015「ラウ六歳(初等部一年生) 運動会開幕。二人の変化とハイドライト家次男・サイモン先輩襲来!」
朝、いつものようにミレーネが迎えにきた…………ライオネルと一緒に。
「おはようございます、ラウ」
「おはよう、ミレーネ。いつも朝迎えに来てくれてありがとう」
「そんな、気にしないでください」
ミレーネ、今日は一段と笑顔がまぶしいな。
「おい!『様』をちゃんとつけろっ! 女王陛下だぞっ!!」
ミレーネの後ろからライオネルが怪訝そうな顔で小言を呟く。
小姑か、お前は!
「あ、ラウはいいの。私が許可したから」
「あ、そ、そうですか……」
ふふんっ! と僕はライオネルにドヤ顔をした。
と、こんな感じの三人で学校へと向かう。
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――運動会当日。
校舎内に人はおらず、皆、運動場へと移動していた。
運動場には仮説のテントが建てられ、その周囲にはなんと出店も出ている。
「なんだか祭りのようだな……」
と、僕が何気にそう呟くと、
「何?『まつり』って……?」
ミレーネが僕の言葉に反応して聞いてくる。
「ん? ああ、えーと……」
あれ?
なんて言えばいいだろう?
『前世の世界で日本ていう国にいたんだけど、そこでやっているイベントで、こうして出店がいっぱい……』
いやいやいやいや……それはダメだろう。
さて、どうしたものか。
「ま、『祭り』っていうのは……その~、ウチの村で豊作のときに村人全員で豊作を祝うために食べたり飲んだりする祝い事のことだよ……!?」
「へー、そうなんだ……」
ほっ。
なんとか切り抜けられ……、
「じゃあ、今度、ラウの村の『豊作の祝い事』がある時は招待してね!」
「……あ、う、うん」
切り抜けられませんでした。
それどころか、墓穴掘っちゃいました。
「ぼ、僕も行くからな、ラウ! ちゃんと出迎えるんだぞ!!」
ライオネルは全スルーした。
そうした雑話をしながら歩いていると自分たちのクラスのテントに着いた。
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「「「「「「ええええええ~~~!!! ど、どゆこと!?」」」」」
僕ら三人が会話をしながらテントに到着すると、皆に一斉に驚かれた。
「えっ? えっ? 何、この構図?」
「なんで仲が悪かったライオネル君とラウ君が一緒に?」
「ミレーネ嬢、今日も一段とお美しい……横の二人、邪魔っ!!」
クラスメートの皆はあちらこちらで僕らを見ながらいろいろざわついていた……ていうか、最後の奴だけ何か違うざわつきだったぞっ!
「あ、あのですね、これまでいろいろとありましたが……今はライオネル君もラウもこうして仲直りをしたので一緒にクラスを盛り上げていきましょう……」
ミレーネがとりあえず騒ぎを収集しようと率先して皆に声をかけた。クラスの皆はその言葉を受け「やったー!」と騒いでいる。
それにしても自分から率先して声を掛けるなんて……本当、この数日で変わったな、ミレーネ。さらに魅力が増し増しだ。
「諸君! これまでいろいろと本当に申し訳ないことをした。謝って済むことではないかもしれんがどうか許して欲しい……本当にすまなかった!!」
「「「「「「!!!!!!!」」」」」」
ビックリした。
僕も、ミレーネも、クラスの皆もビックリした。
なんと、ライオネルがクラスの皆に頭を下げ謝罪したのだ。
これまで『上級貴族』……しかも『オードリッチ家』という肩書きで『身分至上主義』を掲げて好き勝手やってきた人間が、平民や奴隷民といった自分より身分の低い者を含めたクラスメートに謝罪したのだ。
詳しくはわからないが、たぶん、これは相当にすごいことだと思う。
異例中の異例。
実際、平民や奴隷民は勿論、他の中級、下級貴族の者たちが特にライオネルの謝罪に驚きを隠せないでいた。
「ライオネル君……すごい! ありがとうっ!!」
と、ミレーネが手放しに喜びを表現する。
これまで、ミレーネに手放しで喜ばれたことが無かったライオネルは単純に驚愕と感動を隠し切れず、
「あ、い、いえ……そんな……僕はあなたやライオウ様に教えて頂いたことを実践しているだけで……あ、当たり前のことをしたまでです」
と、いつになく殊勝な態度と言葉でミレーネに返事を返した。
ライオネルも昨日の一件で、よっぽどのことをしたということを理解したからここまで変わったのだろう……いや、変わったのではなくこれは『成長』なんだろうな…………だが
僕の名前も入れろよ、ライオネルっ!!
