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12 ブス

「勇者の村で最弱でした」に話数で追い付きたいので、暫くはこちらを更新する予定です。

読んでいただき本当に本当に感謝してます!

嬉しいですっ!



「こちらも食べるか?」


赤面している私を置いて、タイラーはフォークによそった焼き菓子をこちらに向けて来た。所謂いわゆるあーんと言うやつだ。

私は妙に緊張しながらもそれをパクッと口に入れた。美味しいはずなのに、何も味がしなかった。私は内心首を傾げる。


「美味しいか?」


彼はまた、とろけるような笑顔を見せた。私は思わずバッと勢いよく顔を背けて、それは激しく美味しいと肯定するように頷いた。

(あぁもう、何なんだよ!)


それからもタイラーは、私にオススメのお菓子を食べさせてくれた。それに満足そうに頷く彼に、私は何も言えなくて、それを黙って受け入れた。


繰り返しやれば、やはり慣れてくるもので、徐々に味わえる様になって居た。

恥ずかしいと言うか何と言うか、私はかつて無いソワソワした気持ちに悩まされた。


「顔が赤いぞ?…風邪か。」


勝手に納得したタイラーは、同じくらいの身長にもかかわらず、私をヒョイっと抱き抱えると、ドアを侍女に開けさせて、廊下を歩き出した。


(な、何?どこに行くんだ?おーろーせ!)

私はバタバタと暴れて、彼の腕から逃げるように体を捻る。けれど意外にも力が強い彼は、私を離すことはない。


「あ、暴れるな。部屋に連れてくだけだから。」


私が暴れ、彼がそれを抑えるものだから、顔が至近距離にあった。毛穴が見えない、そのきめ細やかな肌を見ながら、私はブスゥーとほっぺを膨らませる。


「な、何が不満なんだ?」


私はフイッと顔を背ける。

もっと彼といたいのに、タイラーは私を部屋へと強制送還するのだから、私の機嫌が悪くなるのも仕方がない。


これが大人であれば、自分に利があるように、良い子ぶりっ子をする所であるが、タイラー相手であるとそれは何故か出来なかった。


“ 僕が伝えてもいーよー? ”


精霊がソワソワしながら、私を不安そうに見つめてくる。


(いや、大丈夫だよ。)

私は強く念じる。自分でも、どんな態度を取っても彼は側にいてくれると、離れて行ったりしないと、信用して居ることに驚いていた。

冷静な頭は、彼に嫌われる事の損害を、否応無しに理解して居るのにもかかわらず、私はこの様に舐めた行動を取って居るのだから不思議だ。

初対面のあの時は、嫌われた所で問題など無かったけれど、今は命の手綱を彼が握ってる様なものだ。


「…伝えてくれないのか。私が嫌いになったのか?」


精霊の声を聞ける彼は、伝える事もしてくれない程に怒ってるのかと、不安に思っている様であった。顔こそ変化はないが、明らかに落ち込んで居る彼に、私は急いでブンブンと首を横に振った。むしろ逆だからこその、あの行動であったのだから。


「…ほんと?じゃあ、僕の事好き?」



殺 す 気 か 萌 え 禿 げ る わ



(あ、今日は命日だわ。)

不安げに尋ねるタイラーは可愛すぎたのだ。犯罪レベルの可愛さに、私は母性本能がくすぐられたのだろうか。ギュッと抱きしめてあげたくなった。


一人称が『僕』になり「好き?」と、いつもとは違った子供らしさと言うギャップ萌えは、マジやばい。悶え苦しみ過ぎて、あの世に行きそうなくらいマジやばい。


私は思わず赤面した顔を、両手で抑える。これがベットの上であれば、布団をギュゥーっと抱きしめてゴロゴロ転げ回る所である。


「…いや、大丈夫だ。」


恥ずかしくなったのか、又は答えない私に不安を抱いたのか、彼は自分の発言をもみ消そうとしていると感じた。


私はその声にハッとして、彼の胸元の布を軽く引きよせた。そしてこちらを向いた彼に、精一杯の笑顔で「だ、い、す、き。」と口を作った。


終わった後で、正気に戻り恥ずかしくなった私は、タイラーの首元をぎゅっと抱きしめて、顔を隠した。


「…大好きであってるか?」


彼は照れる様な声色で、私にそっと尋ねる。私は彼の首元に、頭をすり寄せると、肯定する様に頷く。


「…そうか。うん。」


タイラーはそれきり何も喋らない。

私は、堪らなく不安になった。好きと言われた事が不快だったに違いない。引かれたのだと、そう理解した。


(出会って数日のスラムのゴミに、好きと言われたらそりゃキモいわ。助けてくれたのは、恩を返すため…か。嬉しかったんだけどなぁ。)


