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018 「巨人は駆逐してやる!」と意気込む副会長


 暦は十月、そろそろ衣替えの時期だ。半袖の服を着る生徒も最近はめっきり見なくなった。


 体育祭を終え、行事間における束の間の平常な日々。ただし平常であっても平穏とは限らない。


 昼休みに自販機までぷらぷら外を歩いていると、唐突に声をかけられた。


「雪、ちょっと相談が――」


 聞き覚えのある舌っ足らずな声、そして声の主の姿は見えない。二学期に入ってからよく見られるデジャブな怪奇現象。


「……幻聴か?」


「もういいでしょっ! ここよ、ここっ!」


 ぴょんぴょん跳ねたるは、ちびっ子副会長の永森氷菓である。


「おぉ、小さくて視界に入らなかった。……さて、お前から依頼されるのはデジャブなんだけど……今度は何だよ? 来週からの生徒会選挙のことか?」


 時期から察するにそれ以外にないだろう。


 氷菓は「御明察ね。」とにこっとほほ笑んだ。


「ところで、お前の相談とやらを聞く前に、俺は喉が渇いたのだけど……」


「……なによ? 今時、法律相談所だって話を聞くだけなら無料なのに、雪は友達からの相談を聞くだけでジュースをたかるのね。」


「ちげーよ、ただ喉が渇いたって言っただけだ。相談ならジュースを買ってからゆっくり聞いてやるからさ。」


 そう言って自販機に150円を入れる。ボタンを押そうとしてふと気が付いた。


「氷菓って、一番上の段の飲み物とか届かないだろ? ほら……、一番上の段のぐんぐんグルト、今なら俺がボタンを押してやるぞ。」


 非常に不愉快そうな顔を浮かべ、氷菓は俺を見上げた。


「余計なお世話よ。」


「それにしても、俺が企業の人間なら、ぐんぐんグルトは一番下の段に設置するけどな。だって需要あるのは氷菓みたいなちびっ子なんだから――」


 そこまで言った瞬間、氷菓は一番下の段のおしるこ(HOT)を押した。


「っおい! 勝手に押すな。ぐんぐんグルトのボタンに背が届かないからって僻むなよ。」


「うるさい、巨人は駆逐してやるっ!」


 どこのイェーガーだ。


 仕方なく熱いおしるこを啜りながら、ベンチに座って氷菓の話を聞いた。甘いお汁粉は余計に喉が渇く。


「っで、相談って何なんだよ。」


 俺の問いに、氷菓はおずおずと口を開いた。


「実は……プロパガンダを一緒に考えてほしいと思って。」


 なんだっけ、プロパガンダ……。


「プロパガンダ? あ、あぁ……プロパガンダね。うん、いいと思うよ。大事だもんね、プロパガンダ。」


 ガンダムは関係ないし、政治用語だったかな。つい知ったかぶりしてしまった。そんな俺の心境を察してかどうかは知らないが、氷菓が補足をいれてくれた。


「プロパガンダ――簡単にいえば政治活動などにおける宣伝。」


 最初から簡単に言えよ、このロリっ子め。


「も、もちろん知ってるとも……。なんだ――まだ考えてなかったのか、プロパガンダ。」


「うん……前に吹雪さまからアドバイスされて、色々考えてみた。それで自分の理想とすることはたくさん思いついたの。でも、うまくまとめられないというか……。短くわかりやすくアピールできればいいのだけど。」


「なるほど、氷菓の政治思想を聞いて、客観的な視点から短くまとめてほしいと。」


 氷菓は小さな頭を縦に振った。


「話が早くて助かるわ。」


 話が早いのが俺の百八ある長所の一つである。しかし、ここで一つの疑問……とまではいかないが、確認したいことがある。


「なぜ俺なの?」


「暇そうだったから。」


 間髪入れずの即答。


 この野郎。おしるこを買わされた上に何て言い草だ。


「俺は多忙だし多感だから帰るわ。今、おまえは貴重な支援者を一人失ったぞ。」


「ごめんって、冗談よ!」


 ベンチから席を立とうとする僕の腕を、氷菓はひしっと握った。無視して教室に帰ろうかと思ったが、子供を引きずる親みたいな構図で注目を引くのも気が向かない。仕方なくもう一度ベンチへ腰を下ろす。


「姉貴にでも頼めばいいじゃん。」


「駄目よ。生徒会選挙に関しては、現生徒会長である吹雪さまからアドバイスは受けられない。それに……来年吹雪さまは卒業する。いつまでも頼ってばかりはいられない。」


 氷菓の目にはどこか、寂しさと決別の意志がこもっていた。


「ったく……わかったよ。とりあえず話してみるがいい。氷菓の目指す生徒会長としての志を。全校生徒がお前を支援するに値する志を。クラーク博士も認める大志を。大いなる野望を。」


「そこまで大層なお膳立てをされると、何か言いにくいんだけど……。」


 少し困惑しながらも、ぽつぽつと氷菓は自分の理想を、志を、マニュフェストを語った。


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