013「ラウ六歳(初等部一年生) 事の顛末とオードリッチ家」
今回もちょっと長めです。
「ラウーーー!!!」
ミレーネは僕を見つけるや否や僕のほうへと突進…………タックルしてきた。
「おうっふっっ!!」
今日、一番のクリティカルヒットでした。
「大丈夫? ケガ無い?」
「う、うん、大丈夫だよ……」
もちろん、今のミレーネのタックルが今日一番のダメージとは言えない。
「な、何だよ、ピンピンしてるじゃないか、心配して損した」
「あれ? ライオネル? えっ? 心配? 君が? えっ? えっ?」
一体、何がどうなってる?
「うむ、そりゃあ混乱もするだろうね。ラウ君……では、事の顛末をお教えしよう」
「あっ……お、お願いします」
そう言って、金髪のロングヘアで年齢が50歳とはとても信じがたいほどの若々しく精悍な顔立ちをしたライオウ・スピルデンが説明を始めた。
「まず、ライオネル君がなぜここに私たちと一緒にいるかということだが、これは先ほどライオネル君がミレーネに会いに来て強引にミレーネに迫ったことから始まる」
「えっ? ミレーネに迫った?!」
すると、ここでミレーネが話し始める。
「うん。ライオネル君が私に『ラウが私との二人三脚は嫌だと言って辞退してライオネル君にそのパートナーの権利を譲った』って言ってきたの」
と、ミレーネがチラッとライオネルを見る。
ライオネルは居心地悪そうに顔を俯く。
と、ここで、今度はライオウが話を続けた。
「……しかし、ミレーネがライオネル君に面と向かい『ラウはそんなこと言わないし、言うならちゃんと私に伝えます。なので、ライオネル君の言葉は私……ごめんなさい、信じられません』と言ったのです。いつものミレーネなら自分の想いを相手にぶつけるなんてそう簡単にできないはずなのに……少し見直しました」
ライオウがそう言ってミレーネを見る。ミレーネは顔を真っ赤にしてほくそ笑んでいた。
「わ、私、頑張ったんだ。今、ラウと一緒にいることが多くなっていろいろと勇気をもらっているんだからちゃんと言える、と思ったの。ラウのおかげだよ」
そう言って手放しに僕を褒めまくる。
「そ、そんな……僕なんて、何も……」
あまりにも褒められ過ぎて恥ずかしくなり、オドオドし出す。
「……しかし、そんなミレーネのこれまでになかった物言いにライオネル君はちょっと動揺してミレーネにちょっかいを出そうとしたので私が止めに入ったのです」
と、ライオウが説明をした。
「実は入学してからずっと、私……もしくは側近が常にミレーネを遠くから護衛していました。本来であれば常に学園内でも一緒に行動するものなのですがミレーネがそれを嫌がり、万が一の時だけ護衛に入って欲しい……それ以外は監視程度にして欲しいと懇願されましてね……それで学園内では身を隠して監視を続けていたというわけです」
なるほど。
まあ、そりゃあそうだろうな。一国の女王陛下なんだから。
むしろ、ミレーネのワガママを聞き入れただけ懐が深いな、と感じる。
ていうか、たぶん、英雄剣士のライオウ・スピルデンは勿論、側近の人もミレーネの条件でも充分に護衛ができる実力者ということなのだろう。
その後、ライオネルはライオウ・スピルデンにいっぱい怒られたらしい……が、その程度で許してくれたそうだ。いくら混乱したとはいえ、本当なら女王陛下へ手を出そうとしたという罪は相当大きいはずだが、ミレーネがライオウに許してやってほしい、と頼んだため事なきを得たとのことだった。
「とりあえずライオネル君の罪はミレーネの希望により今回は問わないということになりました……が、ここからが本題になります」
と、ライオウが厳しい表情に変わり話を切り出した。
まず、今回ライオネルが僕を痛い目にあわすために用意した相手は冒険者ギルドの傭兵結社『踊る道化師』で、彼らはライオネルが雇ったとのことだった。
ちなみに、この傭兵結社『|踊る道化師(ダンシング・ピエロ』は冒険者ギルドの傭兵結社の中ではかなり有名な結社なのだそうだ。この世界では冒険者ギルドには個人で活動するものとグループで動くもの、または両方で活動するものと様々だが、グループで活動したほうが効率的に仕事をこなせるということでグループを作って活動する者が多いらしい。
そして、ある程度固定メンバーで活動するグループのことをここでは『結社』と呼ぶらしい。
結社にはいろんなジャンルがあるらしく、『踊る道化師』は傭兵結社のひとつだそうで、傭兵結社内では名の売れた有名なチームだそうだ。
「まあ、主に『変人』が多いので有名なのですが……」
「おいっ! 小さい子たちの前ではっきり本当のことを言うなよ!?」
「……話を戻しましょう」
ライオウとマルスのやりとりはまるで熟練の漫才師のような軽妙なやり取りで聞いているこっちは思わず笑ってしまう。さっき、ライオウがマルスのことを『七武神の一人』と言っていたのでおそらく古くからの付き合いなのだろう。
ライオウが話を進める。
「問題なのは、この『踊る道化師』を雇うほどの大金を誰が出したか、ということです。今回、子供の喧嘩にも関わらず、冒険者ギルドの傭兵結社まで雇うという『度が過ぎる介入』をしたのは……彼の父親『グエルモ・オードリッチ』」
「えっ? 父親? 子供の喧嘩にですか?!」
僕はそれを聞いて思わず驚く。
いや、だって子供の喧嘩に親が介入するって……しかも、今回の介入は一歩間違ったら大ケガをしてもおかしくないやつだぞ。
どういう事だ?
