044「ラウ六歳(魔物調査) 戦いの終結」
「な、何者だ…………?! 私の『殲滅の魔弾』を受けて…………なぜ、平然としている?」
ヴェルネドが状況を把握できない中、ボソッと呟く。
「あれは確か…………ナイータ様が人質として連れてきた子供…………しかも、封印の部屋にいたはず…………一体、どういうこと?」
横で、シュメラが眉を寄せながらラウを見ている。
「ヴェルネドの『殲滅の魔弾』をまともに食らって、なんで…………立っていられてるんだ?」
武神ガルニアス・モーゼスも、また、驚きの表情を露わにしていた。
そんな中、一人…………不敵に笑う男がいた。
「それじゃあ…………もう一度、確かめるまでよっ!!」
「!?…………よ、よせっ!」
ガルニアスが止めるが七天の剣士、ハリシュ・ボーエンはガルニアスの制止を無視し、ラウに向かっていった。
「……っ!!」
ラウがハリシュに気付くと、すぐさまハリシュに突っ込んでいった。
「へっ! 俺、相手に丸腰で突っ込むかよっ!……………………殺すっ!! 剣技『千本乱戟』っ!!」
怒気を込めた口調で、ラウに剣技を繰り出した………………がっ!
フッ。
「なっ……?!」
ラウが目の前から一瞬で消え、ハリシュの剣技が空を切る………………と同時に、ラウがハリシュの背後に回りこみ、
「やああああっ!!!」
ラウが『ステータス値999の攻撃力』に火炎魔法『火炎放射』を纏った手刀でハリシュの『右腕』を……………………焼き切った。
「うぎゃああぁぁあぁあぁ~~~~~っ!!!!」
ハリシュが大きな悲鳴を上げる。
「お、おいっ! あいつ、まさか暴走して…………」
それを見たマルスがラウが暴走しているんじゃないか、と懸念を抱く…………が、
「……いえ、そんなことはありません。ラウ君は冷静な状態で今の攻撃を行っています。前の『暴走の一件』でラウ君の中で何か変化があったのでしょう…………素晴らしい動きです」
ライオウがラウを見て、ただただ称賛の言葉を上げる。
「ラウ君…………すごいっ!」
「あ、あいつ…………初めてまともな戦闘を見たけど……………………あんなに強いのかっ?!」
ミレーネがラウをキラキラした瞳で感嘆を漏らす横で、ライオネルは目の前のラウの戦闘に驚嘆した。
「ハ、ハヤテが防戦一方だった相手に………………本当に何者だ、あいつ?」
「…………」
七武神でも一目置かれている剣士、ハヤテ・タカマガハラでも防戦一方だったハリシュ相手に圧倒している状況に信じられないといった様子で眺める戦士のエミリオ・バクスター。
そして、その横にいたハヤテはそんなラウの様子を見て、何か考え事をしている様子で傍観していた。
「て……てめえ…………許さねえ…………許さねえぞーーーーーーっ!!!」
ハリシュは切断された腕の痛みなど感じていないかのように腕を抑えることもなく、ただただ『狂犬』のごとく、血管が浮き出るほどの怒りの表情でラウを凝視する。
すると、もう一人、七天から飛び出した男がいた。
七天の武神ガルニアス・モーゼス。
ガルニアスは自身の武具である大斧を握り締め、ラウに襲い掛かる…………が、これもまったくラウに当たらず空を切る。
ガルニアスの攻撃を皮切りに、シュメラ・ニコルファスも、雷撃魔法『大罪の雷光』を放つが、その雷撃さえもラウは悠々とかわしていた。
「この野郎ぅおあおあおおあ~~~~!!!」
さらに、右腕を失ったハリシュも剣を左手に持ち替え、攻撃に加わる………………が、
「そ、そんな…………バカな…………バカな~~~~っ!!!」
右腕を失っているとはいえ、物凄い速度の剣戟を放つがラウには一太刀も当たらない。
勿論、そのハリシュの横では同時にガルニアスも重量感のある大斧を軽々と振り回し、こちらも目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出しているが、それでも………………ラウにはまったく当たらなかった。
「な、何なのよ…………この子…………」
シュメラはすでに戦意喪失し、ガルニアスとハリシュの攻撃を余裕でかわすラウに半ば呆れていたが、それ以外の七天のメンバーや、ライオウ、七武神など、そこにいた者たち皆が驚きを通り越し呆然としていた。
「ラウってあんなにも強かったか……?」
