6〜10
6. ことば
ほんとにどうしようもないときってことばって無力だ。
最初っからことばなんて無ければかえってこんな頭のなかごちゃごちゃしなくて済んだのにって思うくらい無力だ。
ごちゃごちゃしたのを整理するためにことばって発達したんだろう。
でも余計ごちゃごちゃしてくる。
自分の感じてる思ってることをことばに表そうとして今の状態を見つめてみようとするんだけど、やっぱり目をそむけてしまう。
怖い。
自分の感情を認識することが。
そしたら溢れ出しちゃいそうだから。
壊れちゃいそうだから。
溢れ出したものをすくってくれるものすら無い。
自分の感情なんて見ない方がいい。
見てないからこそ今こうしてどうにかやっていけてるんだから。
自分の中の声なんて聞かない方がいい。
ひとりぼっちだって。
怖いって。
さびしいって。
痛いって。
寒いって。
つらいって。
苦しいって。
愛しいって。
会いたいって。
傍に居て欲しいって。
7. 説明を
孤独を生み出してるのは自分自身だ。
話し相手は居ないわけじゃない。
心配をかけたくないから。
居場所がないわけじゃない。
迷惑をかけたくないから。
だけどわたしは誰にも見てもらえない
誰にも愛してもらえない
事実なのか思い込みなのか?
どこまでが本当でどこからが妄想なのか?
この恐怖感はそんなんじゃ説明できない。
8. 日常
たとえば、
朝、風呂上がりにベランダで煙草を吸っていたら、
向かいの民家から灰色の猫が出てきて伸びをしたりとか、
その背中のラインが美しいと思ったりとか、
その後幼い男の子がよちよち出てきてよくわからないふしで歌ったりとか、
そのうち雨が降ってきて、おじいさんとおばあさんが慌てて洗濯物を取り込み出したりとか、
そういうものに心を奪われて生きたいと思うんです。
9. ながいみち
人生の長さにめまいがするので横になって目を閉じた。
恋人とケンカをした。
将来のことで挫折をした。
友人と疎遠になった。
仕事で失敗をした。
夜ひとりになると頭のなかでぐるぐる音がする。
大音量の静寂という音。
孤独感と疎外感が襲ってくる。
あとどのくらい傷付けば人生は終わるんだろう。
あとどのくらい掻き乱されたら人生は終わるんだろう。
どうしてこんなにも人生は長いのだろうか。
どうしてこんなにも生きなきゃいけないんだろうか。
死にたいわけじゃないし、死ぬのは怖い。
だけど目の前に広がる真っ暗な見通しの悪い将来にめまいがする。
怖くなる。
あとどのくらい歩いていけばいいんだろう。
ゴールはいったいどこなんだろう。
途中の道にはいったい何が待ち構えてるんだろう。
もうつかれた。
楽になりたい。
10. ロック
ふとしたときからロックンローラーになりたいと思っていた。
ギターをかき鳴らして叫び倒したかった。
そしたらこの痛みも悲しみも悔しさも切なさも怒りも絶望も、
希望も喜びも幸せも愛しさも、
表せるんだろうかって。
形にできるんだろうかって。
そう思うから。
今の自分は何も表現できない。
何を思い何を考えどうしたいのか。
自覚できない。