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045 クリスマスイブは、やはり俺と因縁がある日かもしれない。

 だいぶ長い時間、道の真ん中でこみいった話をしてしまった。まだまだ話すことはあるが、俺とちろるはひとまず電車に乗って帰宅することにした。


 車内の椅子に二人そろって腰をかけると、ちろるはまた悪戯な笑顔でお道化たことを言い始めた。


「まぁ最悪の手段として、どちらか選べなかった先輩は、一夫多妻制が認められている国で二人ともめとるという方法がありますよ。」


「それは……さすがにぶっ飛び過ぎてないか。」


「だったら、議員にでもなって、一夫多妻制を認める法律を作りましょう。そしたら私も、神崎さんもお嫁さんにもらえますよ?」


 ちろると神崎さんの両方をお嫁さんにもらえるか……。それは何とも魅力的な話だ。


 しかし、そんなのは現実的な話ではない。いつかは自分の心をはっきりとさせなければならない。俺の心に残る気持ちか、新しく芽生えた気持ちのどちらを選ぶか……。


 っていうか、そもそも……。


「いや……、そもそも神崎さんは俺のことを好きってわけじゃないからね?」

「あっ、そうでしたね。雪ちゃん先輩は、まず神崎さんを落とさないと駄目なんでした。」


「落とさないと駄目って……。わけわからなくて、頭痛くなってきた。」


「そんな難しく考えずに、別に何もしなくてもいいですよ。私が先輩を釘付けにするまで、大人しく待っていたらいいんです。別にその間に、意中の神崎さんを落としてもらっても構いませんというだけで。」


「いやいや……。それはちょっと……。」


 ちろるの考えていることが、まだよく理解しきれない。現状がよくわからないのは俺だけなのだろうか……。


 いや、きっとちろる自身にもわかっていないだろうし、むしろ彼女の方が不安が大きいだろう。


 ちろるは唇をきゅっと結び、何か考えている素振りを見せた。そしてある一つの提案をした。


「そうですね……。っじゃあ、やっぱり期限をつけましょうか。」

「期限……?」


「今年のクリスマスイブにしましょう。その日までに、先輩は自分の心をはっきりとさせる。そして私は、その日までに先輩を私だけに釘付けにさせる。」


 具体的な期限をつけるというちろるの提案は、少しだけ俺のもやもやした現状への認識をスッキリさせてくれた。なるほど、よくよく考えれば、話は案外単純なのかもしれない。


 そしてその期限が、因縁あるクリスマスイブという事に俺は少しドキッとした。


 以前、風花に説明した通り、中二のクリスマスイブの出来事から、”告白の返事は自分の想いがきちんと定まってからするべきだ!”……と、俺はそんな考えを持って生きていた。今の自分を見たら、中二の俺はおそらくぶん殴っているだろうなと思う。


「どうですか?」

「そう……だな。ちろるがそれでいいなら……、俺には拒否権なんてないよ。」


「ったく、もう! 何をそんなにしょぼくれてるんですか?」

「いや、だって……そもそもは、俺が煮え切らない態度とってるのが全ての原因だし。」


「それはもういいんですよ! だって、先輩が悩んでるさらにその原因を辿れば、私が告白したからだって言ったでしょ! それに……先輩が悩んでくれてるおかげで、私は先輩から好意を持たれるまでになったんですよ。」


 ちろるからの圧に、俺は情けなくも気押されてしまった。


「そもそも最初とか、私の事は恋愛対象にすらなってなかったんでしょう? もし最初に私が告白した時、先輩がばっさり振ってたら、私はこんなに頑張れてなかったです。」


「……それは、ちろるにとってよかったことなのか?」


「当たり前じゃないですか。だから、もう何も負い目とか感じなくていいですよ。」


「……わかった。今年のクリスマスイブ。……それまでに、俺は自分の心をはっきりさせる。ただ、さっきも言ったけど……俺はお前が思っている以上に、現時点でも……ちろるの事はちゃんと好きだぞ。」


「っなぁ!?/// ちょっと……いきなりそういう事言うのなしですっ!」


 ちろるは頬をぷくっと膨らませ、不満げながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべた。


「あぁ! もう~せっかく、私が何かリードしてる感じだったのに!」

「リードって何の話だよ。」


「ほら、立場っていうか……。結局は相手に惚れているほうが、立場弱いんですからね!」

「もう今日に関しては、お前の言っていることはよくわからん。」


「むぅ~! ……っふふ。」

「……っはは。」


 俺とちろるの間に流れていた空気は、まだぎこちないが、少しずつ普段の感じに戻りつつあった。それに同時に気づいたのか、二人して笑い始めてしまった。


「っじゃあ、今日は球技大会とか……あとまぁ、色々お疲れ様。また明日な。」

「ほんとですよ。……っふふ、でもありがとうございました。また明日。」


 電車を降りた後、夕暮れに消えていく彼女の影法師を見送り、俺は大きなため息をついた。恐ろしく長い一日だった。まぁ完全に自業自得だとは思うのだけど。


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