四 邂逅(七)
うわ………。
許しを得たとはいえ、いささか恐る恐る棚の書を取り、開いてみて驚いた。
どの頁にもびっしりと書き込みがある。空間が足りなければ紙を挟んでまで文字が綴られていた。それは男自身の評言や疑問であったり、恐らく同じ書の、他の版からの抜き書きであったりした。あちこちに付箋が貼られ、そこにも字が書き込まれている。たまたま丁寧に読み込んだ書を手に取ったのかと一瞬思ったが、数冊広げてみた書はいずれもそういう状態で、それがこの男の書の読み方なのだと理解するしかない。
これだけ丹念に書を読み込む人間であれば、「題簽を眺めても時間の無駄」と言い切りもするだろう。
書を見せて欲しいと頼んだのは、どんな書があるのか気になったからだ。だが男の書の読み方にまず圧倒されて、軽々しくあれこれ取り出して見ることが出来そうにない。
男は相変わらずこちらに背を向けたまま文と向き合い、源佐など一顧だにしない。
この男の家も、代々学者の家門、というのではなさそうだ。学を究め学を講じて生きていく―――その決意を、一体いつ、この男は固めたのだろう。
真っ直ぐな眼差しと、ぴんと伸びた背が美しかった。
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