いくら上級貴族と言ってもそれはやり過ぎではないのか?!
「ラウ君の察しのとおり、これは明らかにやり過ぎであり、そして、それはさらに一歩間違えればミレーネ女王陛下にも危険が及んだかもしれない……ということです」
僕が苦虫を嚙み潰したような表情をしているとライオウが僕の気持ちを汲み取ったような言い回しで話を続けた。
「ご、ごめんなさい! 本当に、ごめんなさいっ!!!」
すると、横でライオネルが涙を流しながらひたすら謝る。おそらく、自分のやった事の重大さを理解したのだろう。
「もういいよ、ライオネル君。ただ、ミレーネに謝ったようにラウ君にも一言何か言う必要があるんじゃないかい?」
ライオウが優しく、だが厳しい声色でライオネルに進言する。
「ラウ……申し訳ない。ぼ、僕は君が嫌いだけどここまでのことをしているつもりはなかったんだ。父上も『下級貴族に舐められていいのか? それでも上級貴族の長男か? どうなんだ?』と問われて悔しがっていたら傭兵結社に仕事を依頼しなさい……て言われて、僕も、傭兵結社なら君に一泡吹かせると思って、でも、やりすぎだったよ……ごめん」
ライオネルが素直に頭を下げて謝ってきた。
何だか、こいつ、根は素直の奴なのかもな……と態度を見て感じ取れた。なので、
「わかったよ、じゃあ、許すかわりに一つ僕の願い事を聞いてくれる?」
僕は不敵な笑みを浮かべてライオネルに詰め寄った。
「い、いいだろう。今回は僕が全面的に悪いからな。言ってみろよ!」
ライオネルは冷や汗をかきつつも強がって偉そうに構えた。
「今から僕と友達になってください」
そう言って僕はライオネルに握手を求めた。
「へっ? えっ? えっ?」
僕のまさかの友達申請にキョトン顔を浮かべるライオネル。無理も無い。
「今から僕とお前は友達だってこと! さあ、握手しろ!」
「い、いいのか?! 僕みたいな奴で……お前、僕のこと嫌いなんだろ?!」
「今までな。でも、お前とはちゃんと話したことないだろ? それをこれからやっていこうて言ってるんだよ。もし、お互い嫌いになったのならその時、改めて絶好すりゃいいだろ? お試し期間ってことでよろしく!」
「ふ、ふん! わ、わかったよ、今回は僕が悪いんだから君の申し出を受けるよ」
と、ライオネルは、もはや古典芸能の域に達するほどの『ツンデレ』ぶりを発揮して握手をした。
そのやり取りを見ていたミレーネが僕とライオネルの手の上に自分の手を重ね、屈託のない笑顔で
「私もこれからよろしくね、ライオネル君!」
「あ、よ、よろしく、おね、おねがぎゃいがいたっ!!」
「あ、噛んだ」
「か、噛んでない!」
「噛んだ」
「噛んでないって言ってるだろっ! 君のそういうところは嫌いだ!!」
「まあまあ、仲良くやってこうよ」
「うるさいっ!」
「仲良くやりましょう、ライオネル君」
「あ、はい」
「あ、すごい温度差……」
「あ・た・り・ま・え・だっ!!」
僕、ミレーネ、ライオネルの三人はワイワイ騒いでいた。
「あー、お取り込み中のところ申し訳ないが話はまだ……終わりじゃありませんので」
と、ライオウが少しイラついた顔をして間に入る。
英雄剣士も怒ることがあるんだな、と妙に感心した。
「今回の件で重要なのがライオネル君の父親、グエルモ・オードリッチへの罰を与える必要があるということ……なのですが、グエルモ氏は先代の国王ロマネシア・キング・ルミア様の親友で昔の『五大国頂上戦争』の際に資金面で多大なる貢献を果たした『スカルノ・オードリッチ』の息子であるという特殊な上級貴族です。なので、王宮としてはそう簡単に彼に罰を与えることはできません」
と、今度はライオウが苦虫を噛み潰した顔をする。
話によると、このライオネルの父親であるグエルモ・オードリッチは祖父のスカルノ・オードリッチが五大国頂上戦争で国に大きな貢献をしたという功績を『免罪符』がわりにグエルモは事あるごとに問題ごとや厄介ごとを起こしては王宮から罰を与えられず見逃されてきたらしい。
なので、王宮はおろか他の貴族もオードリッチ家に関わるのを恐れているという。
つまり、ライオネル……というよりこの父親が『問題のタネ』ということのようだ。
「あっ……ライオネル君、すみません。こんなことを君の前で言ってしまって……」
「い、いえ、構いません。僕もスカルノおじいちゃんは好きですが、父はいつも『王宮は父スカルノの貢献をちゃんと形に表していない! まったくひどい国だ!!』と王宮の悪口を言ってばかりなので、僕は父が……苦手です」
とライオネルが顔を俯く。
どうやら複雑な家庭事情&王宮事情があるようだ。
すると、ここで意外にもミレーネが話に半ば強引に入ってきて提案を始めた。
「では、こういうのはどうでしょう!」
今日のミレーネは何だか頼もしく感じた。




