005「ラウ六歳(初等部一年生) ルミア王国魔法学園初等部 入学」
六歳。
僕はいよいよ今日からルミア王国魔法学園初等部の一年生となった。
僕にとって学校という場所はこの世界に来て初めて踏み入れる場所だったので期待と緊張でドキドキしている。
ちなみに、長男のフィネスは現在、魔法学園初等部の五年生。しかし、五年生にして『初等部の生徒会長』を勤めている。運動神経抜群で頭脳明晰、おまけに顔もイケメンということも相まってなのかはわからないが、とにかく、初等部初の五年生の生徒会長となった。フィネスは学園の人気者だった。
あと、初等部三年生の次男サイモンはというと…………これが以外にもフィネスに負けず劣らずの初等部の人気者だった。それには少しビックリしたが以前、フィネスが『サイモンは学校では面倒見の良い人物で人気者だよ』ということを言っていたことを思い出した。まあ、確かに昔に比べて最近はサイモンも僕に対してフレンドリーになったし、よくよく考えてみるとけっこう家でも面倒見もよく頼りがいのある面もちょくちょく垣間見えることもあった。そう考えると「本当、仲良くなってから変わったな~」と僕はしみじみと感慨に耽っていた。
とりあえず、これから入学式ということで体育館には僕たち新一年生と在校生、それと息子、娘の晴れの舞台を見に来た父兄らが集まっていた。
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「ルミア王国魔法学園」
初等部から中等部、高等部までエスカレーター式で上がっていく学校。
魔法をメインに授業を教えているが、それ以外の武道や剣術もちゃんと教え将来のルミア王国を担う魔法使いや戦士、剣士、その他数々の専門家を育てる為の国の教育機関となっている。
ちなみに初等部、中等部、高等部は日本の小学校、中学校、高校と同じシステムなので、初等部は六年制、中等部は三年制、高等部は三年制となっている。
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――入学式
挨拶は生徒会長である長男フィレスの言葉から始まった。
こんなに生徒や先生、父兄がいる中で堂々したフィレスの挨拶を聞いて、ウチの長男はなんて立派な人物なんだと改めて尊敬の念を覚えた。
ちらっと奥の父兄のいる観覧席にいたロイとネルを見てみると、僕以上に感動して涙を浮かべていた。まあ、そりゃあ自分の息子があれだけ立派な挨拶をしているのを見ればそれだけ喜ぶのも当然だろうな。
前の人生で一度結婚した時にできた一人娘の入学式のときも、今とは少し違うが堂々と新一年生として入学式会場を行進する娘に感動したことを思い出し、ロイとネルの姿を見て一人感慨に耽っていた。
いろんな意味で懐かしさとせつなさを覚えた。
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入学式も終わり、僕はロイとネルに一言声をかけた後、教室に戻った。
ここからは各教室でのホームルームが始まる。
僕たち一年生は全部で五クラス。
一クラス約二十人なので、全一年生は百人となる。
これは他の学年も同じような感じなので、初等部は六学年なので全員で六百人が在籍しているということになる。なかなかの人数だ。
今、ホームルームでは一人ひとりが自己紹介を始めている。
この自己紹介で知ったことが二つあった。
一つは各身分の生徒が一クラスで一緒に授業を受けるということ。
それともう一つがクラス内での身分ごとの割合だ。
まず、この世界の身分制度は上から『王族』、続けて『貴族』『平民』と来て、そして……『奴隷民』が一番底辺の身分となる。また、生徒の身分の割合は王族が二割、貴族が三割、平民が四割、奴隷民が一割となっている。この学校の凄いところはなんと『奴隷民』も他の身分の生徒と同等に『学生』として扱っているところだ。
実は、ルミア王国では現在、国の方針として『奴隷民』を無くすことに力を入れている。そして、その目的遂行への第一歩を『教育機関』である『ルミア王国魔法学園』から始めることとなり、実際に現女王『ミレーネ・クイーン・ルミア』が学園に入学することとなった。
これまでは、王族と貴族は別の施設で教育を受けるなど、平民・奴隷民との格差(建物の豪華さや教育水準の高さなど)があった。しかし、これでは全王国民に豊かさを享受するという前国王並ぶにその前の国王の『夢』を現実にすることは難しく、また、国益の面でも教育は平等であるほうが国の将来にはプラスとなるという判断から、前国王は病に倒れる前に『身分による格差』を無くすための方針を打ち出した。
そして、その父親、祖父の想い、願いは一人娘である現女王のミレーネに受け継がれることとなる。
ミレーネはその二人の『夢』を実現する最初の第一歩として、ルミア魔法学園に女王としてではなく、あくまで『一生徒』として入学することにした。
ちなみに、これまでの身分による教育制度はミレーネの父親である前国王『ロマネシア・キング・ルミア』により、すべての身分の者が等しく教育が受けられるよう教育機関に大きくメスを入れるなどして大幅な組織解体と新組織体制を推進したことで、ミレーネやラウたち一年生からすべての身分の子供たちが同じクラスで授業を受けることとなった。
「皆様、初めまして。ミレーネ・クイーン・ルミアと申します。身分としては女王でありますが、これからの王国は皆が平等に暮らせる社会を実現することを目標に動いていきますので、皆様も気兼ねなく、お付き合いいただければと思います」
と、ちょうど今、ミレーネ・クイーン・ルミアの自己紹介が終わった。
そう、僕はこのルミア王国の頂点にいるお方……ミレーネ・クイーン・ルミア女王と同じクラスなのだ。
ていうか、僕と同じ六歳でこの国の『女王』だなんて……なんだか、想像もできないほど住む世界が違い過ぎる人なんだろうな~というのが僕のミレーネ・クイーン・ルミアという人物の第一印象だった。
しかし、そんなことを思っていた僕はその後、ミレーネ・クイーン・ルミアと思いがけない出来事により、結果、急接近していくこととなる。