私は自分自身に憤った。後悔をした。

(あ、泣きそう。)


私は必死で涙をこらえた。バレないとは思うが、高級な上着を濡らしては弁償出来ない。

嫌われたかも知れないと思うと、彼の顔を怖くて見れなかった。


スラムの時の数々の罵倒は耐えられたのに、『タイラーに嫌われる事』は、どうしてこんなにも怖いのか分からないけど…私の手には自然と力が入る。そして掴んだままの上質な彼の上着に皺が深く刻まれる。


ーーその後も私の悪い想像は止まらなかった。



「…イニ。泣いたのか?」

タイラーは私をそっとベッドに降ろすと、そう声掛けをした。

(いつのまに?)


私の目の端には涙の跡が残っていたのだろうか、タイラーは私を覗き込んで心配そうな顔を向ける。

(嫌っては、ない?でも…嫌いでもそう見せない奴はいるしな、私もその1人だ。)


ネガティブな心は、彼のそんな優しさでさえ疑い始める。

(私は、なんてやな奴なんだろうな。)


私はフルフルと首を振り、泣いてないよと否定する。


「…私にも、教えてくれないのか?」


私は首を傾げる。

(なんで、そんな辛そうな顔をするんだ?)


私は大急ぎで紙に〈大好きって言ってごめんなさい。もう二度と言わないから嫌わないで。〉と綴る。


ウジウジ自己完結するのは、性に合わない。だから出来る事を全部やって許して貰おうと思ったのだ。

上辺だけの付き合いとか、媚び売りしか私は分からないけど、タイラーとずっとずっと一緒に居たい。


喧嘩をしたら謝れば良い、困って居たら助けてあげれば良い、仲良くないたいなら歩み寄ればいいのだ。そう、単純な事。


それでもダメだったら他の方法を考えればいいのだ。私はネガティブを無理矢理取っ払った。


「…まさか、僕が黙ったのは、引いたからだとか、思ったり……?」


私がそれを肯定すると、タイラーの顔はみるみる赤く染まっていく。その光景を私は冷静に、ただ眺めていた。

(うーん?)


「引いてない!あの、と、友達に、その、だ、だだ大好きって言われたのが、初めてで。嬉しく、て。恥ずかしかったというかなんというか…」


うん、一旦落ち着こうか。

挙動不審で、視線泳ぎまくりの、チラチラこちらの表情伺いながら話す様子は、可愛いけども、かなり怪しい。


「ゴホンッ。つまり、嫌いでは決してないし、引いてもいないという事だ。」

(あー、口調戻っちゃった。)


〈口調変わるのはなんで?〉

私は紙を見せる。


「あー、子供っぽいのは舐められるとかで、執事が指導してくれている。偉い人の話し方らしいが…よく分かっていない。」


私は理解した。

その執事さんもまさか、無表情で口調だけ偉そうで、正論をズバズバ言う、どう頑張っても嫌味にしか聞こえない、なんてなるとは思わなかったんだろうなぁ、とかなり同情した。


それよりも、彼に嫌われてなかった事が、とてもとても嬉しくて、気が抜けて、安心して、私は思わずヘラリと笑う。


今になって、ずっと気を張っていた事に気付いた。

手が、体がカタカタと震え出す。私はその手で布団を握りしめて、何でも無いように振る舞う。タイラーは私の異常に気付かない。


「そろそろ、夕食の時間だな。…夕食は家族で食べる決まりなんだ。だから、一緒に居られなくてすまない。また、明日。」


私は無理に笑顔を作って、右手をヒラヒラと振って「バイバイ」と伝える。


それで良かった筈なのに、


扉が閉まる様子が、閉じ込められた時を思い起こさせた。閉じて行く隙間から見える瞳が、ババァの勝ち誇った顔と重なるーー


バン…バン……バンバン

私は動かない足を必死に動かして扉にすがりつく。

(出して!また…また閉じ込めるの?もう、もう嫌だ。お願い…もうやめて。やめてよ…。)


私は何度も何度も、扉をガリガリと爪で引っ掻く。それで扉が開くはずがないのは分かって居たけれど、止められなかった。

取手に手を伸ばすけど、力が無いのか、全く回ってくれなくて、私は自分の無力さに悔し涙を流す。


「ソフィア様…。あの、お体にさわられますから。」


突然、私の腕に触れる影があった。それをバッとはたき落とす様に振り払うと、私は目を見開いた。

(ババァ…?)


