040「ラウ六歳(魔物調査) ハイドライト家へ」
――二日後
ライオウたちはついにクシャリカ王国の国境沿いにあるクシャリカの大きな詰所…………通称『クシャリカの番所』が見えるところまで来ていた。
「いよいよ、だな…………ライオウ」
マルスが呟く。
「ああ………………いよいよだ」
ライオウも少し緊張感が顔に出ているように感じる。
「おい、ライオウ、マルス……」
すると、ライオウとマルスにロイが声をかける。
「……お前ら二日前、ネルにラウのことを報せるために俺の家に来たが、正直、ネルに会うの怖かっただろ?」
ロイがニヤニヤしながら二人に聞く。
「当たりめーだろっ!! 姐さんの怒りは過去に嫌というほど味わったからな」
マルスがそう言うと過去のことがフラッシュバックしたらしく、一人身震いした。
「…………私はマルスと違ってネルさんに怒られた記憶はないのですが、ただまあ、怖い、怖くない、関係なくこれは当然の謝罪ですから」
と、ライオウは粛々と答えながら続ける。
「……とは言え、ネルさんの器のでかさというか、懐の深さというか、いろいろと教えられました…………あの人は相変わらずすごい人ですね」
ライオウが微笑しながら答えた。
「それと、お前ら二人の仲の良さもな! 二人が二人とも、あんな同じセリフを言うとは思わなかったよ…………まさに『ザ・夫婦』って感じだったぜっ!」
と、マルスが笑いながらロイを突っつく。
「あ、いや、まあ…………でも、俺も改めて…………ネルのすごさを再認識したよ」
三人は二日前のハイドライト家の話で盛り上がっていた。
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――今より二日前
王宮の間での解散後、マルスはロイと一緒にハイドライト家に向かった。
目的はもちろん、ネルにラウの件を伝える為だ。
「姐さんに顔向けできねえ……」
マルスはずっとそう言って顔を俯いていたが……、
「……でも、ちゃんと俺の口から説明します」
「……うむ」
マルスの想いにロイはそっと相槌を打つ。
家に着くと、玄関の前でネルとフィネス、サイモン……そして、ミレーネ、ライオネルが待っていた。
「……マルス、話は聞いているわ」
「あ、姐さん……」
と、ネルはマルスに言葉をかけるや否や駆け寄り、マルスの右頬を平手で思いっきり叩いた。
「す、すみません……姐さん」
「はい、終わりっ! あんたはあんたで一生懸命だったことはわかってるわ。あんたバカだし……」
「姐さん……」
「大事なのは過去じゃない、次でしょっ!」
「ロイにも同じことを言われました……」
マルスが苦笑いを浮かべる。
「それが…………『夫婦』ってもんよっ!」
ネルがニコッと満面の笑顔を向ける。
マルスは何も言わず、ただただ、ネルとロイにそっと頭を下げた。
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「マルス、じゃあ、みんなに説明してくれ……」
マルスは頷く。
「……今、ラウがクシャリカ王国に捉えられ、その要求としてクシャリカに来い、と言われている」
皆、顔を曇らせがら話を聞く。
「俺たちがこれから相手をするのは…………『魔族』」
「「「ま、魔族っ!!!」」」
ネル、フィネス、サイモンがその言葉に驚き、ミレーネとライオネルはライオウから聞いているのだろう、険しい表情していた。
「魔族…………て、大昔に封印されたんじゃ」
「ああ、フィネスの言うとおり封印されていた。だが……詳細は省くが二十年前、封印が弱まったことがあり、その時、二人の魔族が逃げ出した。そして、今、クシャリカ王国でその二人が『魔王』復活を目論んでおり、それに必要な魔宝具との交換条件としてラウを攫ったと思われる」
「ま、『魔王』…………て、そんなのを復活させて何をするってのよっ?!」
ネルが事態の重大さにうろたえながら聞く。
「普通に考えたら…………人間を殺してこの世界を支配する、て、とこだろう」
「そんな…………」
「ラウは無事なんでしょうか?!」
サイモンが深刻な顔でマルスに聞く。
「……たぶん、大丈夫だと思う。すまん、たぶんとしか言えないが…………ただ、少なくともあっちはラウを『人質』として考えているから大丈夫なはずだ」
「そうだな、そこは私も同じ意見だ。大丈夫! ラウは強い奴だ。お前も知ってるだろ? サイモン」
「そう…………だよね。ラウの実力なら……」
「そういうことだ!」
マルスに加え、ロイもサイモンの心配を払拭するような言葉を投げ掛ける。
すると……、
「……皆様、遅れてすまない」
そこにライオウ・スピルデンが現れた。
「ど、どうしたんだ? ライオウ…………お前確か兵団総長とどこか行ったんじゃ…………」
「うむ。とりあえず二日後の進軍の手配をな……戦争とまでは行かないにしてもそれに匹敵するような敵がいることは間違いないからな。また、それと同じくらい、いや、それ以上に私の中での優先度は、本当は…………ここに来ることだった」
「ライオウ?」
ライオウの発言にロイが反応する。
「ロイ、ネルさん……そして、フィネス君、サイモン君…………本当にすまなかった!」
「「「「ラ、ライオウ(様)っ!!!」」」」
ライオウは土下座をしてハイドライト家の皆に謝った。
「ラウ君が攫われたのはそもそも私が魔物調査を依頼し、そこにラウ君を帯同させたからだ! 本当に申し訳ないっ!!」
「や、やめてください、ライオウ様! 頭を上げてください」
ネルはそう言うと強引にライオウを立ち上がらせ、
「誰が悪いとか悪くないとかそういうのはいいんですっ! 今はそういうことを話すのではなく、これからラウをどうやって救い、魔族たちをやっつけるかが大事なんですからっ! それに、ライオウは『ライオウ様』なんだから、その頭を軽々しく下級貴族に頭を下げてはいけませんっ! シャキっとしなさい、シャキっと!!」
と、ライオウにちょっとした説教をした。
「ネルさん……」
ライオウもさすがに少し驚いた様子を見せたが、ネルの言葉にすぐに我に返る。
「ネルさん、ありがとう…………わかりました。謝罪の言葉はこのくらいにします」
「うんうん」
ネルが笑顔でライオウに相槌を打つ。
「……ネルさんには敵いませんね」
ライオウが聞こえるか聞こえないかのか細い声で呟く。




