002「ラウ一歳 あれから一年が経過しました」
さて、僕……『源栄太』改め『ラウ・ハイドライト』はこの日、めでたく一歳となった。
周囲は父親や母親、あと上の二人の兄も一緒に僕の誕生日を祝ってくれている。
以前の人生ではではこんなことはなかった。
以前の自分の父と母は僕の小学三年生の時に離婚した。
離婚後は父に引き取られたが、あまり良い思い出はない。
だいたい酔っ払って殴られることとか、文句、罵倒されることしか記憶に無いのでこんな華やかな誕生日会は生まれて初めてどころか、前世から含めて初めての経験だったので、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
「やだ、ロイ、この子ったら笑いながら…………泣いてるわ」
「本当だね、ネル。たぶん、私たちの祝う気持ちが伝わったのだろう」
「何だよ、泣き虫だな……ラウは」
「こら、サイモン! そうじゃない。ラウは感受性豊かな子なんだよ、きっと」
「そうだぞ、サイモン。フィネスの言うとおりだ。ラウは感受性が豊かなんだよ」
「何だよ、カンジュセイって……わかんないよ。フィネス兄さんや父さんの言ってること、わかんないよ」
「まあまあ、怒らないで、サイモン。お母さんと一緒にラウの誕生日を祝いましょう」
「わ、わかったよ、母さんがそう言うなら……」
ちなみにロイというのは僕の父親で『ロイ・ハイドライト』といい、金髪に顎ひげをつけたけっこうダンディな男でこの村……ルミア王国の首都から大分離れた小さな村を治める下級貴族の主だ。年齢は大体四十代後半といったところだ。
そして、ロイの奥さんがネル……『ネル・ハイドライト』。こちらは透き通るような青い髪をしており、顔は地球だったらトップモデルになれるほどの綺麗な女性だった。年齢は二十代に見えなくもないが、前にメイドと母親の会話の中で年齢はロイと同い年と言っていた。ちょっとビックリだ。
次は、さっき僕のことを『感受性が豊かなんだよ』と次男のサイモンに注意した子供がこのハイドライト家の長男であるフィネス……『フィネス・ハイドライト』で現在は五歳。この子も金髪だ。そして、この長男のフィネスは僕のことをすごく可愛がってくれるので大好きだ。
最後に、さっき僕のことを『泣き虫だな……ラウは』と文句を言った子供が次男のサイモン……『サイモン・ハイドライト』で現在三歳。髪はこちらも金髪だ。この次男のサイモンは僕のことをあまりよくは思っていないらしく、その原因がどうやら髪の色にあるらしい。
そして、僕……『ラウ・ハイドライト』はこの家の三男として去年生まれた。髪の毛の色は青色と僕だけ母親と同じ髪の色をしている。サイモンはこの点で僕のことが嫌いらしい。
そうして、僕の一歳の誕生日は過ぎていった。
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その日の夜――僕はいろいろと考えていた。
「うーん、昼間は赤ちゃんなので寝ることがほとんどだが本の読み聞かせでだいたいの事……この世界の歴史は少しは理解してきたぞ」
昼間、いつもの綺麗な女性(後にこの家のメイドさんだと知った)に本の読み聞かせをしてもらっているがほとんどが絵本だった。その為、あくまでもフィクション……ファンタジーと思い、特に参考にはならないかも……と思っていたが、半年前、ふと父親のロイが、
「この子は賢いかもしれん。ちょっと実験してみよう……」
と言って、この国の歴史書を一冊読むようメイドに告げた。
メイドが僕にその歴史書を読み聞かせ始めた。
僕はその歴史書の内容を聞いて驚いた。どうやら、先ほどの絵本の内容は少し着色はされているがほぼ事実だったということがわかった。
その事に驚いた僕は身体が自然とピクピク動いていた。それを見たロイは、
「こ、この子は本当にこの歴史書のことを理解しているっぽいぞ……すごい、この子は天才かもしれん……!」
ということで、生まれて半年後くらいから絵本に歴史書を加えた読み聞かせが始まった。そのおかげで僕は一年経った現在、この世界のこれまでの歴史と現代の歴史を理解した。
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まず、この世界は『ルミア王国』という国が独裁して世界を管理しているらしい。
一見、そう聞くと『独裁国家=ならず者国家』という風に思いがちだが、実はこの国の独裁国家はそんな『ならず者国家』どころか、『哲人国家』と称されるほど、独り占めすることなく豊かさを全世界の国民に分け与えていたそうだ。
「いやー素晴らしい国だな、ルミア王国。僕の父親であるロイはこのルミア王国内の小さな村の下級貴族なんだよな。確かに特に資源の無い小さな村だけど、物資は行き届いているもんな。良い家庭に転生できて本当に良かった……」
このルミア国家の管理のおかげで、周辺国である四ヶ国『クシャリカ王国』『ペティシ王国』『ラズベリア王国』『イーロン王国』とも概ね友好的な関係を築いている。
しかし、この『ルミア王国』……何が凄いのかというと『先々代国王』からこの世界を統一し、その後の『前国王』から『現女王』までの百年間、その国力を維持している。
国力とはつまり『武力』となるが、この点がルミア王国が世界統一した原動力であった。
ルミア王国には一人の圧倒的英雄であり頂点を極めている『剣士』がおり、その下に七人の戦士・剣士・魔法使いがいた。その七人は皆から『七武神』と呼ばれ、その『七武神』を率いて頂点に立つ剣士のことを『英雄剣士』という。
その英雄剣士と七武神という『圧倒的武力』の存在のおかげで、ルミア王国は世界統一を成し、且つ、現在までの平和な世界を支える『源』となった。
これがこの世界の歴史だった。
絵本ではその中にいる『英雄剣士』や『七武神』といった各人物のエピソードが紹介されていた。
まあ、『英雄剣士はドラゴンの王にも勝った』とか『魔王にも勝った』などとさすがに空想的な着色も加えられていたのはまあ絵本ならではといった内容だった。
実際、この世界にはドラゴンも魔王、ましてや魔族は存在しないらしい。
太古の昔に存在していたらしいが、それは何千年も前に封印されたらしく、その封印はそれからずっと開くことは無かったらしい。
現在では一応何かあったときの為にという意味で、ルミア王国の精鋭部隊が厳重に管理しているとのことだ。
「封印してから何千年も経つんだからもう大丈夫だろうに……それをちゃんと管理するルミア王国は素晴らしい国なんだな」
まあ、ドラゴンも魔王も魔族も存在しない世界だが魔物は存在する。
とは言っても、魔物とは動物の亜種のような存在くらいなもののようで、動物に比べると凶暴だとか体格が大きいというところはあるが、別に知能があるわけでもないのでそこまで人間の脅威にもならないとのこと。
しかし、動物以上に人間に危害を加えようとする存在ではあるので、その魔物の駆除を『冒険者ギルド』という組織に属している『冒険者』という者たちが報酬を得ながら駆除しているらしい。
「『冒険者ギルド』か……この辺はまさにファンタジーのゲームや漫画のような内容と一緒なんだな。こういうことを知ると異世界という場所が地球よりも何だかワクワクするような世界に感じるな」
僕はこの異世界に感心を示しつつ、これまで習ったこの世界の歴史を一通りまとめあげた…………ところで睡魔が襲って来たのでストンと眠りに落ちる。
赤ちゃんは睡魔に勝てません。