と、心の狭いツッコミを脳内で入れる。
でも、僕はそんな二人の変化に満足しつつ外野から眺めていた。
「尚、いろいろあって僕は昨日からミレーネ様の専属従者となった。別にそれがどうこうではないが、今後は身分に関係なく皆と接触していきたいと思っている。わがままばかりだが……よろしく頼む!」
成長した部分があったとはいえ、相変わらずのライオネル節は健在だった……が、皆はそれはそれで『ライオネルらしさ』と良い意味で捉えていたので皆が笑顔で相槌を打っていた。
「「「「ラ、ライオネル様……ぼ、僕たちはどうなるのでしょうか?」」」」
と、ライオネルの取り巻き連中がライオネルに声をかける。
「うむ、これまで私のワガママについて来てくれて本当にありがとう。今後は好きに学園を楽しんでくれ。僕はミレーネ様の専属従者として忙しいから僕のことは気にしないでくれ」
「そ、そんな……ぼ、僕たちは昔からライオネル様の優しさや強さを知っていてここまで付いてきたんです。なので、これからは僕たちは僕たちで勝手にライオネル様の専属従者として共に参りたいと思います!!」
つまり、ライオネルの取り巻きだった中級、下級貴族の彼らはミレーネの専属従者となったライオネルの専属従者になります、ということ宣言していた。
まあ、ややこしいがそれはそれでいいのだろう。特に興味はないのでどうでもいい感じです。
と、またもや心の狭いことを考える『矮小な僕』であった。
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ライオネルが心変わりをして皆と溶け込むようになったおかげで僕らのクラスは運動会が始まる前からテンションが上がっていた。
ここで、ルミア王国魔法学園の運動会の詳細を説明しよう。
まず、各学年、各クラスごとに誰でも何かしらの競技に参加できるよう種目が準備されており、基本、各競技は一人ないし五人用の競技で用意されている。
プログラムはこんな感じだ。
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『ルミア王国魔法学園初等部 運動会プログラム』
【あいさつ】
・学園長あいさつ
・生徒会長あいさつ
【競技】
1.二百メートルリレー(四名)
2.騎馬戦(五名)
3.四百メートルリレー(八名)
4.百メートル走(一名)
5.二人三脚(二名)
【表彰式】
・各学年の優勝クラス代表
【応援賞】
・一番目立った総合応援団長
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例えば、『二人三脚』であればラウとミレーネ……のように、皆、必ず何かしらの競技に割り当てられている。
ちなみに『二人三脚』は毎年『くじ引き』と決まっており、それ以外の種目は、自薦、他薦で決めることができる。つまり、実力を持った人物を適材適所に配置することができるというわけだ。
ちなみにライオネルは『百メートル走』に出るのだが、これは他薦……圧倒的他薦で決まった。話によるとどうやらライオネルは幼稚園のころから運動神経が抜群だと評判だったらしく、特に足が速いということで有名だったそうな。
しかも、認めたくないがルックスは金髪にスマートな顔立ちと、イケメンに部類する生物な上、運動神経も良かったので女子の人気度が異常に高い。
ふん、面白くない話だ。
勝手にふてくされた僕はふと横を見ると、ちょうど、こちらへズンズン向かってくる……サイモンと目が合った。
「サ、サイモン兄さん……?!」
僕は驚いた。
いろんな意味で。
その驚いた理由のひとつとして、サイモンの格好が他の生徒と違い、赤と白のガラという縁起の良さそうな服を着ていた……あと、『必勝』のハチマキも。まるで応援団のような出で立ちでこちらへ来ると、
「よう、ラウ! 緊張してないか?!」
と、大きな声で僕に声をかけた。
「あ、う、うん。大丈夫だよ……」
僕は周囲に目立たないようにしたかったがサイモンの第一声で時すでに遅し……僕の兄さんということで、周囲の生徒が反応してこちらを見ていた。そして、その中にはミレーネもいた。そして……、
「おはようございます、サイモン兄様。学校ではお初にお目にかかります、ミレーネです」
と、ミレーネがサイモンに挨拶をする。すると、
「あ、お、おはようございます、ミレーネ様!! あ、あの、その、俺……私は一組の総合応援団長として挨拶にきました! ラウ共々、よろしくお願いします!!!」
サイモンが想像以上にド緊張して変な挨拶をした。
「こちらこそ。というよりサイモン兄様……私のことはどうぞ『ミレーネ』と呼んでください」
「そ、そんな……滅相もありません。で、では、失礼致します!!!!」
と、その場にいるのがたまらなくなったのかサイモンは今、来たにも関わらずすぐに去って行ってしまった。
それにしても、『一組の総合応援団長』って言ってたけど…………どゆこと?
「あのね、運動会では各クラスごとに総合応援団長ってのがいて、それは毎年、自薦、他薦またその両方が無ければ『選挙』で決めるんだけど、今年はサイモン・ハイドライト兄様が各学年からの他薦で決まったの」
と、ミレーネが説明した。
「彼は三年生でありながら総合応援団長に他薦で選ばれたというのはすごいことだと思う。それだけ上級生からも下級生からも人望や人気があるんだろう。お前は大したこと無いが君のお兄さんは中々の人物なのだろうな……お前と違って」
ライオネルがサイモンのことをかなり認めるような発言をした。
まあ、相変わらず僕への嫌味を入れることは忘れていないようで。
「しかも、ハイドライト家の長男であるフィネス・ハイドライトにいたっては五年生にして生徒会長とはな……。いやはや、君とは段違いの素晴らしいお兄さんたちじゃないか」
うれしさ半分、むかつき半分と何とも言えない気持ちだったが、上の兄さんたちを他人が褒めるというのは初めての体験だったので少しむかつきよりもうれしさが増していた。
そんなこんなで時間になり、ハイドライト家自慢の長男フィネス・ハイドライトが生徒会長あいさつを見事に行い、女生徒のハートを鷲掴みにした後、ルミア王国魔法学園初等部の運動会が幕を開けた。




