026「ラウ六歳(初等部一年生) 『大きな枷』をまたひとつ……」
――一週間後。
マルスたち『踊る道化師』との魔物調査の旅がいよいよ明日に迫っていた。
この一週間、僕はライオウ、ロイ、マルスの技や魔法、スキルを手合わせを重ね、そのすべてを吸収した。
「はあ、はあ……ラ、ラウ君、これで私たち三人の力のすべてを吸収できましたね……」
ライオウが息切れをしながら言葉を発する。
「そ、それにしても、ラウのこの能力は……すごいな…………この一週間で本当に俺たちの力すべてを吸収するとは…………ハアハア」
マルスが苦笑いを浮かべながら呟く。
「お、お前の全開とその能力…………ネルが言ったように本当にお前は女神セイラ様が使わした『神の子』なのかも……しれん、な」
ロイはそう言い切ると前に突っ伏して倒れた。
――手合わせ最終日の昨日。
三人の能力すべてを吸収した僕は三対一で手合わせをしていた。
というのも、三人の能力すべてを吸収した後では一対一での手合わせでは勝負にならないこととなり意味を成さなくなったからだ。
つまり、一対一での手合わせだと相手を軽く凌駕するほどの力を手に入れた状態だったので手合わせが成立しなかったのだ。
自分で言うのも何だが、この国の最強と言われている『英雄剣士』や『七武神』の二人に、ここまで力の差が生まれるとは思わなかった。
「チート能力だな~」と思ってはいたものの、実際にその状況になってみると、どれだけ非常識な能力であるかを僕は改めて自覚した。
「ライオウ様、マルスさん、父さん……手合わせありがとうございましたっ!!」
僕は三人に向かって全力で礼をする。
そうして、一週間ほどで三人の能力の吸収が終わった。
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「……さて、いよいよ明後日ですが」
手合わせが終わり、皆、軽くシャワーで汗を流した後、今後のスケジュール確認ということでハイドライト家の応接間に集まりライオウが話を始める。。
「まず、今回のラウ君の魔物調査の旅に帯同するにあたり、いくつか口裏を合わせなければいけない状況になります」
「おう! つまり、ラウが俺たちチームに参加するのは『ロイが自身の後継者をラウに選んだ。そして、その武者修行の意味で俺たちの魔物調査の旅に参加する』てことだろ?」
「……そうです。基本、冒険者ギルドに所属、依頼をこなすことが可能となるのは『中等部の生徒』からですし、しかもラウ君は王宮の依頼という特別任務に参加することになるので『それ相当な理由』が必要になります。それが……」
「『ハイドライト家の当主ロイ・ハイドライトの後継者である』ということと、『七武神ロイとしての後継者』であるということ………だろ?」
ロイがライオウの言葉の先を呟く。
「そういうことです。この二つの理由であれば王宮も貴族らも納得がいくでしょう」
「はぁ~~……本当は七武神の名前は利用したくないんだけどなぁ~~~……」
「仕方ないだろ? ロイ。これもラウの…………この国を将来支える大きな柱であるラウを成長させるためなんだから」
マルスがロイに言及する。
「……そうです。ロイも手合わせをしてわかったでしょう? 彼の今の力はもはや『国内最強』と言っても過言では全くないほど強くなっている。正直、最終日の今日は私たち三人で手合わせしてやっとラウ君と良い勝負になったくらいですからね…………一週間前、『最近、骨のある相手がいない』と言っていた自分の言葉が恥ずかしいです」
ライオウが珍しく顔を紅潮させて一週間前の自身の発言を後悔していた。
「……ホントだよ、右に同じだぜ、まったくっ!…………とんでもねぇバケモンだよ、こいつは」
マルスも同じように一週間前の自分の発言に羞恥していた。
「おい、お前ら……私の息子を『バケモノ』扱いするな!…………と言いたいところだが、実際、手合わせをしてわかったよ、ラウ……お前はやはり只者じゃない。英雄剣士と七武神二人を相手でお前とやっと互角にやり合えるその強さは、もはや世の中の強さの枠から大分逸脱している。ネルが言った『女神セイラ様の使い』『神の子』が正直一番しっくりくるよ」
ロイは父親という立ち位置を崩してまでもラウに対しての正当な評価を進言する。
「ぼ、僕も、この一週間で自分が持つこの力の『本質』を少し見た気がします。僕の力がここまで特殊なモノだったとは……ここまで規格外なモノだったとは……実際に今回みたいに意図的に力を吸収しようと決めて経験してようやく理解しました。正直、この力の圧倒的な『能力』に困惑しかありません……」
ラウが三人に向かい、今の心境を話す。
すると、ライオウがそんなラウに対して言葉を投げかける。
「……ラウ君。私は君の『能力』が凄いモノだということは体感して理解していますが、私的に一番君を『驚異』と思っている部分は君の能力よりも…………『君自身』です」
「……えっ?」
「具体的に言うと君の『思考能力』と言いますか……六歳の子供とはとても思えないようないろんな物事に対しての『考え方』『捉え方』をする君自身ですっ!」
ライオウが言葉に力を込め強く主張……さらにその主張は続く。
「今の君の発言だってそうです。『自分の能力の本質』について動揺したというその話の言い方や考え方、捉え方はとても六歳児のそれではありません……」
ライオウが僕に自身の疑問を一気にぶつけてくる。そして……、
