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第5話

 私は今日も、例の田中と共に喫茶店へと来ていた。


 ……あれからしばらく経っている。何度かコイツと遊びに行く中で、不思議なことに、私はコイツのことを気になりだしていた。


 ちょっと前は『キモいオタク』くらいにしか見ていなかったが、ちょっとだけ視点を変えて見てみると、コイツの良い所がよくよく見えるようになってきたのだ。


 まずだけど、結構優しい。口喧嘩になった時はめちゃくちゃムカつくけど、そうでない時は基本的に他人に配慮している。

 飲食店に行くと真っ先に私用のコップと箸を用意してくれるし、手押しのドアは開けた状態で待ってくれる。そう言う些細な配慮を私にしてくれる。


 次に、気が長い。コップの水をこぼしたりだとか、間違えてアイスを服に当ててしまったりだとか、そう言うことがあっても、驚きこそすれど、「まあ、まあ」と許してくれる。悠司なら、服を汚されたら一瞬で不機嫌になった。


 あと、自分が悪い時はすぐに謝る。常識と言えば常識だが、悠司はそう言う時、しばらく不機嫌になって、後になって私が拗ねるとようやく、と言う感じだった。



 そして私の中に、ある思いが生まれた。


 ……コイツ、もしかして、悠司(アイツ)よりいい男?


 髪が長くて陰キャ臭いけど、まあ、顔は悪くはない。ナシ寄りのアリ、と言う所だ。


 背も低くはない。男子としては平均くらいか。体付きも細身だけれど、デブよりかはマシだ。


 何より、コイツは将来が約束されている。実家が激太いと言うポテンシャルがあるし、働けない類のオタクではない。案外ちゃんとしたコミュニケーションを取ることができるタイプのようだ。


