007「ラウ六歳(初等部一年生) 新しい人生を歩み始めた僕」
「下級貴族のラウ君……ちょっと時間いいかな~?」
ということで、上級貴族に体育館倉庫に呼ばれることに。
――体育館裏。
目の前には上級貴族のボンボンが五名。
当然、告白とかされるわけでもない……ていうか全員男だしっ?!
そして、その中でもボスのような立ち位置の男が声をかけた。
「やあ、はじめまして。僕は上級貴族のライオネル・オードリッチ。とりあえず、こんなことに時間を割くのももったいないので単刀直入に言うね。ミレーネ様との『二人三脚』を辞退しなさい」
緑の髪色をし、一見上品そうな顔立ちだが目が冷たい男はすでに答えは出ているだろ? とでも言うように声をかけて……いや、命令してきた。
(やっぱりそうきたか。そりゃそうだよな~、誰だって予想できる展開だよな)
ということで、今回も『空気を読んで』彼の言うとおり『二人三脚』を辞退する…………という答えにはならなかった。
「申し訳ないですが辞退はしません。せっかくのお心遣いですがお断りさせていただきます」
「!!……何だと?」
僕は彼の命令を拒否した。
今までの自分ならそのまま従っていたのかもしれないが、僕は新しく生まれ変わったこの世界で『自分を嫌いになることはやめる』と心に決めていたので、全力で即答で彼を否定した。
「ふ、離れ田舎の下級貴族ふぜいが何を調子に乗ってる? まあ、今のは聞かなかったことにしておいてやろう……改めて聞く、ミレーネ様との二人三脚の件……」
「お断りします!」
「き、きさま~……」
俺と上級貴族のライオネルの周囲に不穏な空気が流れる。
「なるほど……少々、痛い目を見ないとわからないほど離れ田舎の下級貴族は鈍感だということか。おい、お前たち……」
「「「「はい! ライオネル様!!」」」」
ライオネルの号令により、取り巻き連中が僕のほうにジリジリと詰め寄ってくる。つまり、集団リンチを始めようというわけだ。
「おりゃー!!」
「たあー!!」
「ふんっ!!」
「せいっ!!」
取り巻きの四人は距離を詰めると一斉に襲い掛かってきた。
普通であれば一対四なんて勝てるわけが無いし、ましてや子供ならなおさらだ。
しかし……それは『普通の子供』であった場合である。
ヒョイ! ヒョイ! ヒョイ! ヒョイ!
僕は四人をスレスレで攻撃をかわして一発も相手からパンチや蹴りをもらうことはなかった。
「な、なんだこいつの動きはっ!?」
「は、速すぎてまったく見えない!!」
四人は僕の尋常じゃない速さに驚きを隠せないでいた。
まあ、そりゃそうだ。
だって、敏捷性のステータス値は『100』……この国の師範代レベルに設定しているんだもの。
前世の頃のように、力の無い僕はおどおどと生きてきた人生だったが、女神様から頂いたこの力……『成長速度999倍』で僕は『正しいと思う道をこれから進んでいく』……そして、この力を人の役に立つよう全力で活かしていくと覚悟していた。
そして、これがその第一歩となるのだ。
僕はこいつら上級貴族の自分たち以外の生徒を見下す態度が嫌いだった。
しかも、ミレーネが何も言わないことを良い事に、このクラスは自分たちが支配者だといわんばかりな態度を平然とやってのける。
こんなのおかしいに決まっている! あと、個人的にミレーネにも言いたいことがあるし……。
まあ、そんなわけで今、僕が身に付けている力を駆使して初等部一年から僕は全力でこの世界を生きていく為にぶつかっていこうと、少しでも人の役に立てるような理想の人物になっていこうと心に決めたのだった。そう、それは言い方を変えれば……、
周囲から浮いてしまうキャラ、敵を作ってしまうキャラになるということを意味している。
「なんだ? 何なんだ、お前は……」
ライオネルも僕の動きを見て呆然としていた。
「僕はラウ・ハイドライト。首都から離れた田舎の村を治める父ロイと母ネルの息子。僕の父を鼻で笑うようなお前たちに僕はけっして屈しない!」
僕は一瞬でライオネルの鼻先まで移動し、そう強く告げた。
「ひ、ひぃ……!! な、なんだ、今の瞬間移動は……」
「別に瞬間移動でもなんでもない、足で地面を蹴って移動しただけだ」
「そ、そんな、まったく見えな……かった」
「そんなことはどうでもいい。僕は君たちの支配を受けることを今後これからも拒否する、わかった?」
「う、うるさい! ふ、ふん! いくぞ、お前ら!!」
そういうと、ライオネルは取り巻きを連れてさっさと去っていった。
僕は今までの人生ではやったことのないイジメっ子に対しての挑戦的な態度を初めて取った……のだが、実際にやってみると足がガクガク震えていた。いくら『敏捷性』やその他の基本能力が『フルコンプリート状態』でほぼ最強状態だとしても、これまでイジメっ子に対してそんな態度を取ったことがない僕にしてはとても怖くて震えるほどだった。
前世では、僕目線の何かしらの『悪』に抵抗しようなんて怖くてできなかったから勇気を振り絞って言葉と態度を示せた今の自分が少し誇らしかった。
「ほ、本当に言っちゃった……。できれば学校では目立たずにいようと思っていたのに……。でも、あんな横暴から逃げてしまえば僕が望む『人の役に立つ理想の人物』にはなれない。だから、あれで良かったんだ!…………たぶん」
すでに事を起こした後ではあったのだが、生来の『気弱さ』『臆病さ』が自分の言葉や態度に対してビクビクしていた。
そんな一人で悶絶をしているとき、
「ラ、ラウ君…………すごい!!!」
「えっ? ミ、ミレーネ!!」
振り向くとそこには、ミレーネが目をキラキラさせて僕のことをじーっと見つめながら立っていた。