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023 青葉吹雪は、意外とブラコンなのかもしれない

 げんなりした俺と姉貴を眺めながら、神崎さんは自己の主張を曲げなかった。


「二人とも似てますよ。青葉君も吹雪先輩も、優しそうな素敵な顔をしてます。」


 その言葉を聞き、姉貴は少し嬉しそうに、俺を地面へ下ろしてくれた。好きな子の前でカツアゲされたような姿から解放され、地面に足が付いて俺も嬉しい。


「そうか。まぁ愚弟に似ているというのは認めないが、神崎には私が優しそうに見えているんだな。それならいい。」


 ふーん……姉貴って、冷たそうとか、近づきがたいとか思われてるの、意外に結構気にしてんだな。


「ところで、吹雪先輩のことを下の名前で呼んでるし、青葉くんのことも下の名前で呼んでいいかな?」


 何気ない感じで、神崎さんは驚くべきことを言いだした。


「ふむ、そうだな。そっちの方がわかりやすいし、いいんじゃないか?」


 と、姉貴もにやにやしながら言う。


「っじゃあ、これからは雪くんって呼んでもいい?」


「べっ……別に、いい……けど。」

「えへへ~。ありがとう、雪くん!」


 ぐふぉっ、何ていう破壊力だ。にこやかに笑いながら、俺の名前を呼ぶ神崎さん。思わず腰から砕け落ちそうな嬉しさである。


「……。どういたしまして……。」


 かろうじて、我が真実の名を天使に呼んでいただけた感謝を告げると、神崎さんは体育館への階段を昇っていった。


「っじゃあ、この後また試合があるので、吹雪先輩、失礼します。」

「うむ、またな。」


 神崎さんは姉貴にぺこりとお辞儀をした後、俺の方を見て手を振った。


「またね、雪くん!」


 ぐふぉっ! ハートを打ち抜かれて、膝から崩れ落ちそうになりつつも、かろうじて耐えた。平静さを装って、俺も手を振り返す。


「うん。またね。」


 そう告げると、神崎さんは体育館の中へと消えていった。


「よかったな。雪くん。」


「おい、姉貴。その名で読んでいいのは神崎さんだけだぞ。」

「相変わらずキモイな。我が弟よ。」


……相変わらず辛辣だな。我が姉貴よ。


「さっき神崎さんに下の名前を呼んでもらったおかげで、この後の球技大会、俺は秘められた真の力を解放できそうだ。」


「お前は斬魄刀か。気持ち悪い……。ところで、お前のチーム、あの剛田とかいう奴のチームに勝てるのか?」

「なんだよ。俺の試合見てたの?ブラコンなの?」


 姉貴は俺の頬を、右手で握りつぶす勢いで握った。


「ぶっ殺すぞ?」

「……ずんまぜん。」


 握力いくつだよ。俺の顔がムンクの叫びよりひしゃげた縦長になったよ。


「気合を入れるだけで勝てたら苦労はない。あんな気合だけの全員攻撃なんてものは、もう通用せんだろう。」


 実際のところ、俺もそれは感じていた。剛田と池上率いる四組に勝つには、おそらく今のままでは勝てない。個人的能力の差をどう埋めるか。無論俺だけの力では、残念ながら剛田と池上二人には敵わないだろう。


「集団のパフォーマンスを最大限効率よく機能させるコツは、社会的手抜きを防ぐことだ。」


「社会的手抜き……?」


「リンゲルマン効果とも言うが、集団で同じことをすると、必ずさぼる奴が出てくる。さっきの試合も、最初はみんなで一丸でゴールを目指していたように見えたが、やはりさぼっている奴がいただろ。」


 それはその通りだ。後半の序盤はみんな頑張ってボールに向かおうとしていたが、やはり数名は他の奴がやるからいいかと、途中で足を止めてしまっていた。


「社会的手抜きをなくす方法は、適材適所で役割をあてることだ。」


「適材適所……。」

「一人ひとりに自分がやらなければならない明確な仕事を与えることで、行動指針と責任感が生じる。」


 姉貴はそこまで説明すると、さっと髪を掻き分けて俺をじっと見た。


「まぁ、あとは自分で考えなさい。優しいお姉ちゃんからできるアドバイスは以上だ。」


 なるほど……具体的に誰にどう役割を与えるか、それはサッカーに精通している者が考えるべきことである。


「うん、ありがとう。」


 姉貴はふっと笑って、校舎の中へと戻っていった。


 っていうか、結構がっつり試合見てたんだな。案外、姉貴って本当にブラコンなんじゃねぇの……?なんてわけはないか。


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