018 無双をかます青葉雪と、クラスの女子からの黄色い歓声に焦る後輩
二時間目の音楽の授業が終わった後、ちろるはすぐさまグランドへと向かった。
外に出ると、学校指定の赤い体操服を着ている女子たちが、石段に座って男子たちのサッカーの試合を観戦していた。彼女達は、青葉と同じ赤い鉢巻を付けている。おそらく青葉と同じクラスの女子達だろう。
そのうちの一人の女子生徒の話す声が聞こえた。
「青葉くん、最初の試合でハットトリック決めたらしいよ!」
“えっ、雪ちゃんせんぱい、ハットトリック決めたの!?しかも最初の試合ってことは……うわっ、見たかった……。”
青葉は、ちろるから喝を入れられた後、普段の試合の通りに全力でプレーした。初戦の相手の二組は、ほぼサッカー経験者がいなかったため、青葉を止められる者は誰もいなかった。
「青葉やるじゃん!ハットトリック決めるとかすごくね?」
「青葉君って今まであんまぱっとしなかったけど、なんかちょっとかっこよくない?」
「たしかに、顔もそんな悪くないよね。」
“あれ……? 雪ちゃんせんぱいの評価が上がってる? これは……ちょっとまずいのでは?”
「本気でプレーしてください」、と青葉に促したのは自分であり、そのこと自体に後悔はないが、ちろるは新たなライバルたちの出現の可能性を感じ、焦燥感がふつふつと湧いた。
「あぁ!また青葉くんがボールもったよ。」
「……!」
青葉はゴール前でパスを受け、キレのある華麗なボールさばきとフェイントで一人抜き、最後の一人も相手の股を抜いて、完全なフリーでシュートを放った。
右足で思い切り振り抜かれたシュートは、ゴール左斜め上に突き刺さった。
「「キャッ―!!!」」
女子達の甲高い黄色い歓声があがる。
“きゃっ―――!!!!”
ちろるもまた、口には出さないが心の声では同様に歓声をあげていた。
“すごいっ!かっこいい!いつもの雪ちゃん先輩だ。”
ゴールを決めた青葉は、パスを出してくれたチームメイトとハイタッチした後、石段の上にいるちろるに気が付いた。そしてちろるに向けて笑顔で手を振った。
「わぁっ!青葉くんこっちに手振ってるよ!」
「本当だ!かっこいいー!!」
石段に座る青葉のクラスの女子たちは、自分たちに青葉が手を振っていると思い、大きく手を振り返している。
その後ろで、ちろるも彼女たちにばれないように小さく手を振った。
「さすがサッカー部、やるねぇ。」
「青葉くん彼女いるのかな?」
「あたしアタックしちゃおうかな?」
“ちょっと、これ本当にまずいんじゃないの!? やっぱり本気だしてなんて言わない方がよかったの!?”
キーンコーンカーンコーン……
好きな人の活躍を見れて嬉しい気持ちと、反面でクラスの女子から人気が出て嫌だなという複雑な気持ちを抱えながら、ちろるはしぶしぶと教室に戻った。




