001「すべてのはじまり」
「…………!?」
男は目が覚めた。
気づくと大きな布団に包められており、目線の先には見たことのない天井と、そして、気品のある綺麗な女性が…………私を抱きかかえていた。
「バ、バブーーーー!!!(ここはどこだっ!!!)」
!?
バ、バブーだとっ!?
なぜ、俺は赤ちゃんのような言葉を発しているのだ?
そうか! そう言えば私は地球とは違う別の世界……異世界に転生されたんだった。ということは……。
そう言うと、赤ちゃん……源栄太は自分の手足を見て確認する。
「バ、バブバブー!!(この異世界の誰かの家の赤ちゃんに生まれ変わったということかー!!)」
すると、僕を抱える綺麗な女性が声をかけてきた。
「○△↑↓※△◆○※△◆○※△※△◆◆~」
全く何を言っているのかわからない。
そうか、赤ちゃんだから言葉を知らないのか。
そりゃ、そうだよな~。赤ちゃんの頃なんて言葉知らないはずだもんな。でも、僕は前世の記憶があるから中身は七十七歳だから、何だか変な気分だな……はは。
しかし、そんな源栄太の予想はすぐに覆ることとなる。
「あら? ラウ様、今、笑ったわ! な~に~、今日は機嫌がいいのかな~?」
「あれ? 声が……言葉が……聞き取れる……どうして?」
「え?」
「え?」
その女性と赤ちゃんは同時にキョトンとなる。
理由は、『赤ちゃんが言葉をしゃべった』からだ。
女性は僕を赤ちゃん用のベッドのようなものにそっと置くと、
「だ、旦那様~! 奥様~! ラ、ラウ様が……赤ちゃんのラウ様がしゃべりましたーーーー!! 旦那様~!!!!」
そう言って、あわてて部屋を出て行った。
「俺は今、言葉……この世界の言葉をしゃべったのか?」
『そうよ……源栄太』
「!?……そ、その声は、女神様」
『そうです。女神セイラです。源栄太……いいえ、この世界では『ラウ・ハイドライト』でしたね。今のうちにあなたに与えた特殊能力の話をします。あなたに与えた特殊能力は『成長速度999倍』という能力です』
「成長速度999倍?」
『ええ。ちなみにこの世界での各能力……例えば攻撃力とか魔法力とかのMAXが999となります』
「んっ? それって、つまり……」
『そう、あなたは一度、何かを経験する度にその瞬間、能力がMAX、フルコンプリートされます。なので、先ほどのように一度、話しかけられればその時点でその国の言語を習得したことになります。だから、言葉を発することができたのです』
「あー、そういうことか…………えっ? ちょっと待って? 一度だけの経験で? それって言葉以外でも同じってこと?」
『そうです。なのであなたはこの世界で十年も経たない内に多くの力や魔法、知識をフルコンプリートで得られるでしょう』
「そ、それ、すごい能力じゃないですか?!」
『はい。すごい能力です。あなたにはその力を得られる資格がありましたので……』
「え? 資格? どういうこと?」
『まあ、その辺の話はまた何年後かにお話します。とりあえず、そういうことなので、この能力をどう使うかはあなた次第ですが、少なくとも、以前の人生よりは人の役に立てると思いますよ。この世界で前世で果たせなかった思いを胸に頑張ってみなさい』
そう言うと、女神セイラが僕の頭をそっとやさしく撫でてくれたように感じた。
「わ、わかりました! ありがとうございます、女神セイラ」
『いつも見ていますよ、源栄太……ラウ・ハイドライト』
そう言うと、女神セイラの声は消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、どうしたものか……」
赤ちゃんの格好でひとり言を呟く元・七十七歳の男児。
「とりあえず今はいろいろと観察してこの世界を知ることから始めよう。それにはまず目立つことは避けたほうが良いだろう……」
という結論に達した『ラウ・ハイドライト 0歳』は周囲に悟られないよう、赤ちゃんという『役割』に徹することとした。
その後、部屋に駆けつけた先ほどの女性とラウの父親、母親らしき人物が入ってきた。
「ラウちゃーん! さあ、さっきみたいにしゃべってみてー」
「アウアウアー……」
「ラウちゃーん!」
「ラウー!」
「アウアウアー……」
先ほどの女性や父親、母親の問いかけに僕は知らんぷりを決め込み、見事に赤ちゃんを演じ切る。少し心が痛むが仕方のないことなのだ。
そうして彼は見事、周囲に悟られないまま『普通の赤ちゃん』として育てられていく。
これが彼……ラウ・ハイドライト作『自作自演人生』の始まりだった。