21〜25
21. moggie
何も言わず飛び出した、名前を探す旅。
こんにちは、黒い猫さん。
僕の名前知りませんか?
知らないなら別にそれでかまわないよ、その代り、いつか見つけた時には、僕の名前呼んでくださいね。
それじゃあ、さようなら、名も無い黒い猫さん。
何も持たず飛び出した、名前を探す旅。
こんにちは、黒い鳥さん。
僕の名前知りませんか?
知らないなら別にそれでいいよ、その代り、いつか見つけた時には、僕の名前呼んでくださいね。
それじゃあ、さようなら、名も無い黒い鳥さん。
何も知らず飛び出した、名前を探す旅。
こんにちは、黒い空さん。
僕の名前知りませんか?
知らないなら別にそれで気にしないよ、その代り、いつか見つけた時には、僕の名前呼んでくださいね。
それじゃあ、さようなら、名も無い黒い空さん。
何も見えず飛び出した、名前を探す旅。
こんにちは、黒い鏡さん。
僕の名前、知りませんか。
知らないとは言わせないよ、君なら知ってるはずだ。忘れちゃってるだけだろう?
さあ思い出して、僕のことを呼んで。
誰でもいい、僕を呼んで。
名前を叫んで。
僕はここに居る。
さようなら、名も無い哀れな鏡さん。
今でもまだ続いてる、名前を探す旅。
僕のことを呼んでくれる誰かを探す旅。
22. 髪
髪を自分で切る癖があった。自分の汚らしい癖毛が嫌いで、イラついて、髪をわしづかみにしてジャキッと切ってしまうことがよくあった。
今日、久しぶりに切ってしまった。あーあ、せっかく伸ばしてたわたしの髪、あんなに嫌いだった自分の髪ですら、少しずつ受け入れられそうになってたのに。せっかくふんわりしたパーマかけて明るい茶髪にしてたのに。女の子らしくしてたのに。目の前にははさみがひとつと、くねくねカールしたオレンジの髪がいっぱい落ちてる。穏やかに波打つ夕暮れ時の海みたい。その真ん中で、はさみは必死で刃を光らせながらひとりぼっちで浮かんでいるのだ。
顔を上げると、鏡に人が映っている。誰だっけこれ、いびつなショートヘアがこっちを睨んでる。私はこんな目嫌いだ。こんな、人が居ないと生きてけないくせに、人を寄せ付けようとしない目。きっと彼もこの目が嫌いだったんだろう。くそくらえ。強がりめ。見れば見るほど嫌い嫌い。本当に切り落としてさよならしたいのは髪なんかじゃない。
23. 地面
ちょっと体調が悪かっただけだ。ただ、ものを食べようという気にならなくて、しばらく何も食べない日が続いただけなのに。貧血で倒れるだなんて。バカみたいだ。
世界がちかちか白っぽく光って見える。視界がぐるぐる回ってる。呼吸がつらい。私の周りだけ重力が増したみたいに、地面にへばりついている。このまま溶けてコンクリートと一体化してしまいそうだ。むしろそうなってしまえばいいのに。だって周りを行くひとは見向きもしないか、ひそひそ話しながら過ぎていくだけだもの。
わかった、そうか、もう地面になってしまったんだ、私。バカみたいだ、そのうち、あの人が私の上を歩いて行くんだろうか。傍に居るのは私だと気付かないまま。
24. 煙草
煙草を初めて手にしたのは15の時でした。当時は全てにいらだちを覚えて、孤独感と不安感が常に喉元を圧迫してくるような気がしていました。そこに煙を流し込んだんです。それからしばらくは半年に一度くらい思い出したように一本だけ吸っていたけど、最近になって不定期だけど頻繁に吸うようになりました。煙草はよくないよと周りの人達は言ってくれます。そんなこと知ってるありがとうごめんなさい。でもあの人はもう何も言ってくれないから。だから。
25. さむい
冬の夜、布団の中で寒さに震えます。
ライオンの薄汚れたぬいぐるみを抱き込んで眠りにつきます。
バンプオブチキンのダンデライオンという歌を思い出します。
誰も傍に居てくれなかったライオンの歌。
もし生まれ変わるならお前の様な姿になれれば愛してもらえるかなあ
ぬいぐるみはあったかいです。
わたしの傍に居てくれます。逃げないでいてくれます。
だけどつめたいです。
今夜もまた寒さに震えます。