006「ラウ六歳(初等部一年生) この世界の身分制度の現実を知る」
入学式から一ヶ月が過ぎた。
六歳にして、この国の女王である『ミレーネ・クイーン・ルミア』は入学式初日の自己紹介で言っていたとおり、クラスメートと身分に関係なく、コミュニケーションを取っていた。
ミレーネはその淡いピンク色の髪が肩までスッと伸びたミディアムヘアで、顔も六歳ながらすでに気品が溢れ出すほどの上品な顔で、しかも、同時に愛らしさも相まっているという奇跡的なルックスだった。そんなミレーネは国民から『神から多くをもらった奇跡の少女』と言われるほど、多くの国民から愛されていた。
そんなミレーネと少しでもお近づきになりたいと男女関係なく誰もがそう思っているのだが、実際、学校でミレーネの周りにいるのは貴族の中でも一番権威がある『上級貴族』ばかりだった。
ちなみに、この世界の貴族は上から『上級貴族』『中級貴族』『下級貴族』と貴族内でも身分の違いが存在する。そんな上級貴族連中がミレーネの周囲をがっちり固め、上級貴族以外の他の身分の低い者たちがミレーネに接触させないようプレッシャーを与えていたのだ。
ミレーネ自身、そのことに気づいてはいる雰囲気だったが、彼女の性格がとても温厚で優しく故に相手に対して自分の意見が言えない性格だったので、上級貴族はやりたい放題となっていた。
これでこの国のトップが務まるのか? と思うかもしれないが、しかし、実際、国を運営しているのは『英雄剣士』と『神官』の二人なので特に支障は無い。つまり、ミレーネは言い方が悪いが、只のお飾りのトップということである。
ミレーネはそのことを意識しているからこそ、相手に対して自分の気持ちを主張したくてもできない性格に拍車がかかったのではないかと個人的には感じた。まあ、無理も無いが……。
――今から一ヶ月前の入学初日
とりあえず、僕は『下級貴族』と一応、貴族にはあたるので多少はミレーネと話ができた。できたのだが……、
「ミレーネ様、どうですか? 学校はもう慣れましたか?」
とりあえず、この辺は元・七十七歳の経験を活かし、無難な質問で切り込んでみた。
「え、あ、はい。慣れました。あと、学校ではミレーネ様ではなくミレーネで良いですよ。あと、もっとフランクに話されても構いませんので……」
「あ、ありがとございます! で、では、ミ、ミレーネ……」
「はい、なんでしょう、ラウ?」
「あれ? 僕の名前を?」
「はい。クラスメートの名前は全員覚えておりますので」
「そ、そうなんですね、さすが女王様です、ハハ……」
ああ、なるほど。
僕の名前だから、ではなく、クラスメート全員の名前をすでに覚えたと、さすが女王様だ…………はぁ、ちょっと期待した僕って恥ずかしい。
まあ、でも、それなりにつかみが取れたのでいろいろとそこからさらに話を始めようとした時、
「おい! そこの下級貴族。そこまでだ、下がれ! 次……」
「えっ? 何で君がそんなこと決めるの?」
「上級貴族だからだ」
「あ、えーと…………理由それだけ?」
「それだけだ。他になにがあるというのだ? 離れ田舎の下級貴族よ」
「あ、失礼しましたー。何でもないですー」
僕は、元・七十七歳の経験値を活かした空気の読みでスッとすぐに後ろに下がる。前世からの性格のクセである『争いごとは避ける』や『空気を読む』が発揮された瞬間だった。
我ながら……情けない性格である。
とまあ、そんな感じで入学初日から一ヶ月後の現在、変わらず、ミレーネ女王の周囲には相変わらず上級貴族のボンボンたちが取り巻いていた。
入学初日の上級貴族たちのクラス支配により、今ではミレーネと話すのは上級貴族連中のみとなってしまっていた。
ミレーネを見ると、少し、不満な顔つきをしていたもののこちらも相変わらず上級貴族のボンボンたちに何も言い出せないままでいた。
この構図は今後もずっと変わらないまま進んでいくんだろうな~と思っていた矢先、初等部の運動会が二週間後に訪れることとなった。
そして、その中で『二人三脚』という日本ではお馴染みの競技がこの世界でも存在するのだが、その組み合わせは先生の提案で『くじ引き』となり、その結果、幸運にも僕とミレーネがその『二人三脚』の選手ということになった。
「がんばって一位になろうね、ラウ君!」
「あ、う、うん……」
元・七十七歳の僕からすれば孫以上の女の子だが、身体が若くなって同時に精神面も若くなったからなのか僕は心臓がバクバクするほど、ミレーネに対してすごく意識して緊張していた。
(これは、もしかして……初恋というやつなのだろうか? 何だかすごく照れくさい!!!)
そんな『ウキウキ幸せ絶頂期』は、この後すぐに『オロロン不幸絶頂期』へベクトル変換されることとなる。
「よう、下級貴族のラウ君。ちょっと時間……いいかなぁ~?」
上級貴族ボンボンファミリーの皆さんからすぐにラブコールがかかりました。