029「ラウ六歳(魔物調査) 不審なる兆候と奇襲作戦」
――魔物調査の旅に出てから半年の月日が流れた。
僕たちは今、ルミア王国領内にある村々で魔物が組織的に襲っているという情報を基に襲われた村を回っていた。
ライオウ・スピルデンの話によると、通常、魔物が組織的に襲うことはほとんどないらしいのだが、ここ最近、組織的な襲撃ばかり続くため、何者かが裏で魔物を統率して動かしている可能性が高いとのことだった。
俺たちの調査依頼は『魔物を統率している奴がいるのかどうかの確認』と、『可能であれば捕らえる、討伐する』という依頼内容だった。
ちなみに、この依頼は王族依頼であり、依頼主はライオウ・スピルデンとなっている。
本来なら、王族依頼はほとんど『特別結社』が担うのが通常だが、今回はライオウ・スピルデン個人での依頼ということで周囲には納得してもらっているとのことだ。
それにしても……、
「ま、また、襲撃後…………っ! どうして魔物たちはこうもうまく立ち回ることができるのよっ?! こんなの……普通じゃありえないっ!!」
『踊る道化師』の治癒士メルシー・アイライナが激しく言及する。
僕たちは、ついさっき『ルミア王国とクシャリカ王国の国境付近の村がまた襲われている』という情報を村の警備兵から聞き、すぐさま駆けつけたのだが、百人ほどが住んでいるその小さな村の住人全員が魔物によってすでに殺された後だった。
家々は皆、倒壊または激しく損傷しており、また至る所で争った後であろう血痕なども生々しく残っていた。
僕らはこの半年間、魔物に襲われた情報を聞きつけてはすぐに村へと向かうが、僕らが着く頃にはすでに襲撃が終わり全滅させられた後…………という状況を繰り返していた。
「なんで、たかが魔物相手にここまで後手に回っているんだ、俺たちはっ!! これじゃ、まるで俺たちが遊ばれてるみたいじぇねーかっ!!!」
戦士のゾイド・オッペンハイマーが頭をくしゃくしゃしながら激しく怒気を込めた言葉を吐く。
確かにこの半年間、ずっと襲撃後に駆けつけるという後手に回ってばかりだった僕たちは、ゾイドと同じように多少の苛立ちを覚えていた。
「それにしても妙よね……この村にはBランク相当の警備隊や冒険者も何人かはいたはずなのに、それがこうも簡単に全滅どころか村人まで全員やられるなんて……」
魔法使いのシャンディ・バーナムは冷静にこれまでと現状を把握、推移しながら、様々な可能性や見落としがないかを熟考していた。
「魔物にしては行動が緻密過ぎる………………これは……大きな違和感」
「うおぅ!! アーカムが同じ事を二度繰り返さない、だとっ?!」
久しぶりに同じ事を二度言わず、普通に喋り、周囲を驚かせる武道家のアーカム・タルト。
「いや、僕だって普通に喋るよ。驚き過ぎ、マジ、驚き過ぎ……」
と、言いながらまた同じ事を二度言うアーカムを見て周囲はホッと安堵の息を吐く。
「それにしてもいろいろ腑に落ちない点は多いが一番の違和感は…………『強い魔物が多すぎること』と『効率的過ぎる襲撃』という点だな……」
そう……マルスが言うように、本来、ルミア王国とクシャリカ王国の国境沿いの魔物はほとんどがDランクの冒険者の狩場となるほどの魔物しか存在していないはずだった。
その為、国境付近の各村には、ルミア王国からBからCランクの警備兵が常駐して村の治安や魔物の襲撃に備えている。
そして、これまではそれで対応できていたのだが、ここ半年中に襲われた各村はすべて全滅させられていた。
「これで、俺たちが調査に入ってから半年で襲撃が五件か…………こんなハイペースで村を襲うなんてこれまでの魔物じゃ考えられん。しかも、俺たちが着く時間を想定してきっちり襲撃しているところを見ると、やはり、ライオウが睨んだ通り『何者か』が魔物を巧みに統率し効率的に襲撃していると考えるのが自然だろう…………」
