022「ラウ六歳(初等部一年生) 問い詰められるラウ……そして」
「「ラウと戦ってみたい……て、どういうことですか?」」
フィネスとサイモンが真剣な面持ちで気持ちを切り替えライオウに質問する。
「確かにそんなこと言ってたな、さっき。おい、ライオウ、それはどういう意味なんだ? 意図は何なんだ?」
ロイもライオウのその言葉の真意を図りかねていた。
「意味も何もそのままの意味です。ラウ君と手合わせしてみたいということです」
「な……っ!? 英雄剣士自らが手合わせしたいなんて……」
三人が驚く中、サイモンが先に言葉が漏れる。
「そ、それは、ラウの素早さ……『高い敏捷性』のことを言っているのかと思いますが……確かにラウの素早さはこの年齢で、いや、すでに武道家の達人レベルの敏捷性は持っていますがそれだけですよ? 攻撃力も防御力も年相応ですし、特に武道の技も持っていませんし……」
そして、フィネスがこれまでの稽古を含めた経験でのラウの現状を分析し説明した。
「そうだな……私もフィネスと同意見だ。ラウは高い敏捷性はあれどそれくらいだぞ?」
また、ロイもフィネスの説明と同意見であると肯定し、ライオウの真意を確かめる。
とりあえず、これまで僕は能力を調整して家族との稽古は行っていたので、皆にはまだ僕の『成長速度999倍』の能力は知られていない。
このことがバレてしまうと、家族を騙していたことになる。
タダでさえ、ライオネルの件で傷つけてしまったこともあるのでライオウが希望している『手合わせ』は何としても避けたい。
「み、皆の言う通りです。僕は確かに脚力というか敏捷性は高いかもしれませんがそれだけです。なので、ライオウ様の思い違いではないかと……」
僕は何としてもライオウとの『手合わせ』を避けるべく先手を取って進言する。
「……ふむ。なるほど。確かにラウ君のあの運動会でのスタート後の脚力もその魅力のひとつなんですが、私が興味あるのはその敏捷性だけでなく、そもそものラウ君自身の底がまったく見えないという点です。『勘』……とでもいいましょうか、ラウ君の底が私には未だに計り知れないのです」
「「「…………」」」
ライオウが真剣な眼差しで語るラウの評価に、ロイ、フィネス、サイモンが固まる。
「マルスの『踊る道化師』との戦いの時もそうです。そのラウ君の『敏捷性』だけの話でも運動会の時とマルスたちとの戦いの時とはまったく違ってました。運動会の時のスピードであれば視認できましたが、マルスたちとの戦いでは私の目を持ってしても…………まったく動きが見えませんでした」
「なっ?! そんな馬鹿なっ!! お前が目で追えない、だとっ!!!」
ロイが今日一番の驚愕した顔を浮かべた。
と、ここでフィネスが素朴な疑問を投げかける。
「と、父さん、話の腰を折ってすみません。その、『マルス』とか『踊る道化師』というのは何なんですか?」
「うーん、それはだな……」
ロイが説明しようか迷っていると、
「私が教えましょう……」
「お、おい、ライオウ!……」
「良いではないですか、ロイの『七武神』の話もしたことだし、この際……」
「……う、うむ、まあ……そう、だな」
ロイが渋々、了承する。
「フィネス君、冒険者ギルドを知ってますか?」
「えっ……あ、はい。街の人の便利屋から魔物討伐に至るまで様々な依頼を受ける組織ですよね?」
「そうです。依頼は幅広いですが概ねその認識で合ってます。そして、今、お話した『踊る道化師』というのはその冒険者ギルドの結社のひとつになります。『結社』はご存知ですか?」
「はいはいっ!『結社』とは冒険者ギルドでチームを組んでいる集団のことですよね?!」
サイモンがフィネスとライオウの間に飛び込んで勢いよく説明した。
「そうです……。おや、サイモン君は冒険者ギルドに興味があるのですか?」
「は、はいっ! 俺……ぼ、僕も冒険者ギルドに入って様々な依頼を受けて冒険してみたいです」
と、嬉しそうにサイモンが返答する。
「では、冒険者ギルドの『結社』の具体的な内容を説明してもらえますか?」
「はい!『結社』は仕事内容によって種類が全部で三つに分かれています。まず、迷い猫の捜索とか比較的安全な薬草採取といった一般的な依頼内容……いわゆる便利屋的な結社が『一般結社』で、次に魔物討伐や犯罪人の捜索、討伐といった危険性の高い依頼を受け持つのが『傭兵結社』、そして、最後に王族と上級貴族専門で依頼を受け持つのが『特別結社』です」
サイモンがスラスラと冒険者ギルドの『結社』の説明をした。
楽しそうな、そしてちょっと自慢げに説明をするその様子は本当に好きなんだなということがよくわかる。
おかげで、『結社』の詳細が知ることができてよかった。
「すごいな、サイモン。そうか、お前は冒険者になりたいのか……」
「は、はい……ごめんなさい、貴族の仕事じゃなくて……」
「謝る必要なんてない。ちゃんと将来のことを考えて自分でいろいろと勉強しているなんて知らなかったぞ、父さんは。すごいぞ、サイモン! 父さんも応援するからな! 頑張れっ!!」
「あ、ありがとう……ございますっ!!」
サイモンは『冒険者になりたい』と言っても許してもらえない、と思っていたのだろう……しかし、父に逆に応援されるような展開になってビックリした様子だったが自分の希望が認められたということにすごく感激していた。