 ……いや。いやいやいや。そりゃ、アリだけど。私は頭に浮かんだ念を必死で抑えつけた。



「……なあ、お前さ」



 と、田中が私に話しかけてきた。私はビクリと体を震わせ、「なに?」と返す。



「なんか最近変じゃね? 前はやたら高い所連れ回しやがったのに」


「……いや、別に……。……そう言う気分もあんじゃん」



 私は田中から目を逸らしながら答えた。


 正直なところ、気分とかじゃない。なんというか、あまり高い所ばかり連れ回すと、嫌われてしまうのではないか、と思っただけだ。


 ……いや、なんで嫌われないようにしてるんだよ。私は心の中で舌打ちをした。



「てかさ、それより。今見たい映画あるんだけど、見に行かん?」


「なんでお前なんかと映画行かなきゃならないんだよ」


「は? 別に、いいじゃん。送り付けるよ? 写真」



 私がいつも通りに言うと、田中は「ぐっ」と顔をしかめて押し黙った。


 ……そうだ。コイツには彼女がいるんだ。だから別に、そんな気持ちになったところで意味がない。


 クソ。なんで毎度こうもこうも意識しちまうんだ。私は手元にあるアイスコーヒーを飲み込み、変な気持ちを押し込んだ。


 と、途端。机の上に置かれた、田中のスマホがブルブルと震え出した。


 どうやら、LI○E通話が来たようだ。何となく画面を見ると、そこには、『鬼戸川音々』と言う名前が表示されていた。


 鬼戸川……! 私がハッと目を見張ると、田中はスマホを取り、私に背を向け話し始めた。



「ん、どしたの? ……ああ、映画? うん、いいけど。俺は明日暇だけど……あ、君も? なら明日にしよう」



 なんか、笑っている声が聞こえる。ものすごく楽しそうだ。


 てか、私より和やかに話してるし。私には『お前』呼びなのに、鬼戸川には『君』かよ。私は田中の様子にだんだんと腹が立って来た。


 なんだよ、コイツ。相手によって扱い変えやがって。不公平だろ、そんなの。私は机を指でとんとんと叩いた。


 やがて田中は電話を切り、私の方に顔を向ける。先までの和やかな雰囲気とは打って変わって、敵意剥き出しの様子で。



「……て言うか、いつになったら解放してくれるんだよ。もういいだろ、十分遊んだだろ」


「……別に」


「別にって、なんだよ」


「だから、別に」



 私はモヤモヤとした感情を吐き出すように受け答える。田中は「なんだよ」とため息を吐いて顔を下げた。


 ……あ〜、クソ。なんなんだよ、本当。私はツンと頬を膨らませながら、田中に話しかける。



「ていうか、アンタら明日何の映画見に行くの?」


「は? 別にどうでもいいだろ」


「別に、いいじゃん。聞いても」


「何で答えなきゃならないの?」


「いいじゃん、別に」



 私が更に詰め寄ると、田中はため息を吐いてから、舌打ちをして答えた。



「マ○オ。今やってるだろ? アレ」


「あ〜、なんか見たことあるわ。……」



 私は彼の言葉を聞いてから、しばらく黙り込み、



「……んじゃあ、今からそれ見に行こう」



 気が付いた時には、そう彼に提案していた。



「あ? いや、嫌だよ」


「なんで」


「いや、普通そうだろ。明日俺は、彼女とそれ見に行くんだよ。何で前日にお前と見に行かなきゃならねぇの」


「私が見に行きたいって言ったから」


「いやそこは空気読めって。嫌がらせだろ」


「なんでよ。てかさ、それって酷くない? 人によって扱い変えるとか、どうかと思うけど」


「は? ……なにバカなこと言ってんの? あのさ、音々は俺の彼女で、お前は俺にたかるクソ女。扱い変えない方がおかしいだろ」



 なんだよ、それ。私は田中の物言いにプツンと来て、机を叩きながら立ち上がってしまった。



「ちょっと、そんな言い方無いだろ」


「事実だろ」


「事実って……いや、でも、他人に対してクソとか良くないと思うんだけど」


「お前、自分の言ってること理解してんの?」


「どういう意味だよ」



 私が更に詰め寄ると、田中は『ダメだこりゃ』とでも言うように肩を竦めて、私をバカにしたように鼻で笑った。


 本当、コイツ、ムカつく……! 私はバン、ともう一度机を叩いて、彼に強く言い放った。



「もういい。やっぱどうでもいいわ。私、帰る」



 私は荷物を手に持つと、そのまま勢いよく彼に背中を向け店を飛び出した。


 チラリと後ろを見たが、田中は追って来ることもなく、不機嫌そうな顔でポチポチとスマホをいじっていた。


 ……なんだよ、一体。私はもやもやしたまま、そのまま家に帰った。



◇ ◇ ◇ ◇



 喫茶店で田中と喧嘩をしてから、2時間位が経った。私は自分の部屋の中で、冷蔵庫に入っていたお酒を飲みながら、ため息を吐いた。


 クソ。なんで後になってヤケに後悔してんだ、私。私はぐるぐるとおぼつかない思考に心を流されていた。


 あの後、勢いに任せて例の写真を鬼戸川に送り付けようかと思った。だけど、それをするとアイツとの関係性が無くなってしまうと思って、結局取り止めた。


 ……アイツ、終始『訳がわからない』って顔をしていた。

 そりゃあそうだ。だって、私もなんで不機嫌なのかわかっていないからだ。


 口がムカつくとか、理由はあるだろうけど、なんかどれもしっくり来ない。私は髪の毛をガリガリ掻き乱して、大きくため息を吐く。


 と。ピコピコとスマホから、LI○Eの音が鳴った。私は机に置かれたスマホを手に取り、画面をじっと見る。



『今からいっていい?』



 送り主は、彼氏の悠司だった。私はそれを見た途端、ため息を吐き、「めんど」と呟いた。


 今はそう言う気分じゃないし。かと言って、それで断ろうと思ったら絶対またこの前みたいになるし。


 何より、なんか凄く会いづらい。私はスマホを開いて、ポチポチとメッセージを入力した。



『ごめん。今日シフト』



 無論、うそだ。けど、こうでも言わなきゃ、アイツは諦めてくれないだろう。


 しばらくして、ピコピコとまたLI○Eが響いた。画面へ目を移すと、『そっか。なら仕方ないな』と彼は納得してくれた様子だった。


 ……いちいち理由をでっち上げなきゃいけないなんて、本当、アイツは面倒臭いな。私はまた大きくため息を吐いた。


 なんと言うか、やっぱり、いいように利用されているだけな気がする。どう考えても大切にされていないと言うか。


 やっぱり、体目当てってことなのかな。私は大きくため息を吐き、ふと、田中のメッセージ欄へと視線が移る。


 ……鬼戸川と話してる時の田中は、なんか、凄く優しそうだったな。


 鬼戸川は言っちゃあなんだが不細工だ。私みたいにエステとかに行ってるわけでも無さそうだし、そう言う意識は高校の頃から変わっていないのだろう。

 それでも彼は、あの女を選んで付き合っている。つまりそれは、アイツが体目当てで女を選んだ訳じゃないって事だと思う。


 ……悠司とはやっぱり、全然違う。私はそこまで考えると、ふらふらと、よくわからないうちに、彼にLI○Eで電話をかけていた。


 いや、何やってんだ、自分。私はそう思ったが、すぐにアイツが『なに?』と電話を取ってしまって、思考の整理が追いつかないままに話を始める。



「……さっきは、ごめん」


『は? ……別に、いいけど』


「……許してくれるんだ」


『許すとかじゃねぇから。んで、なんだよ?』



 田中が問い掛けてくる。私はもう、なんか、色々どうでも良くなって、適当に彼に話を振った。



「明日、映画行くんよね?」


『それがどうしたんだよ』


「それさ、キャンセルできないの?」


『……ハァ!? ふざけんな、なんでそうしなきゃ……』


「写真、送り付けるけど」


『ぐっ……!』



 私が言うと、田中はやっぱり押し黙った。



「んでさ、代わりに私と見に行ってよ」


『……は? なんで?』


「いいじゃん。アイツより私と行った方が楽しいと思うけど? 私の方がかわいいし。それでいいじゃん」


『だから、そんなこと――』


「できないんなら、どうなるかはわかってるよね?」



 私はもう一度彼に念押しをする。田中はまた『うっ、』と声を詰まらせて、しばらくしてから、ため息を吐いて言った。



『……わかった。わかったから、もう』



 彼が私の提案に同意したことに、なぜか心が弾んだ。



「オッケ。んじゃあ、昼前に集合ね」



 その後、私は彼と約束を取り付けてから、電話を切り、明日の用意を始めた。

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