傭兵結社『踊る道化師』のリーダーで、且つ、この国の『柱』として支えている『七武神』の一人、マルス・ヴィンテージがこれまでの村の襲撃跡や常に自分たちが後手に回っている状況を踏まえてそう判断した。
「僕もそう思います。皆さんから魔物の話を聞く限りでは、あまりにも通常とはかけ離れた迅速かつ的確な行動ですので、やはり、『魔物』を利用している『誰か』がいるのかと……」
と、ラウ・ハイドライトが冷静に現状を把握、判断し言葉にする。
「ジンソク カツ テキカク ナ コウドウ…………て、お前、何歳だよっ?!」
ゾイドがラウにツッコミを入れる。
「失礼なっ! 僕は次の誕生日で七歳になります。もう、れっきとした大人です」
「いや、まだ、れっきとした子供だろっ!」
「「ああ~ん……?」」
ゾイドがラウに向かってガンを飛ばし、ラウもそのゾイドのノリに合わせてガンを飛ばす。
ラウは最初こそ遠慮していたものの、今では『ゾイドはアホ』という事実を知り、それからは二人は兄弟のようにケンカっぽいことをしつつも仲良くコミュニケーションを取っていた。
「おい、ちょっと話を聞いてくれ…………」
そんな中、ここでマルスが提案をする。
「これまで俺たちは魔物の後手ばかりを踏んできた……。いい加減、我慢の限界ということで、今度は『こちらから仕掛けよう』と思う」
「こちらから『仕掛ける』? 何をする気?」
シャンディがすぐさま聞き返す。
「うむ……これまで魔物が襲ってきた五つの村を照らし合わせると国境沿いの村が襲われているということがわかる。そこで、次の襲撃が行われるであろう六つ目の村を予想し、そこで…………待ち伏せをするっ!!」
「で、でも、マルスさん、その可能性のある村は全部で五つありますよ……どうやって待ち伏せするんですか?」
次にメルシーが確認をする。
「五つの村の内、さらに可能性の高い村を三ヶ所選ぶ……そして、俺たちが『二人一組』に分かれ、合計三班で三ヶ所の村で待ち伏せをするっ!」
マルスが力強くメルシーに返事をする。
そんな、マルスの作戦を聞いたラウが考え込むしぐさをしながら呟く。
「なるほど……戦力を均等にするよう組み合わせをすれば、今までよりも長く魔物をそこで立ち往生させ時間を稼ぐことができる。そして、その間に皆に知らせ集まったところで魔物を叩く…………その為の『時間稼ぎ』ということか」
「そうだっ!…………さすがだな、ラウ。そして襲撃された班はこの……『赤色閃光弾』を上空に打ち上げ皆に知らせる。『赤色閃光弾』を見つけた班はすぐに現場へと直行する…………まあ、こんな感じだな」
「さすが兄貴っ! アホみたいにめっちゃシンプルじゃないっすかっ!!」
「アホは余計だっ! ていうか、お前にアホなんて言われると……むかつくわ」
と、ゾイドはマルスを褒めたつもりだったが、言葉のチョイスを誤り、逆にマルスの怒りを買って殴られた。
まあ、それは仕方の無いことだった…………だってアホだもの。
そして、マルスは皆にも確認を取る。
「まあ、いいんじゃない?…………シンプルだけど効果的だと思うわ」
「うん。マルスの計画、いいと思う、マジ、いいと思う」
「うん、やってみる価値はかなりあるかもっ!」
そういったわけで『班に分かれて待ち伏せ作戦』は決行することとなった。
「でもさ~、どうやって班分けするわけ?」
シャンディがマルスに確認してくる。
「まあ……『俺とラウ』、『ゾイドとシャンディ』、『アーカムとメルシー』……といったところかな?」
「ちょっ! ちょっ!! それはちょっとおかしくない?」
ここでメルシーがマルスに不服申し立てを行った。
「なにがだ?」
マルスはなぜメルシーが班分けを止めたのか、すぐには理由を理解していないようだった。
「あのね、マルスさん……私たちもうちゃんと理解しています…………ラウ君が規格外の強さを持った子供だって…………」
