030「ラウ六歳(魔物調査) 魔物と仮面の男」
「よしっ! それじゃあ、作戦開始だっ!! いくぞ、おめえらっ!!!」
「「「「「おおっ!!!」」」」」
マルスの掛け声と共に、僕たちは早速、各担当の村へと散った。
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――マルス・シャンディ班――
「う~ん、これでよかったかな~……」
移動中、マルスがシャンディの横でボソッと呟く。
「ちょっとっ! 皆がいなくなったからって、いきなり不安な言葉なんて呟かないでよ」
「いいじゃねーか、どうせ、お前しかいないんだから……たまにはガス抜きさせてくれよ」
「ふ、ふん……っ! もう、しょうがないわね……」
シャンディが若干、頬を染めながら返事を返す。
「それにしてもメルシーとラウの班だが、一応、実力を優先して組ませたが、いくらラウのの能力が高いといっても、まだ本当の戦闘…………『殺し合い』なんて経験したことない、しかもまだまだ年齢的には六歳っていうガキもガキな奴をアタッカーとして組み合わせした俺の判断は間違いじゃ………………やっぱ、今からでもラウと俺は一緒の班に……」
と、来た道を戻ろうとするマルスを、
「何、言ってんのっ! あんたの判断は間違ってないわ。ていうか、この班決めはどちらかと言うとわたしたちチーム全体の総意じゃない、違う?」
シャンディがマルスの腕を取り、力強く引き留める。
「シャンディ……」
「大丈夫よ、ラウ坊やはそんじょそこらの子供とは違うし、むしろ、もうすでに大人と遜色ないどころかそれ以上の……『男』さ。あんただってこれまで旅をしてきて理解しているだろ? あの子の……ラウ坊やの達観ぶりは」
「……ああ、まあな。正直、ラウと話をするとつい深い話までやってしまうくらい、あいつはあまりにも子供らしくない子供だ。まるで『じーさん』レベルの年上と話してる気分になるぜ……」
「同感ね。まあ、良い子には変わりないんだけど……。でも、そういった外見とは異なる達観ぶりとかが、案外、ラウ坊やの『強さの秘密』につながっているのかもね」
「はぁ~? 何言ってんだ、お前。ラウがガキであることには変わりはないし、それにラウの達観ぶりと強さが何の関係があるってんだよっ?!」
「何よっ! あんたこそ、そう感じたんでしょ?!」
「知るかよ。俺はただ現実をそのまま受け入れているだけだ。まあ、ラウが普通の子供とは違うのは理解できるがそれと強さが関係あるってのはな~…………プ~、クスクス」
「あっ?!」
シャンディが切れて、割と本気の攻撃魔法をマルスに繰り出しながら、二人は仲良く村へと歩みを進めていった。
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――ゾイド・アーカム班――
「……しかし、まあ、なんつーか、俺たちが魔物にここまで翻弄されるとはな~……マジ、むかつくっ!!」
と、腹いせに周囲の木々を素手でぶっ倒しながら進んでいくゾイドと、その後ろから、
「ゾイド、とりま落ち着け、とりま落ち着け……」
冷静に二度同じ言葉を入れながらゾイドを宥めるアーカムがいた。
「それにしても、魔物襲撃はどこになるんだろうな~……俺たちは魔物襲撃の可能性としては二番目になるみたいだけど、できれば当たりだったらいいのによ~……そしたら、これまでの鬱憤を晴らすべく大暴れしてやるのによ~」
「うん、そうだね。いい加減、僕も大暴れしたい気分だよ……」
「お、珍しく調子が合うじゃねーか、アーカムっ!」
「ここ最近だと、ラウ君との戦闘くらいしかやってないからね……」
「だな~……この旅に出てから半年間もずっと魔物に会わなかったもんな。……にしてもラウ・ハイドライトか……あいつ、どこまで強くなるんだろうな?」
「そうだね。彼、はっきり言って規格外過ぎるよ。正直、あのマルスさんとライオウ様が二人で戦ってやっと互角に渡り合えたって話をライオウ様から聞いたときは意味がわからなかったよ」
「まあ、実際、その話を聞いてから特に戦闘もなかったからラウの強さをまだ見たこと無いもんな……そういう意味ではラウと組むのもちょっとよかったかもな~」
「それなら、魔物調査が一段落したら『手合わせ』してみれば? ラウ君と……」
「おっ! それいいなっ! よし、魔物ブッ倒した後にでもお願いしてみよっ!!」
「じゃあ、僕も立候補しようかな……」
「おっ! 乗ってきたじゃねーか、アーカム。うっしっ! それじゃあ、サクッと魔物ブッ倒しに行きますかっ!!」
なんだかんだで、似た者同士の気の合う二人はテンション高めに村へと急いだ。
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――メルシー・ラウ班――
「それにしてもラウ君ってさ~、六歳には見えないよね……」
ニュっ!
「な、何ですか、突然……っ?!」
今年、二十三歳になるメルシー・アイライナだが、顔は幼く、体型も小柄ということもあり、見た目十代前半にしか見えない。
そんな、小柄なメルシーがラウの顔を下から覗きながらふと呟いた為、ラウは虚をつかれてビックリする。
「いや、だってさ~、マルスさんと話している時の内容とか聞いててもさ~、なんていうか…………もう大人じゃんっ! 難しい言葉も知ってるし……」
「あ、いや、そんな……別に大したことないですよ」
「大したことありますっ! しかも、ライオウ様の話だとラウ君、凄く強そうだし……」
「い、いや、それは……ライオウ様の買いかぶりと言うか、言い過ぎと言うか……」
「ううん、ライオウ様はそんな買いかぶるようなこと言う人じゃないもんっ! 逆にそこまで謙遜するラウ君を見れば見るほど、ライオウ様の話は本当なんだろうな~、て感じるもんっ!」
「うっ……そ、そうですか……」
い、意外に鋭いっ!
