なルート以上にとんでもない地雷と超展開で、現実は、容易く私たちを裁断する。

 ――その日の私たちも。ほんのささいなことをきっかけに、あっという間に、お互いの関係を裁断してしまった。



◇ ◇ ◇ ◇



 大学内。私は一人で、次の講義の準備をしていた。

 先日は河野真白と共にカラオケへ行った後、今日もまた、何かしらで会って遊ぼうということになった。

 振り返ってみると、私と河野の関係は本当によくわからない。

 当初こそ(主に私の認識のために)彼のことは嫌いだったが、今は『普通に接せられる男友達』くらいにはランクアップしている。本来こういったことはありえないだろうと、私は思うのだ。

 人間とは所詮表面の生き物だ。人は大概の人間を『なんとなく』で決めるし、それで付き合う相手を選んでいる。

 オタクはキモイなどと言う輩が未だにいるが、しかし果たして『なぜキモいと思うのか』『そもそもキモくて悪いのか』と考えている人はそれほどいない。いたとしても、『だから悪い』と言う答えに辿り着くために回答を練り込む人がほとんどだ。多くの人にとって、理由なんてものはなく、ただ単に『なんとなく』嫌なだけなのだ。


 しかし、いざその世界に飛び込んでみると、見える景色は全く変わってくる。オタクの界隈なんかはまさにそうで、多くの場合、私たちが好きな作品は、他の人が読んでも好きになれる内容だったりするのだ。


 河野真白はそういう意味でも、まさに『オタクらしい』と言えるだろう。

 アイツは第一印象こそ最悪なのだが、付き合ってみると案外と常識人で、良い奴で、多少面倒臭いところがありながらも、なんだかんだ付き合っていける奴ではある。

 ……考えてみれば、私も、みんなも、アイツを知らなかっただけなのだろう。別にアイツは、確かに変だけど、非常識ではない。ただ人と合わないから孤立しがちで、それが良くない噂としてめぐりめぐってしまうだけなのだ。そして残念なことに、あの手のヤツは外野の声の方が大きくなりやすい。

 ……あんなに良い奴なのにな。私はふと、彼を知らないみんなのことを残念に思った。


 ――と。


「姫川さん?」


 突然、私は誰かに話しかけられた。

 話しかけてきたのは、2人の取り巻きを従えた女子だった。いやマジで誰?


「ど、どうしたの?」

「いやさあ。昨日カラオケ行ったらさ、ちょっと面白いモノ見ちゃってさ」


 ――! ウソ、そんなバカな。私は瞬間、嫌な予感に胃を冷やされるような感覚に陥った。


「姫川さんさ、昨日河野と一緒にいたでしょ?」


 ――ウソだろ。予感は、現実になった。


 見られた。アイツと一緒にいるところを。しかも、女子共(コイツら)に。

 そうなるとこの後の展開は予想できる。私は口を開こうとする女子を眺め、思わず顔をしかめてしまった。


「姫川さんさ、河野と付き合ってるの?」


 出た。コレだ。私は想像通りに運ばれてしまった展開に、酷くため息をついた。

 姫川詩子。オタサーの姫なんかをぶりぶりとやっている、女からしたら気持ちの悪い女の代表格。私と付き合いがない連中が私を見て何を思うかといえば、それは無論、『キモイ』という一言だろう。


 そして『キモイ』私が、周りから浮いていてひそひそと噂される『キモイ』河野と共にいるともなれば、当然面白みが出てくる。

 人が最も仲良くなれる話題がなにかを知っているか。それは、他人の悪口だ。なんとなくキモイ奴を槍玉にあげ刺しまくると、人はどういうわけかえも言われない団結感が生まれ、昂った攻撃性の発散も合わさりとても気持ちよくなる。いじめがなくならない理由もとどのつまりこれで、つまりは、私たち人間は人を殴ることを楽しめるようにできているのだ。

 キモイ私を叩き、キモイ河野も叩き。そんな連中が2つのキモイが合してるのを見れば、当然そこに重大な繋がりがあると踏むはずだ。なぜかって、そっちの方が面白い(つごうがいい)からだ。


