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031 妹は兄のために、クラス打ち上げ用の私服をコーディネートする。

 その後、へとへとになりながらもなんとか部活が終わり、俺はやや急ぎ目に帰路へついた。なぜなら、今日はこのあと球技大会の打ち上げがあるからだ。全くもって長い一日である。


「ただいまー」

「兄ちゃんおつぽよ~」


 妹の風花はこちらを一瞥もせず、声だけで兄だと判断してそう言った。


「おう、おつぽよ」


 風花は、我が家のアイドルであるトイプードルのプーさんとじゃれ合っていた。


 黒の半袖シャツに、白のショートパンツ、足はくるぶしまでの短い靴下を履いている。つい制服のまま、リビングでごろごろしてしまう俺と違って、風花は家に帰るとすぐ、きちんと制服からできる限りラフな姿へと着替える。


 夏用に敷かれたござの上で、うつ伏せで足をぶらぶらさせながら、風花はプーさんの手をぱたぱた動かして遊んでいた。プーさんの方は眠たいのに、無理に遊びに付き合わされているという迷惑そうな表情だ。


「あれ、お兄ちゃん。あげみざわ?」


 風花はようやくこちらを向くと、またわけのわからないJK語を言った。


 あげみざわ? ……高見沢と聞き間違えたのか? いや、いきなり疑問符をつけて、アルフィーのギタリストの名を言うのは流石に意味わからん。


「なにそのあげみざわ?ってやつ」

「何かいいことあったの?」


「最初からそう言えよ……。まぁな、球技大会で優勝した」

「おぉ~やるじゃん。でも、お兄ちゃんってそういうクラスの青春っぽいイベントとか団結みたいなのって嫌いじゃなかったっけ? 少し距離のあるところから、小ばかにして眺めてるタイプでしょ?」


 よくご存じだな。思えば、今回の球技大会も最初の方なんて全くやる気がなかった。


「まぁ……今回はちょっとな」

「女の子にいいところ見せたかったの?」


「ばっ、ばーろー!」


 つい焦って、口調が小さくなった高校生探偵みたいになってしまった。


 女の子にいいところを見せたかった……そう言われると、ちろるが応援してくれて、がんばらなきゃって思ったのは確かである。


 しかしそれは、ただ女の子にいいところを見せたいがためってわけでもないような気もする。そこまで単純ではなくて……義務感……でもないし、まぁ上手くは言えないのだけど。


「それは愛だよ」


 風花は、俺のこのなんとも言えない気持ちを、はっきりとそう断言した。


「はぁ?」

「ちろるんに応援されて、頑張ったんでしょ? それはきっと愛だよ。愛は世界を救うんだよお兄ちゃん」


「愛……だと……」


 ちろるへの愛の力で、俺は球技大会に全力を尽くしたというのか? いや、確かに誰かのためって言われたら、ちろるのためって部分は大きいけど、それが愛という気持ちだと言われたら……わからない。


 頭を抱える俺に、風花は視線をプーさんの方へと戻して言った。


「まぁちろるんとの関係も上手く行ってるみたいでよかったよー。それよりこの後打ち上げとかあるんでしょ?急がなくていいの?」


「本当だ、汗臭いの恥ずかしいし、シャワー浴びなきゃ。あー私服何着ていけばいいかな」

「乙女か」


「男子高校生だって身なりには気を遣うだろが」

「服は私が選んどいてあげるから、早くシャワー浴びてきなよ」


「恩に着るぜ。愛してるよ」

「はいはーい。風花も愛してるよー」


 妹に私服選んでもらったとか、他の奴に言ったらマジ引きされそうだな。


 あなたはシスコンですか? と問われれば、姉貴に対してはNO,アイムノットシスコンだが、妹に対してはYES,アイアムシスコンであると認めざるを得ない。


 シャワーを浴びてさっぱりした後、俺は風花が選んでくれたセンスの良さげなオシャレコーディネートに袖を通し、感謝を告げて家を出た。


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