メルシーって、顔や体型だけ見れば幼い外見だから、つい、油断してしまうけど、実際は洞察力がすごい長けてる人だよな~。
別にウソついているわけじゃないけど、『成長速度999倍』の能力を伏せてることを気づかれないようにしないとな…………以後、メルシーには注意しよう。
「でも、いくら強くてもまだラウ君は戦闘経験が無いんだから今回は戦闘は避けるのが最優先よ、いいっ?」
「はいっ!」
「なので、村へはあまり目立たないように入っていきましょう……まあ、ここは魔物襲撃の可能性が一番低い村だから大丈夫だとは思うけどね……」
「……メルシーさん、それフラグな匂いがするからその話はやめましょう」
「えっ? フラグ? 何、それ?」
「あ、いや、何でもないです……」
そんなことを話しながら、僕とメルシーは村へと向かった。
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――マルス・シャンディ班――
――ゾイド・アーカム班――
ヒュルルル~…………パンっ! パパンっ!!
「「「「あ、赤色閃光弾っ!!…………」」」」
二つの班から遥か離れた奥の森の空で、鮮明な『赤色』の閃光が空を覆った。
「「「「あ、あそこは……………………メルシー・ラウ班っ!!!」」」」
二組は、最大限の速度で急ぎメルシー・ラウ班の元へ急行した。
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――メルシー・ラウ班――
――十分前。
「ふう、やっと着いたわね~……それにしてもさすが国境沿いの村、特に何も無いわね~……」
メルシーはつまんなさそうな顔をしながら村の裏道を歩いていた。
とりあえず、目立たない路地裏から村の様子を伺おうというメルシーの案で僕たちは裏道から村に入っている。
「国境沿いの村ていうのは、どこもこんな感じなんですか?」
「そうね~、だいたいはどこも似たり寄ったりね……。あ、でも、ラウ君とこの村はけっこう活気あるわよね?!」
「そうですね……領主である父さんが自ら村の人たちが楽しんで暮らせるよう、いろいろと走り回ったりしてるんで……」
「ふ~ん、そうなんだ~……『七武神』のあの『拳聖のロイ』がそんな人だったとはね~、でも、すごく気さくで優しいからロイさんと話していると『七武神』とか『拳聖のロイ』とか忘れちゃうのよね…………でも、逆にそういうところがやっぱ…………すごいと思う」
「…………」
やはり、メルシーの洞察力はすごい。
この程度の話で、けっこう核心めいた部分を把握したような……そんな感じがメルシーの言葉から伝わる。
『見た目は子供、中身は大人』……そんなフレーズが頭に響く。
「それにしても、この村、人いないわね~……もしかして、魔物にすでに教われてんじゃないの~…………なんちゃってっ?!」
またもや、フラグを立てる『一級建築士』。
そして……、
「ぐもぉぉぉぉおぉおおぉおお~~っ!!!!!!」
「きゃあーーーーーーーーっ!!!!」
「「!!!!!!」」
突然! その荒ぶった野生の雄たけびと女性の悲鳴が耳に入ってきた。
さすが『一級建築士』っ!………………などとディスっている場合ではない。
「い、今のは、まさか…………魔物っ?!」
「!?」
すると、先ほどまでのんびり歩いていたメアリーは瞬時にスイッチが入り、自分と僕に『認識阻害魔法』を展開する。
「認識阻害魔法、『不可視の世界』っ!」
僕たちはお互いの身体が透けていくのを確認すると見失わないように手をつなぐ。
ちなみに女子とここまでしっかりと手をつなぐなんてこと、前世で妻と離婚して以来無かったので久しぶりの感触に胸がドキドキする………………などと、トキメいてる場合ではない。
僕たちはその悲鳴のする場所へと向かった。
すると、村の奥にある教会の目の前の広場で村人…………おそらく全員が集められていた。
そして、その周囲には魔物が三十匹ほどおり、それらが村人を囲う形で立っていた。
「なんてこと……この村が『当たり』だったなんて、とんだ誤算だったわ……」
メルシーは険しい顔をしながら村人と魔物の様子を眺めている。
「それにしても…………妙ね」
「何が……ですか?」
「あ、うん……あのね、通常、魔物は人間を見つけたらすぐさま殺そうと襲い掛かるもんなんだけど…………でも、今、見る限りではそんな気配はまるで感じられない…………それどころか、何となくだけど…………『誰かの指示を待っている』ような気が…………」
と、メルシーがその鋭い洞察力で現場の状況を確認していると、
「村人の諸君っ! 私は気が短い。なので、できれば早急にお前たちの村にあるであろう『魔宝具』を持ってきてほしい。十秒待ってやる。用意…………スタートっ!! い~ち、に~い…………」
突如、顔半分のところで白色と黒色のツートンカラーをした仮面の男が姿を現し、魔宝具を持ってくるよう要求し…………そして、何やらカウントを始める。
しかし、村人たちはその問いに反応しない。
「……く~う、じゅうっ! えいっ!!」
十まで数え終わった仮面の男が右手の人差し指を徐に集まっている村人へ向けると、その指先から放たれた光が村の男の心臓を…………貫いた。
「「!!!!」」
仮面の男は、またも同じ事を要求し、十を数え始める……。