「……ふむ。半年前、私たちと手合わせをしていたときとは全然違うレベルですね。この半年の間に強くなったのか、もしくは、半年前の手合わせの時は力を抑えていたのかは…………わかりませんね。ただ、いずれにしても、ラウ君は私たちが考えている以上に持っている力は『強大』…………だということです」
マルスとライオウが目の前のラウの圧倒的な強さに呆れつつも、そのラウの強さを受け入れていた。
「やめろ、お前ら……っ!!」
すると、ここでヴェルネドが七天の二人を止める。
「はあ、はあ…………うるせえっ! 邪魔すんじゃねえーーーっ! ヴェルネドぉぉ!!」
すぐさま、ハリシュがヴェルネドに怒気を向けた。
「…………だまれ」
「!?…………ご、ごふっ!!」
――瞬間、ヴェルネドがハリシュの前に移動し、同時にハリシュの腹に重い一撃を入れる。
ハリシュは一撃でその場で意識を失い倒れた。
「はあ、はあ…………ヴェルネド。どうする気だ?」
息が上げながら、ガルニアスがヴェルネドに尋ねる。
「…………無論、私がこの小僧を始末する」
「しかし……この子供、いくらお前でも一人では…………」
「あぁん?…………何か言ったか、ガルニアスぅ~~……」
「!?…………あ、い、いえ…………」
ガルニアスは先ほどとは打って変わって、怒りに顔が歪んだヴェルネドを見て、恐怖のあまり咄嗟に敬語で返答していた。
(あ、あんな怒りで顔が歪んだヴェルネドは……………………初めてだ)
ガルニアスは心の中でヴェルネドの変化に一人、恐怖していた。
「おい、小僧…………お前、名は?」
「ラウ…………ラウ・ハイドライトだ」
「お前は一体何者だ?」
「ただのルミア王国魔法学園の初等部一年生だ」
「…………初等部……一年…………だとっ?!」
ヴェルネドはラウの言葉にさらに怒気を荒げる。
「お前は…………今ここで………………始末するっ!」
そう言って、ヴェルネドがラウに襲い掛かろうとした、その時……、
「はい、そこまで~……」
「誰だっ?!…………お、お前は…………」
「は~い、七天の皆さん…………そして、ライオウ、七武神の皆さん…………お久しぶりです、あの時の魔族…………ヴィルカルマです」
突如、ヴィルカルマがヴェルネドとラウの間に現れ、戦闘を止め、ライオウたちに会釈をした。
「あ、あの時の魔族…………確か、魔王の右腕、ヴィルカルマ…………」
「あ、覚えてたみたいですね、ライオウ・スピルデン君…………光栄です」
ライオウがヴィルカルマの名前を思い出すと、そのことに素直に喜ぶヴィルカルマ。
「……邪魔をする気か? ヴィルカルマ」
「その通りです」
「!?…………ぐっ」
ヴィルカルマは返事を返すと同時にヴェルネドに向かって掌を向け、『何か』の能力を発動し、ヴェルネドの動きを止める。
「くっ?!…………亜力か」
ヴェルネドが『亜力』という言葉を出すと、諦めたように抵抗するのを止めた。
「やあ、ラウ君…………さっきぶり」
「……ああ、さっきぶり」
ヴィルカルマは笑いながらラウに話しかける。
そしてラウもまた、それに返事をする…………が、双方とも警戒しながら対峙している。
「いろいろと見せてもらいましたよ、ラウ君。いや~、君、強いね…………しかも、まだ六歳……ルミア王国魔法学園の初等部一年生だって? まったく、信じられないよ」
「……どうも」
二人の会話の様子を両陣営が静かに見守っている為、辺りは二人の声だけが響き渡っていた。
「さて、とりあえず、こちらとしては少々予定外のことが次々の起こるのでね…………一旦、体勢を立て直すことにしたよ」
「…………そんなの僕が許すと思うか?」
「い~や、許さないだろうね………………だから、こういうのは……どうかなっ!!」
そう言うと、ヴィルカルマは後方に瞬時に下がり、同時に魔法を発動した。
「認識阻害魔法……『踊る光』っ!!」
すると、ヴィルカルマの掌から激しい光が辺り一帯に拡散した。
「くっ……?! 目くらましかっ!!」
ラウは周囲が見えない状態となった為、顔の前に両手を交差させ防御に意識を集中した。
しかし、ヴィルカルマの攻撃は………………なかった。
十秒ほどすると光が収まり、周囲を見渡すことができるようになったが……、
「…………いない」
ラウの前にはすでにヴィルカルマと七天の姿はなかった。
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「…………なんだ、何が起こったんだ?」
