004 青葉風花は、意味不明なJK語を使うことを覗けばパーフェクトな妹である。
後輩のちろるからの告白を受け、(1話参照)その帰り道を歩きながら、つい神崎さんへの愛(2話参照)と、姉貴への不満(3話参照)を語ってしまったが、ようやく俺は自宅へとたどり着いた。
家に帰ると、リビングでは妹の青葉風花がソファに寝ころびながらテレビを見ていた。
まだ中学生だろ。せんべい片手にひじづえをついて、おばはんかお前は。
「ただいま。」
「おつぽよ~♪」
「……おう。」
風花は、ころんと寝ころがえって、俺の顔をじっと見つめた
「あれ? 兄ちゃん、何か浮かない顔してどしたん? つらたにえん?」
さすがは俺の妹、お兄ちゃんの異変にすぐ気づくとは……。意味不明なJK言葉とか使わなければ、パーフェクトな妹である。
つらたにえんって何? 辛い事あった? って意味か。
「あぁ、ちょっとな……。」
「何があったの?」
「うーん……。姉貴が超絶優しくなる妄想をしてたら怖くなった。」
「なに? いい歳して妄想とか……まじ卍~。」
まじ卍? 何いってんだこいつ。
「あとな、今日後輩から告られた。」
「はぁっ!? まっ!?」
最近知ったが、「ま!?」は「まじでっ!?」の意味らしい。やばいをやばたにえんと長くしたり、極端に短くしたり、もう何がしたいの最近の若い子たちは……。
「もしかして……ちろるん?」
「……。」
鋭いなっ。何で分かるんだ……。ちなみに、ちろると妹の風花は中学で軟式テニス部に所属し、先輩後輩の間柄である。
「その顔は図星だね?」
「いやっ、何ていうか……その……」
「ごまかさなくていいよ。だって、中学の時から、ちろるんが兄ちゃんの事好きなんだろなって思ってたし……。ってか、高校でサッカー部マネジになった聞いた瞬間にもうほぼ確定だったし。」
そうなの……? 初耳なんだけど。だったら教えてくれたらいいのに。
「中学の時、よくテニスボールがサッカー部の方に飛んでこなかった?」
「あぁ……なんかよく拾った覚えあるけど。」
「あれって、先輩たちがわざとボール飛ばして、ちろるんに拾わせてたんだよ。」
「はぁ? なにそれ、いじめかよ。女ってこわ……。」
「ちがうよ。ちろるんが兄ちゃんのこと好きなんだって気づいた先輩が、接点作ってあげようとしてたの。」
「まじか……。」
高校二年生になって、初めて知らせれた驚愕の事実である……。
「兄ちゃんに、ボール取ってもらった時に、ちょっと話しかけてもらっただけで、ちろるんが頬赤らめて帰ってきてからね。みんなから“ちょろるん”って呼ばれてたよ。」
なにそれ……ちょろるんって。「ちょろい女」と本名の「ちろる」をかけてんの?なにその不名誉なあだ名……。無駄に語呂がいいし、かわいそうだけど、確かについ使いたくなるな。
「っていうか、ちろるは一応お前の一つ年上の先輩だろ。ちろるんとか、間違っても、ちょろるんとか言うなよ。俺は今度からちょろるん使うけども。」
「別にいいんだよ。みんな、ちろるんにはため口だったし……。ちろるんはいじられキャラだったから。」
先輩としての威厳がたらんぞ、ちょろるん……。いや、まぁ親しみやすい先輩だったということにしておいてやろう。
「そんなことより、兄ちゃんは何て返事したの?」
「……。」
しまったなぁ。余計なこと言わなきゃよかったぜ。
「えっと……何というか、保留というか……返事は待ってもらってる。」
そう言った瞬間、風花はゴミを見るような眼になった。
「うっわ、兄ちゃん最低……男らしくねぇわ……まじクズ。幻滅した。」
そこまでいいます? いや、まぁその通りだけどもっ!
「えぇ……極めて遺憾に思います。」
「なに政治家みたいな言葉つかってんの?」
俺だって、これでも真剣に悩んでいるんだ。
「ちろるん可愛いのに。もったいない。」
まぁ可愛いのは確かに可愛い。今日の告白とかもまじキュンってきたし……。
「何でOKしないの? 他に好きな人いるとか?」
「うっ……まぁ……そうだな。」
「ひゃっはー、他に好きな子いるから返事保留にするとか、もう死ねよ兄ちゃん。」
まずい……リーマンショックレベルでお兄ちゃん株の下落が止まらねぇ。兄への信頼という名の株券が、ただの紙切れのように薄くなっている。
「ちがうぞ、風花よ。」
「へ……?」
「これにはちゃんと理由があるんだ。というのもだな、お兄ちゃんはあのトラウマから、告白の返事は真剣によく考えてから出すべきだと思うんだ。」
「ん? もしかして、兄ちゃんが中学生だった頃の話?」
俺は適当な返事が大嫌いだ。それは中学時代のクリスマスにおける、悲しいトラウマが起因している。