「サイモン君、的確な説明ありがとうございます。さて、話の続きですが、先ほどフィネス君が質問した『マルス』という人物ですが、彼はこの冒険者ギルドの傭兵結社で『踊る道化師』というチームのリーダーをやっています」
「傭兵結社……ですかっ!?」
「うむ、そうだ。サイモン君、何か言いたいことがあるのかい?」
ライオウはニヤリとしながらサイモンに問いかける。
「は、はい! 魔物討伐や犯罪者の捜索、討伐という危険な依頼内容を受ける『傭兵結社』は、イコール、その依頼内容をこなすだけの『実力者』だけがその『傭兵結社』と名乗ることが許されます。いわば、結社の中でも実力が認められている者たちの集団と言っても過言ではないでしょう」
「え? 王族や上級貴族専門で依頼を受ける『特別結社』が実力は上じゃないの?」
僕はてっきり『特別結社』が上だと思ったのでサイモンに確認する。
「確かに、表面的、形式的には『特別結社』が一番上だがギルド内では『傭兵結社』が実力は上だという認識だったはずだ」
「へー、そうなんだ……」
ということは、やはり、あのマルスの結社『踊る道化師』はそれなりの実力者たちだったということか。
「まあ、『特別結社』内にも実力を持った結社がいくつかあるが、サイモン君の説明どおりの認識で合ってるよ」
ライオウがサイモンの説明にフォローを入れたところで、
「……えっ!?」
突然、サイモンの顔が身体がいきなり硬直した。
「ちょ、ちょっと待てよ……ラ、ライオウさん、確認したいことがあるのですが……いいですか?」
サイモンは真っ青な顔でライオウに質問しようとしていた。
何かに『気づいた』ような……そんな顔だ。
「うん? なんだい?」
ライオウはさらにニヤニヤしてサイモンの質問を万全の体制で聞こうとしている。
「『踊る道化師』って、まさか、傭兵結社の、あの……『踊る道化師』ことですか?」
「そうだよ。さすがサイモン君、『踊る道化師』ままで知ってるんだ」
「ええええええええ~~~~~!!!!!」
サイモンが一人、絶叫する。
フィネスはサイモンの光景を見てもまだよくわかっていない顔をしており、ロイは『バレたか』という顔をしている。
「サ、サイモン……どういうことだ? どうしてそんなに驚いている……」
フィネスがサイモンに問い質す。
「『踊る道化師』……最初、その名称だけをライオウ様から聞いたときはピンとこなかったけど、結社の話、傭兵結社と来て思い出したんだ。『踊る道化師』……彼らは傭兵結社の中でも一、二を争う結社として有名な結社なんだ」
「傭兵結社の中で一、二位を争う…………それってつまり、冒険者ギルドの結社の中でもトップクラスの実力者が集まった結社ってこと?」
「そういうことだ……」
「へー、そうなん…………っ!?」
ここでフィネスもある重大なことに気づく。
「フフ……どうやらフィネス君もサイモン君も気づいたようだね。ロイが先ほど驚いたこと、そして、私が…………ラウ君と『手合わせ』したいというその理由が……」
「は、はい! わかりました……で、でも、でもそんな、あり得ないことがある訳……」
サイモンは言葉にならないくらい混乱していた。
しかし、フィネスは幾分、ショックから早く立ち直ったようで改めてライオウに確認する。
「つ、つまり、僕たちの弟ラウがその……冒険者ギルドの中でもトップクラスの実力者が集まる傭兵結社『踊る道化師』に勝ったと……言うの、ですか?」
「まあ、そういうことです。だから、一度、手合わせしたいと言ってるのです」
あまりにも常識からかけ離れた事実を目の当たりにし、戸惑う二人とは対照的に、涼しげな顔で返答するライオウ。
「ちなみに……」
ここでライオウが止めを刺す情報を追加する。
「マルスの話だと、ラウ君には『勝てる気がしない』と言ってましたし、また、彼を『踊る道化師』にスカウトしたとも言ってました」
「ス……」
「スカウト……!?」
フィネスとサイモンはもうすでに話についていけない様子で呆然としている。
「な、何っ!? あのマルスが……マルス・ヴィンテージが自分の結社にラウをスカウトしたのか?」
「はい、そのようです。私も初めてそれを聞いた時はビックリしましたけどね……どうやら本当のことらしいです」
「す、すみません! マルス……マルス・ヴィンテージというのは何者なのですか?」
「んっ? ああ……マルス・ヴィンテージ、彼は『踊る道化師』のリーダーであり、また、ロイと同じで私たちの仲間である『七武神』の一人だ」
「「えええええええ~~し、七武神っ!!!!」」
フィネスとサイモンはさっきからずっと驚くことしかできていない。
まあ、無理も無い。
「そして、自身の強さにかけては高いプライドを持つ彼が『負けを認めたこと』や自ら『スカウト』をするなんてことはこれまで聞いたことが無い。おそらく、初めてだろう……その初めてのスカウトが、そこのラウ君と言うわけだ」
「「「!!!!!!!」」」
ライオウ、ロイ、フィネス、サイモンの目線が僕に一斉に向く。
「ラウ……正直に話してくれ。これまでのライオウの話は本当なのか?」
ロイがゆっくりとていねいに尋ねる。
僕はそんなロイの態度を見て悟った。
(ああ、もう、言い逃れはできないな……)
そうして僕はついに、皆にカミングアウトするのであった。




