表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/127

037 神崎さんの運動神経の悪さは折り紙付きである。

 ローストビーフの列へと、神崎さんの後ろについて俺も手ぶらで並んだ。人気のローストビーフは、欲張りさんがいっぱい取らないように、小さな皿に一人分ずつ取り分けられて配られるからだ。


「ねぇ、雪くん」

「……えっ?」


 神崎さんに下の名前で呼ばれたことに、思わず驚いてしまった。


「いやぁ……みんなの前だと、やっぱり下の名前で呼ぶの、ちょっと恥ずかしいね/// 二人きりの時なら大丈夫なんだけど」


 今日の球技大会で姉貴と俺が一緒にいる際、神崎さんと体育館の階段で遭遇した。その時に苗字で呼ぶのはややこしいから、下の名前で呼んでいい? という流れになったのである。


「そ……そうだね。ちょっと、俺も照れる……かも」


「っじゃあ、二人の時だけ……ってことでいいかな?」

「う、うん。もちろん」


 っじゃあ、俺も神崎さんのこと、若葉って下の名前で呼んでいい? なんて恐れ多いことは、とてもじゃないが言えなかった。


「それにしても、雪くんは今日すごい活躍だったんだね!」

「いや、それほどでもない……けど」


「最後のまるせるる? ルーレットだっけ? すごいカッコよかったね。」


「ははっ、マルセイユルーレットだけどね。……っえ?」

「うん?」


 神崎さんは、きょとんと不思議そうにこちらを見ている。


「神崎さん、サッカーの……俺らの試合……みてたの?」


「うん、最後の方だけしか応援できなかったんだけどね。大きな身体の人を、くるって回転して抜いてゴールを決めたところ、すっごくカッコよかったよ!」


「……。」


 俺はとっさに後ろを向いてしまった。


「あれ? どしたの? 後ろの方に何かある?」 


 駄目だ……。もう嬉しすぎて顔がにやついてしまう。


 俺の後ろに並んでいたおじさんが、にやつく俺をとても珍妙な物を見る目で眺めている。顔の筋肉をマッサージしてから、俺は神崎さんのいる方へと向き直った。


「いや、何でもないよ。観に来てくれてありがとう」

「えへへ……。本当はもっとみに行きたかったんだけど、女子の試合もあったからね」


 これは、なんだか少しいい感じなのではないだろうか。結構、神崎さんは俺に対して、好感をもっていただけているのではないだろうか。


 いや、これはただサッカーを観に行きたかったのであって、俺を見に行きたかったと捉えるのは早計である。あぶない、あぶない……でも、なんだかいい感じに話せている。


「神崎さんも……、バドミントン頑張ってたね。頭に羽がのったところ見ちゃった」

「えぇ!? もう、恥ずかしいなぁ。雪くんに運動苦手なのばれちゃったな」


 いや、神崎さんが運動苦手なのはずっと前から知ってるんですけどね。体育の時とかもずっと目で追ってるから。


 一年の時の体育の三段跳びが、まぁなかなかの衝撃映像であった。


 三段跳びは、ホップ、ステップ、ジャンプが基本となり、スキップの延長線上みたいな感じで跳ぶ。しかし、この体育の時間によって、神崎さんがそもそもスキップができないことが判明した。


 彼女のスキップについて説明すると、運動音痴で有名な某アナウンサーのスキップを参照していただき、それが少しだけましになったというか、可愛らしい動きになったものだと考えていただきたい。吹奏楽部でリズム感はある神崎さんだが、おそらく手と足を同時に動かす協調運動が苦手なのだろう。


 まぁそのぎこちないスキップがこれまたすっごく可愛いので、どうかそのまま克服しないでいただきたいものだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