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001 年長者の言葉にはそれなりの重みがある


 二学期が始まり、学校大好きっ子ではない俺は、鉛を背負っているような重い足どりで学校へ登校した。今日は始業式のため、朝練もないので他の学生たちに交じって登校する。


 管理人の芝山さんは、校門の前を竹ぼうきでガサガサと音をたてながら掃いていた。


「おう、サッカー少年! 夏休みは青春をエンジョイしてたか!?」

 

「おはようございます、芝山さん。まぁ、ぼちぼちですかね。」


 ぼちぼち――何をもってエンジョイしたと言えるかはわからないが、今年の夏休みは悪いものではなかったとは思う。まぁ、部活もキャプテンを就任し大変になったし、恋愛のことも、進路のことも、もやもや悩んでいる状態が相変わらず続いているのだけれども……。


 俺はふと、人生の大先輩である芝山さんに尋ねてみた。


「芝山さんも、若いうちって……恋愛とか、進路の事とか、色々悩んだりしました?」


「おお? もしかして人生相談か!? なんや青春っぽいのぉ!」


 芝山さんは、目を細めて懐かしむ様子で俺を眺めた。俺の姿に、過去の自分を投影させているのだろうか。そしてなぜか凄く嬉しそうである。


「そりゃ、わしも毎日いっぱい悩みまくってたなぁ。悩んで、間違えて、失敗して、恥かいて――それでも必死に生きてたから、そんな自分も笑って許してあげられる今がある!」


「はぁ……そういうもんですかね。芝山さんはあんまり、後悔とかなさそうですよね。」


「いや、後悔してる事もそりゃあるわなぁ。」


「え? 例えばどんな事ですか?」


「例えば――打ち込めるものをなかなか見つけられなかったことやの。」


「打ち込めるもの?」


「そうや、大人になるまで……、いや大人になってからもこれがしたいってもんが見つからなんだ。だから、時間を忘れて夢中に取り組めるものを見つけることが大事やで。大人になったらみんな仕事しないかんけど、それだけやとつまらん人生になる。仕事が大変やけど、これがあるから人生楽しいわって思える趣味がある方が良い。」


「なるほど、夢中になれるもの――。」


「夢中になってるうちに、その趣味が仕事に繋がる事だってあるしな。まぁそこまで極めようと思ったら、何せ多くの時間をかけなあかん。それなら若いうちからの方がええやろ? これは大事なことやからよう覚えときや。」


「はい、わかりました。」


「あとは、やっぱり――好きな子に告白しなかった事やなぁ。」


「え!? 芝山さんからそんなシャイボーイみたいな発言がでるとは……。」


「おう? わしも昔は恥ずかしがり屋のシャイボーイやったわ。自分の中で大切に持っていた心を、相手に言葉として伝えて贈るのは、何よりも素敵なプレゼントやからの。」


「わ、なんかロマンチックな事いいますね。」


「そうや、わしはロマンチストやからの。まぁ付き合う付き合わないは別にしても、好きだった事を相手に伝えておくべきやったと思うのぉ。大きな後悔といえば、それくらいやの。」


 その時、朝のHRを告げるチャイムがなった。


「おぉ、すまん。始業式の日からつい話し込んでしもたの。」


「いえ、とても勉強になりました。ありがとうございます。」


 夏休みはあまり芝山さんに会わなかった事もあり、つい長く話し込んでしまった。人生の先輩は、後悔する事もあったそうだがそれでも幸せそうだった。




 これらの芝山さんの言葉は、この先の俺の人生の選択において、確かに大きな意味をもつ事になる。


【芝山さんからのアドバイス1】


――時間を忘れて夢中になれる何かを見つける事。


【芝山さんからのアドバイス2】


――自分の中に大切にしていた心を、相手に言葉で伝えて贈る事。


 それが正しいかどうかは別として、年長者の言葉にはそれなりの重みがあるのだ。


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