すると、全員がラウに視線を送る。
「ぶっちゃけ…………ラウはこの中で兄貴かそれ以上の強さを持っている。これはもう皆が納得している」
ゾイドがすぐに答える。
「ラウ君強すぎ、マジ、ぱない強さ……」
アーカムが同じ言葉を二回言っていないことの驚きも踏まえて、周囲は多少ざわつく。
「そうね……旅に加わる前からあんたとライオウ様で稽古つけてたのも知っているし、最終的には『二人対ラウ坊や』でやっと互角に渡り合えるくらい、『ラウ坊や』が強くなったことも知ってるのよ?」
シャンディがとどめのごとく、言い放つ。
「な、何でだよっ! 何で、お前らが俺とライオウとラウの『手合わせ』の具体的な内容を知ってるんだよっ?!」
「はい、ライオウ様に教えていただきました……」
メルシー・アイライナがニコッと微笑み答える。
「……ったく、ライオウ(あいつ)はよくもこんな恥ずかしいことを人に言えるな~…………信じられねえ」
マルスはメンバーに『手合わせ』の話を知られてショックで頭を抱えていた。
「まあ、そんなわけでマルスさん、班分けはこんな感じがいいと思います……」
と、メルシー・アイライナは実際に動いて『二人一組の班』を作る。
「……なるほど」
マルスが組み合わせを見てニッと笑う。
「では、とりあえずこの班分けの理由を説明しますねっ!」
メルシーはマルスが気づいたであろう顔を一度見て、ニコッと笑って改めて皆に説明を始めた。
まず、メルシーの考えでは、魔法剣士であるが剣の腕前が高いマルスと、魔法に特化した攻撃を得意とする魔法使いのシャンディを組ませることで、班の中で『中心となる組み合わせ』を考えた。
そして、その上で、『マルス・シャンディ班』は最も魔物の襲撃率が高そうな村で待ち伏せしてもらうつもりであると説明。
次に戦士と武道家である『ゾイド・アーカム班』だが、この二人は普段から息の合った攻撃を仕掛けるのが得意ということもあったので二番目に襲撃の可能性が高い村に行ってもらいますと言及する。
「おう、まかせとけっ! な、アーカム?!」
「不安だ、限りなく、不安だ……」
「な、なんでだよっ!!」
メルシーは、二人のコントをスルーし、説明を続ける。
「そして、最後に……私とラウ君の班ですが、私たちは一番、魔物の襲撃の可能性が低い村で常駐したいと思います。理由は、ラウ君の強さは理解していますが、如何せん、まだ戦闘経験の無い……しかもまだ六歳の子供です。なので、戦闘が起こった場合は治癒士として私がサポートをしたり、また、事前に敵の気配を察知できれば危険を回避しながら皆に知らせるよう動けると思いますので、このように班分けをしました。いかかでしょう?」
メルシーがいつもの地球で言うところのクラス委員長のように仕切り、班分けの説明を終えた。
「うむ、問題ないだろ? ラウに関してはいくら強くてもまだ『六歳』……おまけにここまで旅してまだ『魔物』と戦闘すらしたことないことを考えると…………まあ、取り越し苦労になるかもしれんが少なくとも用心に越したことはない。敵に見つかる前に察知できれば戦わずに皆に知らせるよう『赤色閃光弾』を撃つことを最優先に考えてくれ…………いいな?」
「はい、わかりましたっ!」
「もちろんっ! 私が責任を持って真っ先に皆に知らせるわっ!」
「……頼むぞっ!」
そう言ってマルスはニカッと笑い、バシバシっと僕の両肩を叩いた……少し痛い……。
とは言え、僕もマルスが言うように、いまだ『戦闘経験』が無いので、実際に殺されてもおかしくない状況で戦うということがどんなものかわからなかった。
ましてや、人間ではなく魔物と戦うのにはさすがに怖さを感じるのでマルスの言うとおり、本当に魔物の襲撃に会ったときは『皆に知らせること』と『逃げること』を最優先に行動するつもりでいた。
まあ、実際。
想定どおりに行かないのが………………世の常である。