それに気が動転した私は急いで、部屋の隅へと逃げ込む。差し出された手が怖かった。


ーーそこには既に誰かが居た。

私と同じ様に膝を抱えて、怯えきって震えて居る、頬の痩せこけた少女が、赤い目でこちらをじーっと眺めて来る。恐怖で染まる虚ろな瞳は、私と酷く似て居る。


ガリガリで不気味で、虐待を受けた犬みたいだと思った。でも私は、そんな彼女を気にかけるだけの余裕が無くて、別の場所へと移動しようと震える足を動かして立ち上がった。


すると彼女も同時にスタッと立ち上がる。シンクロした様なその動きに、私は酷く驚いた。


そして私がバッと彼女を見ると、彼女も同時に私を見る。そしてやっと理解する。


ーーこれは私なのだ。


よく見ると板の様なものに、『私』が閉じ込められて居た。板の中にも私が居て、ここにも私が居る。


それならば、


私は誰?

どうして板の中にも私が居るの?

彼女が本物で、私が板の中に居るのか?

そもそも私って存在してるのか?


ーー分からない分からない分からない


私は頭を抱えて取り乱す。



***


ーー何時間か過ぎた。


落ち着いた私は、夜にも関わらず何故か明るい室内で板の中の『私』をジィーと見つめる。

(私ってブスだな。)


病的に白い肌。

恐ろしいまでに紅い瞳。

頬が窪んだやつれた顔。

パサパサの真っ黒な髪。

手足はガリガリで骨みたいだ。

洋服は擦り切れ、くたびれて居る。


どれをとっても、ブスで不気味だった。


動けない私は何も出来ないし、さっきみたいに急に取り乱して迷惑をかけて、良い所など何一つ思い浮かばない。

そんな私に優しくしてくれる、タイラー、お医者さん、侍女さん、兵士の皆さん、が不思議で仕方がない。


まぁ飛び抜けて不思議なのは、精霊と、悪魔さんだけれど。いつもそばに居て、私を助けてくれる。愛してくれる。


今だってこうして、“ ソフィアー、大丈夫ー?怖く無いよー、僕たちが居るからねー? ”と励ましてくれる。

何故私にそこまでしてくれるのか分からないけど、それだけでもう大丈夫だと思えた。

(板の私は、大丈夫かな?私と同じで酷い扱いを受けて来たのかな?彼女にも、精霊や悪魔さん、タイラーみたいな存在が居れば良いなぁ。)


ドタドタ

バターン

ズカズカズカ


「イニっ!話は聞いた。」


タイラーは私を見つけると、駆け足でやって来た。騒がしい登場に戸惑いつつも、私は笑顔でその清らかで美しい声に振り返る。

(大丈夫だ、笑えてるはず。)


板の中の私も笑って居るので大丈夫だと確信する。

さっきから私が笑うと、同じ様に笑って、私が手を挙げると同じ様に手を挙げる。


でも焦って居るのか、私が右手を上げると、左手を上げるのだ。

(ふふっ、おっちょこちょいだな。)


「鏡を見て居たのか?」

(かがみ?)


私の後ろにタイラーが立つと、板の中にもタイラーが映し出された。私は交互に錆色の彼を見比べる。

(あれ?)


「んー?鏡は初めてか?」

私は訳が分からず混乱する。


「鏡は、そのまま私たちを映してくれる。」


その言葉に首を傾げてる私を置いて、タイラーは何処かへ行ってしまう。私はそれを『かがみ』なるもの越しに見つめて、そのまま体育座りで自分を見つめる。


そこでハッと気付いた。もしかして雨水に太陽や雲が映るアレと同じなのでは?、と。それに納得した私は、ポンッと手を打つ。


「鏡が説明出来ないので、後は頼んだ。」


タイラーの声に振り返った私は、思わずフリーズする。

(だ、だだ…誰?)



題名が酷いですね。

最初書いたのは8,000文字超えてしまったので、二つに分けさせて頂きましたw

近々、修正追加をして更新するかもしれません。


ソフィアは、閉所恐怖症という事になりますかね。タイラーがいれば平気なのですけどね。


彼女の性格上ザマァや復讐はしないと思われます。期待してる方がいた場合、誠に申し訳ありません。

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