マルスが七天やヴィルカルマが突如消えたこの状況に皆が思っている一言を告げる。
「……おそらく、姉さん…………七天のリンゼ・カトラが『転翔』を使ったんだと…………思う」
マルスの疑問にジェシカ・カトラが答える。
「…………ふむ。リンゼ・カトラ固有の魔法…………ですね?」
「はい」
「ということは…………七天やヴィルカルマたちはここから撤退したということでしょうか?」
「おそらく、そうだと思います!」
ライオウの『撤退の有無』の問いに答えたのは皆のところに戻ってきたラウだった。
「ラウ君っ!」
「すみません、取り逃がしてしまいました……」
ラウはそう言うとライオウに頭を下げる。
「何を言ってるんですかっ! 彼らが撤退するなんて…………正直、驚きましたよ!」
「えっ? そうなんですか?」
「そうなんだよっ! 七天や魔族……しかも、あの魔王の右腕、ヴィルカルマがルミア王国の戦力の核となるメンバーが揃っているこの機会を普通なら絶対に見逃さない! しかし、今回はそうせざるを得ないから奴らは撤退したのさ……」
すると、マルスがライオウとラウの間に入って言葉を発した。
「そうせざるを得ない? 何の理由で…………?」
「お前のことだよ、ラウっ! 何でそんな簡単な理由がわからねーんだよっ!!」
マルスは食い気味にラウにツッコんだ。
「えっ?! 僕?…………………………なんで?」
「現状を不利だと思ったからだよっ! もう、そこまで自分のことを理解していないと、もはや嫌味だぞ、い・や・みっ!」
「え、ええええ~~~~!!!」
マルスがいまいち理解していないラウにさらにツッコミを入れる。
「……それにしても半年前とは比べられないほど強くなっていてビックリしましたが…………何か変化でもあったのですか?」
「……えっ?!」
ふいに出したライオウの質問に一瞬、言葉に詰まるラウ。
(うーむ……これは本当のこと…………『成長速度999倍』のことを言ったほうがいいのだろうか…………い、いや、それはまだ大丈夫だろう。ここはとりあえず…………)
「あ、まあ…………心境の変化というか、か、覚悟を持って戦いに臨んだら自分でも思っていた以上の力が出て、自分のことながら……ビ、ビックリしましたっ!」
少し苦しい理由だが、ラウは強気で強引に言及した。
「なるほど……覚悟…………ですか、素晴らしいです」
「あ、ありがとうございます……っ!」
ライオウが何やら感心したので、ラウはそのままライオウのノリに合わせて返事をする。
その後、ラウは皆にさっきまでいたクシャリカ王国の王の間での話や、そこにいた魔族のナイータ、そして……………………魔王の右腕、ヴィルカルマの話をした。
「す、すごいね……ラウ君。魔族の一人をやっつけたの?」
「あ、う、うん……」
ミレーネが尊敬の眼差しでラウを見つめる。
ラウは先ほどのミレーネの抱擁が頭からまだ離れていなかった為、ミレーネの顔がまともに見れなかった。
「おいおいおいおい…………もしかして、ラウの彼女なのか……ミレーネ・クイーン・ルミア様は?」
『踊る道化師』のゾイドがそう呟くと、後ろでドタッ! と人が倒れる音がした。
「お、おいっ! 大丈夫か? メルシー……」
「あ、ご、ごめん…………だ、大丈夫、大丈夫……」
そう、笑いながらゾイドに返事をするメルシーだったが、メルシーが話しかけた先にはゾイドの姿はなく、誰もいない空間に一人話しかけていた。
それを見ていたシャンディが頭を抱えながら、メアリーに近付く。
「……メアリー、大丈夫?…………じゃないようね」
「ミ、ミレーネ・クイーン・ルミア様とラウ君って…………どういう関係なんだろう~~~~!! シャンディさ~~~んっ!!」
メアリーは近付いてきたシャンディにタックル気味にダイブし、思いっきり弱音を吐いていた。
「あ~、大丈夫、大丈夫。今はまだ…………友達だけの関係みたいだから…………」
「…………」
――一瞬、メアリーの動きが止まる……………………が、
「それって、友達以上恋人未満のどのあたりまでの関係なのでしょうかぁあぁあぁ~~~っ!!!」
「あーーーーっ! うっとおしいーーーーっ!!!」
いよいよ、メアリーは十七歳差にもひるまずラウのことを好きになってしまったようだった。
「ふぅ~~……十七歳差の壁を乗り越えてラウに本気になったか、メアリ………………」
シャンディはメアリーに聞こえないようにボソッと呟いた。




