028 甘い物食べながら、コーヒーにも砂糖入れてるやつww
桜木ちろるの部屋は、女の子らしい――ピンク色とふわふわしたものを基調とした部屋であった。桜色のカーテンに、同色の絨毯、窓際には俺が寝たら少し窮屈そうなサイズのベッドに、ディズニーやゆるキャラのぬいぐるみが多く置かれている。
「どれどれ――俺はもう宿題終わらせたけど、ちろるんはあとどれくらい残ってんの?」
「えっと……現国と古典の夏休みプリントがあと少しと、数学と化学の夏休み用のワーク……まるまる一冊ずつ……。」
「おい――まじでか?」
「誠に恐縮ですが……、マジなのです……。」
夏休みも残り一週間をきっている。せいぜい、問題集の終盤部分くらいかと思っていたが、予想をはるかに超える量がまだ手付かずで残っていた。
「おいおい、夏休み用ワークって、結構な問題数だろ? 何でこれが手つかずのまま残ってんだよ。」
「そ、その……部活が忙しかったから……」
悪戯した小学生が親に言い訳するような様子で、ちろるはぼそぼそと歯切れ悪く言葉を紡いだ。
「こら、言い訳しない。そんなの俺も、他の部活やってるみんなだって同じ条件だ。」
「ひぃっ、そんな怒らないでくださいよ~っ!」
「まだ全然手を付けてもないなら、どの問題ができて、どの問題ができないのかもわからないだろ?」
「うぅ……すみません……。」
おどおどしながらちろるは反省の表情を示した。
「仕方ないなぁ……。分からないとこあったら教えるから、とりあえず自分で頑張ってやってみなよ。」
「……雪ちゃん先輩っ! ありがとうございます!」
ちろるが真剣な表情で数学のワークを解き始めたのを確認し、俺は持ってきていた文庫本を開いて読み始めた。時折――「先輩、ヘルプですっ!」という声にこたえ、ちろるに問題の解き方を教えてあげた。
約二時間ほどそんな状態が続いたところで、俺はちろるに少し休憩を挟むように助言した。
「ちろるん――頑張って問題に取り組むのはいいが、集中力もうかなり切れてるだろ?」
「え? そうですかね……。」
「人の集中は90分が限界だって言うし、一回休憩挟んだほうがいいかもよ。」
大学の講義だって、90分なのはきっとのその理由なのだろう。
「わかりました。っじゃあ、私コーヒーか紅茶入れてきますよ。先輩はどっちがいいですか?」
「ありがと、っじゃあコーヒーをブラックで。」
「先輩、別にカッコつけなくてもいいんですよ?」
「はぁ? 何の話だよ」
「ブラックとかあんな苦いの、カッコつけて飲んでるんでしょ?」
「そんなわけないだろ。俺はコーヒーは子どもの時からずっとブラックなの。逆に甘いケーキとか食べながら、コーヒーにも砂糖入れてるやつの方が頭おかしいだろ? どんだけ糖分欲してんだよ、それでダイエットしなきゃとか言ってるのは、あれどうなんだ。」
「なんか甘い物好きな女子からすると、非常に耳が痛い話ですね……」
ちろるは台所に行って、コーヒーと紅茶の入ったマグカップ、そして船の絵柄が描かれたチョコクッキーを持ってきた。
「おっ、アルフォートだ。小学生の頃に初めて食べた時、チョコに描かれたリアルな船の絵を見て驚いた記憶あるわ。」
「あ、私もです! 初見だとびっくりしますよね。ちなみに何なんですかこの船?」
「ググってみたらわかるよ。まぁ――答え聞いても、何か釈然としないけどな」
「え? 何ですかそれ、逆に気になる……。」
ちなみにアルフォートという言葉は、制作会社の人達が作った造語であり、冒険やロマンをイメージして自分達で考えた言葉らしい。そしてその冒険、ロマンからイメージしたのがあの有名な船の絵だそうだ。
どうだろうか、もっと具体的な深い意味があるのかと思いきや、このふわっとした理由――釈然としないだろう。
「さて、休憩したところでもう一頑張ってくれよ。」
「えぇ~! アルフォートの意味教えてくれないんですか?」
「既に俺は多くの人に教えた気がする。そしてやはり釈然としねぇと思ってるはずだ。」
「メタ発言は番外話だけにしてください。」