「い、いや、付き合ってないよ?」

「えぇ〜、でも男子と2人きりでカラオケ行くとかどう考えてもそうじゃ〜ん」

「いやだから、そういうのじゃないって」


 それ見たことか。私が正真正銘の真実を言おうが知ったこっちゃない。

 人は見たいモノを見たいように見るのだ。どこぞの名少年探偵が真実はいつもひとつとのたまおうが、民衆はそんなもん知るかバーカと少年を嘲笑うかのように真実を歪めていく。


「けど意外〜、姫川さんって〜、河野みたいなのがタイプなの?」

「違うって言ってるじゃん」

「私さ、こんなこと言うとアレだけど、少女漫画の王子様みたいなのがタイプだと思ってた」

「わかる〜、なんか姫川さんって絶対姫系だと思ってた」

「いわゆる3Kしか受け付けない女子って言うかさ」


 おー、こいつら本人を前によくもまあこんなにも失礼なこと言いまくれるわね。私は目の端をぴくぴくと痙攣させた。

 すると女子共が「うわー、もー怒んないでよ冗談じゃん冗談!」とケラケラ笑ってきた。冗談かどうかは私が判断するんだよ。


 キャーキャーとウザったい声が耳元をこだまする。私はイライラとしながら、「ちょっと、」と彼女らのバカ騒ぎに割って入った。


「だから違うって言ってるじゃん。やめてよマジで、そういうの。男子といたら絶対恋愛関係なの?」

「えぇ〜、けど男女に友情は無いって言うし」

「あるよ。あるに決まってる。いやてかそんなのどうでもいいって。だから、私は河野とはそういうのじゃないから。あんな奴、私は本当になんとも思ってないわよ」


 私は言いながら辺りを見回した。恋愛漫画ならここで颯爽と河野真白が登場し、「えっ……」とか言って周りの状況も見ずに1人で変な行動を起こすパターンだ。しかし幸いなことにこの世界は現実なので、そんなありガチイベントは起きやしない。

 しかし最悪なことにここは現実だ。事実とは小説より、とは言うが、人間というのは本当に面倒くさい。案の定他の女子たちは「えぇ〜、図星じゃん」「本気で否定しているところがまたそれっぽい」などと言って話を聞かなかった。


「まあでも、お似合いじゃない? キモくてオタクな河野と、姫川さん。私は応援するわよ」


 1人の女子がそう言って笑う。「ちょ、お前それは言い過ぎ」「どーすんのよ姫川さんが傷付いたら」などと、字面で見れば私への配慮だが、しかしその底に明白な悪意が見て取れる言葉を女子たちが言う。私はムカついてしまって、思わず「あのさ、」と言って立ち上がった。


「さっきからなんなの、一体。私と河野の関係にごちゃごちゃ言ってさ。あんたらには関係ないじゃん」

「え〜、でもやっぱり女子なら恋バナには興味あるっていうか」

「だから彼氏じゃないって。私と河野は単なる友達よ」

「友達って言う割には2人きりでカラオケ行ってたじゃん」

「逆に聞くけどあんたらは友達と2人だけでカラオケ行ったことないの?」

「男子とは行ったことないかな〜」


 ダメだこいつら。私と河野の関係性をどうしてもそういうものにしたいらしい。私は大きくため息をついて、「もういいわ」と言った。


「本当に、あんたら、メンドイ。そういうの。私に話しかけないで」

「ちょっと。さっきから聞いてたら、調子に乗ってんじゃねーよ。なんでそんな偉そうな態度なんだよ。何様のつもり?」

「そっちが面倒くさい絡み方するからだろうが」

「なに? ちょっと話しかけただけじゃん」

「だから、そういうのを言うなって言ってんのよ」

「ほんっとーにめんどくさいなお前」

「そっちが河野のこと詮索するからでしょ」

「うっせーな。だいたい、言われたくないんだったらあんなやつと出歩くんじゃねーよ。自分がどういう目で見られてるか知ってる? そのキモイファッションどうにかした方がいいよ?」

「私が私の好きな服着て何が悪いのよ。つーか、それがなんで河野の話になんのよ」

「ああもう、ウザ。マジでダメだわこいつ。頭おかしい」


 そう言って私に食ってかかっていた女子が離れた。私は追加で文句の一つでも言いたかったが、これ以上言い争いをしても不毛かと思い、今日のところはこれで勘弁してやった。

 Twit〇〇rのクソリプみたいな捨て台詞吐きやがって。私はイライラとしながらも、さっさと次の講義の場所へと移動するために席を立った。

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