003「ラウ三歳 とりあえず『天才少年』という肩書きがつきました」
三歳になった。
赤ちゃんのときから三年間、絵本や歴史書の読み聞かせのおかげで俺が言葉をすぐに覚え、スラスラとしゃべれるようになっただけでなく、この世界の歴史を一通り、説明できることを受け、父親のロイがますます俺の教育に熱心になっていった。
「すごい! 凄いぞ、この子は! 三歳にしてすでにこの世界の歴史が完全に頭に入っているなんて……この子は天才だ!」
「すごいわ、ラウちゃん」
「ラウはすごいな。お兄ちゃんもビックリだぞ!」
「ふん! 何だよ、それくらい。僕だってそれくらい理解しているぞ!」
上の三人のコメントはロイ、ネル、長男フィネスで最後のふてくされているコメントはもちろん次男のサイモンだ。
「あ、ありがとうございます……」
僕は両親や兄が喜ぶのが素直にうれしかったが、すこし怖くもなった。
というのもサイモンのあの反応……あれはやはり敵を作ることになるものなので極力避けたかった。
とは言え、そんな「あまり天才少年なんて言わないで」と父のロイに言うことなんてできるはずもなく、この『天才少年ラウ』という肩書きは親バカのロイのおかげで村全体にすぐに広まった。
まあ、まだ三歳ということもあり、外にはまだ一人で出歩くことは許されていなかったが、たまに両親と一緒に村に出ると村人から『天才少年のラウ様だ!』『まあ、なんてかしこそうさなお顔!』と散々、褒めちぎられていた。
そんな感じで、それなりに楽しい三歳児生活を送っていたが、嫌なこともあった。それはサイモンのイジメだ。
サイモンは両親やフィネスにバレないようにたまに僕のところに来ては『勉強しかできないダメ弟め!』と文句を言われたり、叩かれたりしていた。どうやら今もまだ僕の髪の色が母親のネルと唯一同じであることが面白くないらしい。
そんな、そういうサイモンのイジメもあってかそれが『経験』となり、僕の『成長速度999倍』が発動し、『基本能力』の『体力』『腕力』『防御力』『敏捷性』がフルコンプリートとなっていた。『攻撃力』がフルコンプリートになっていないのはなんでだろうと考えてみたが、おそらく、サイモンに反撃をせず、ただ叩かれるのを耐えたり、逃げたりしていたからだろうと僕は推測した。
まあ、『防御力』がフルコンプリートとなっていたおかげで、サイモンに叩かれても痛くもかゆくもなかったのは言うまでもない。
そんな基本能力がどんどんフルコンプリートしていった中、ここで問題が発生する。
それは、僕の特殊能力である『成長速度999倍』で成長した現在の能力のままだと、手加減がすごく難しいというのが大きな問題だった。
例えば、僕的にはそっと動いているつもりでも、周囲からは一瞬消えたように見えるらしく、家にいるメイドや家族から「たまにラウが目の前から消えたりする」という不穏なウワサが立っていた。
僕はなんとかごまかしつつも、とりあえず『あまり動かない状況を作らねば』と判断。考えた結果、それからはほとんど机で父の歴史書や魔法書、経済書、武道書などといった本ばかり読む生活を送ることとなる。
元々、『天才少年』という肩書きすでにあったので、家でずっと本を読んでいても特に注意されることはなかった。これでとりあえず余計な問題が出ないようにすることはできた。
しかし、このままこの『成長速度999倍』で成長した能力のままでいるのはいずれ今後の生活を考えると大いに支障をきたすことは容易に想像できたので、僕はその対策を父の蔵書からいろいろと調べ探していた。
そんな折、僕は高熱を出し苦しむこととなる。
この世界に来て初めての病気で僕は苦しんでいたが、その時、母親が治癒魔法を使って高熱の痛みを和らげて治してくれた。
すると、その治癒魔法を受けたおかげで僕は『成長速度999倍』により、『魔法力』と『魔法量』がフルコンプリートとなり、そして、母から受けた『治癒魔法』を取得することとなる。『魔法力』と『魔法量』がフルコンプリートとなったのは、おそらく、治癒魔法を経験したからだろうと思うが、『成長速度999倍』とは本当に便利な能力だな~と改めて実感した。
。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――ある日の午後
いつものように父の蔵書を読んでいる最中にふとひとつの『アイデア』が浮かび出した。
「もしかして自分で魔法が作れるのでは?」
ヒントとなったのは今読んでいる『魔法書』に書かれた一節だった。そこには……、
「更なる高みに辿り着いた魔法使いの中には魔法の使役だけでなく、魔法自体を生み出す者もいた」
と書いてあった。
それを読んで僕にもできるかもしれない! と根拠のない自信が湧き出てきたので僕は早速、『魔法の生産』を試してみることにした。
実験は、昼間の明るい内にはできないので皆が寝静まった夜に寝室で行った。
どんな魔法を作り出すのか、それは明白だった。それは自分の特殊能力である『成長速度999倍』で成長した僕の振り切り過ぎた能力を調整する魔法だ。
自分の現在の成長し過ぎた能力を魔法で調整できれば、普段の生活で支障をきたしていた問題がすべて解決する。
そんなわけで実際に作ってみた。
本には魔法の作り方まではもちろん書いていなかったので何となくイメージでやってみる。
イメージとしては祈るように両手を胸の前に持っていったポーズで、頭の中で『能力の調整ができる魔法、能力の調整ができる魔法……』と強い思いを繰り返していた。
すると、その魔法は予想以上に簡単に出来上がった。
頭の中にその生み出した魔法らしき光の玉が浮いていた。そしてそこにはひとつ、何かを書く必要があるような『空欄』のようなものが存在していた。
その時は僕は魔法書の内容を思い出した。
魔法書には魔法を生み出すと『魔法名』が必要とのことだったので、この光の玉の空欄に僕は『偽装』と魔法名を命名した。
すると、その光の玉がはじけ、僕の頭の中の魔法名が連なる部分とは別の空間に『偽装』という新しい魔法が追加された。
どうやら、自分で作った魔法は従来の魔法とは別物という扱いのようだった。
ちなみに使い方は『魔法名』を言った後に、自分が望む数値を言うだけというシンプルなものだ。あと、さらに使いやすいようにと声に出さなくても頭で念じるだけで効果が出るような改良も付け加えた。
では、数値はいかほど設定すればいいのか?