「ラウ君、君は本当に何者なのですか?」
自身の疑問の『核』となる言葉を投げかけた。
ライオウの指摘は鋭く、言い逃れはさせない勢いがあった。
そして、その質問はマルスもロイも同じ疑問を持っていたのだろう。二人も僕を注視している。
しかし、そうは言っても僕自身、生前、死ぬ前に「今度生まれ変われるなら、もう少し人の役に立てるような人間に生まれ変わりたい」という誰もが思うような普通の願いを、女神セイラが異世界に転生させ、そこで新しい人生を与える形で叶えさせてくれただけだ。何か大きな目的があってこの異世界に転生したわけではない。
だから、何者かと言われたらロイ・ハイドライトの三番目の息子の『ラウ・ハイドライト』であることで何も間違いはない。
普通と違うという意味では、確かに『生前の記憶』がそのまま残った状態で転生した為、赤ちゃんから今までその『生前の記憶や知識・経験』が活きている……という『答え』がライオウが知りたい『答え』なのだろう。
しかし、それを告白したところでにわかに信じられないだろうし、むしろ、マイナス、デメリットが多いんじゃないかとさえ僕は感じる。
で、あればどう話せばいいか……僕は『知力』のステータス値を『999』に設定し、頭をフル回転させ、短い時間でライオウに返答した。
「僕は……ロイ・ハイドライトの三番目の息子、ラウ・ハイドライトです。それに嘘、偽りはありません。ただし……」
三人が言葉の続きを待つ。
「これも『能力』のひとつとなるのかはわかりませんが、僕には自分で言うのもなんですが、大人じみた考えや捉え方をする『感覚』のようなものがあります」
「感覚?……能力とかではなく?」
ライオウが尋ねる。
「……わかりません。でも……例えば何か問題が起きたときや何かの判断に迫られた時、その瞬間、僕の中でその『感覚』……僕の中では『超感覚』と呼んでますが、その『超感覚』にスイッチが入り、いろんな言葉や知識が頭の中に溢れます。自分で考えていると言えばそうですが、でも、頭の中に浮かぶ言葉や知識は僕がこれまで習ったものではありません。でも、その言葉の意味や知識はちゃんと理解できています……とても不思議なことですが、でもそういうものがあります」
僕は考えに考えた結果、『生前の記憶や知識』は『頭の中に勝手に浮かぶもの』という……いわば『直感に近いもの』という形で表現した。
これであれば、自分が『生前の記憶や知識』の話をしなくても辻褄が合うからだ。
さらに、それは自分でもコントロールできないという『曖昧さ』も付け加え、ダメ押しでそれを『超感覚』という何だか含みのありそうな名称で説明した。すると……、
「なるほど、『超感覚』ですか……これは能力や魔法、スキルとはまた違うのでしょうか。判断は難しいですね……」
「『直感に近いもの』か……それが具体的に言葉や知識として頭に溢れるなんて、これって『天才』の頭とかと似たようなやつじゃねーか?……」
「『超感覚』か……ラウはそんなものまで持っているのか。もはや、隙という隙が見つからないな……」
三人とも僕の作戦通り、納得してくれた。
これこそ、まさに直感だが、正直に話すのは絶対に良くない……と僕の中でネガティブ警鐘がカンカンカンカン鳴り響いていたので結果的にこれでよかったと思う。
しかし、ここで僕はまた『成長速度999倍をフルでは使い過ぎない戦い方をする』みたいに『自作自演』で話をもうひとつ『超感覚』というワードを作ってしまった。
そうなると、今後、それを貫き通さなければならない……という、また一つ『大きな枷』を作ってしまう結果となった。
むう、今後、ボロが出ないように注意せねば……。
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そんなわけで、三人が納得しその話が終わった後、また話は本題に戻った。
「……では、先ほどの内容どおり、これから私は王宮に戻り、『拳聖のロイ』の後継者として決まったラウ君がマルスたちと魔物調査の旅に帯同する旨の報告と承認を貰ってくる」
ライオウがスッと立ち上がり、すぐに王宮へ向かう準備をする。
「マルス! 出発は明後日の朝だろ? 準備はできているのか?」
「ああ、大丈夫だ。今回は長旅になるかもしれんがそんなの何度も経験してるしな、問題ない……」
ロイが出発の確認を聞き、マルスが順調である旨を返す。
「……ラウ。いよいよ明後日の朝、出発だ。そうなると明日が最後の学園への登校となるぞ……」
ロイは多くを語らなかったが言いたいことはちゃんと伝わった。
「うん、大丈夫だよ、父さん。明日、ちゃんとお別れを言ってくるよ……まあ、別に今生の別れってわけでもないしね……」
僕は明るく振舞って見せた……が、さすがにミエミエだったのでロイが「無理するな……」と言い、僕の頭を撫でた。
そう。
明日の登校が最後となり、明後日から魔物調査の旅が始まる。
なので、明日、ミレーネとライオネルに別れを告げる。
本当に『今生の別れ』では無いのではあるが、でも、友達になったばかりですぐに離れ離れになるのは少し寂しいのは事実だ。
しかし、『魔物調査の旅』は僕が自分自身で決断したものだ。
僕は自分の選択を信じて……転生前に願った『人ために役立つ人生』を最大公約数で達成するべくこれから成長していく……その選択を信じて僕は前へ進む。
胸を張って、二人に合おう!
僕はそう心に決めてこの日は眠りについた。