これは父の蔵書にある『種族学』というこの世界のいろんな種族のことが書いてある本に載っている。僕たちは『人間族』という種族となり、そこには数値として体力や運動神経、知力など事細かに数値化されていた。
ということで、その本に書いてある年相応の数値を設定した。
ちなみに『知力』『体力』『防御力』だけはフルコンプリートの999のままにしておいた。理由は病気に掛からないことや、知力が落ちて勉強に支障をきたさないようにすること、あと、サイモンのイジメに耐えられるようにするためだ。
そのおかげで、その後は普通に生活することができるようになったことは言うまでもない。
そんな自分の能力を再設定した僕はふと気が付く。
「あれ? だったらゲームみたいにステータス表示ができるようになれば、全体のステータスの数値が確認できて便利だな……」
ということで、今度はそのゲームのようにステータス表示が出てくるような魔法を考えた。
そして、先ほどのように祈るポーズで頭の中でゲームのステータス表示を強くイメージした。
すると、目の前にパッと現在の自分のステータス表示が現れる。
「できた! これは便利だ……」
そこには、現在の体力や魔力、魔法量といった様々なステータスが表示されている。
ちなみに現在は数値をこの世界の三歳の平均値を設定したのでその数値が現れている(一部を除く)。
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名前:ラウ・ハイドライト
年齢:三歳
階級:ルミア王国傘下ハイドライト村の
下級貴族の三男
[基本能力]
体力:999
腕力:1
敏捷性:1
攻撃力:1
防御力:999
魔法力:1
魔法量:1
知力:999
[魔法]
治癒魔法/1……[詳細]
[特殊魔法]
偽装
[スキル]
なし
[武道]
なし
[言語]
ルミア語/習得
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「これはわかりやすい!」
早速、僕はこの魔法名を『窓』と名付け、使い方を『魔法名』の後に『オン』と言えばステータスウィンドウが開き、『オフ』と言えば閉じるように設定した。そして、『偽装』のときと同じようにこの魔法にも声に出さなくても頭で念じるだけで効果が出るよう設定した。
「あ、[言語]ってところに『ルミア語/習得』って……やっぱり一回でもその言語で話しかけられたりすればすべてが習得できるようになってるんだ……『成長速度999倍』って相当すごい能力だな」
ちなみに再度ステータスを確認すると「特殊魔法」のところに『窓』がちゃんと追加されていた。
「ん? ちょっと待てよ……今、現在の、本来のステータスはどうなってんだろう?」
ということで、一度、『偽装』を解除して再度ステータスを確認してみた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:ラウ・ハイドライト
年齢:三歳
階級:ルミア王国傘下ハイドライト村の
下級貴族の三男
[基本能力]
体力:999
腕力:1
敏捷性:999
攻撃力:1
防御力:999
魔法力:999
魔法量:999
知力:999
[魔法]
治癒魔法/1……[詳細]
[特殊魔法]
偽装
[スキル]
なし
[武道]
なし
[言語]
ルミア語/習得
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「う、うそぉ~……何で三歳の時点で基本能力がほぼMAXになってんの?! あ、いや……これが『成長速度999倍』の効果ってことか。それにしても末恐ろしいチート能力だな、これ。このままの状態でもっと身体が成長して動けるようになったら普通の生活なんて到底、送れないだろ……」
ということで、この頃から僕は年相応のステータス値のままで生活を送るようになりました。
「あ、ふあぁ~……」
この『窓』がこの先いろいろと重宝するものだと確信しつつ、僕はまた睡魔に襲われて眠り込んだ。
三歳児でもまだ睡魔には勝てません。




