010「ラウ六歳(初等部一年生) 自分らしさを得る為の一歩を踏み出すミレーネ」
家族全員に見送られつつ、僕はミレーネの馬車に乗り込み学校に向けて出発した。
「ふふ、何だか気を遣わせちゃいましたね!」
と、笑いながら呟くミレーネ…………確信犯か。
「お前な~……まあいいや。でも、ミレーネ、これから本当に毎朝迎えに来てくれるの?」
「もちろん!……嫌?」
「いや全然嫌じゃないけど……でも、学校から近いお城を出て、自分の住む首都から離れた田舎まで行き、また、学校へ行くって二度手間になるじゃん? それって何だか申し訳ないから……」
「そんなの気にしないでって言ったでしょ! 私がやりたいことなんだから。だから、ラウ君は私の言うとおり毎朝迎えに来られることを受け入れなさい。これは女王陛下命令です!」
大きく胸を張り「ふふん!」とドヤ顔で僕に強権発動するミレーネ。
「うぐっ……お、横暴だ!」
「いいの! はいはい、この話はおしまい、おしまい」
と、ミレーネは早々にこの話を切り上げ、運動会のことや二人三脚のことを話し出す。
そうこうしている間に馬車は学校に着いた。
僕の家があるハイドライト村から首都まで馬車で三十分ほどの距離がある。ちなみに徒歩だと一時間ちょっと掛かる距離だ。
そんな馬車に揺られて学校に着いた僕はすぐに降りようとすると、ふと、ミレーネが緊張で顔が強張っていることに気づく。
「どうしたの……ミレーネ?」
「あ、う、うん。あのね……昨日はこれから勇気を出して自分のやりたいようにやっていくって決めたんだけど、いざ、実際に行動にしようとすると足が……すくんじゃって……」
そんなミレーネの瞳には少し涙が溜まっていた。
まあ、無理も無いだろう……何でも初めての行動のときはそうやって緊張する。
でも、それから逃げるのではなく、勇気を持って一歩、一歩と前へ踏み出すことが自分の成長の糧にもなり、そんな立ち向かう自分を誇らしく思うのでこれは本人にとって必要なことなのだ。
そんなミレーネに僕はフォローを入れる。
「ミレーネ、無理しなくていいけど……でも、これが本当の君の一歩、スタートになると考えてごらん。そうすれば人の目よりも、新しい自分の発見と可能性にワクワクしないかい?」
そんな僕の言葉にミレーネは大きく目を見開き反応する。
「ありがとう、ラウ君! やっぱラウ君ってすごいね! 私、新しい自分を、新しい一歩を踏み出すわ!」
そう言うと、ミレーネは僕の手を握り、強引に馬車から引っ張り出した。
校門前に停まった王族専用馬車から降りてくるであろうミレーネを一目見ようと馬車の周囲に集まり出した生徒たちは、その馬車から降りてきたミレーネと一緒に……しかも手をつないで降りてきた少年に周囲の生徒たちは一斉に固まる。
「お、おい……あのミレーネ様の横にいるあいつは誰だ?」
「し、しかも! 手をつないでいる!!……ていうか、一緒に王族専用馬車で登校なんて何者っ?!」
「何、あの子? ミレーネ様とどんな関係なのっ?!」
僕とミレーネが校舎に歩いていく横では、案の定、すべての生徒がザワザワといろんな憶測を立てながら注目していた。しかも、馬車から降りる際、ミレーネがいきおいで僕の手を掴んだままになっていたので、結果的に僕らは『手をつないで歩く仲良しカップル』のような状態だったのが、更なるザワザワに拍車をかけていた。
「ご、ごめんね、ラウ君。私、つい手をつないだままにしちゃって……」
ミレーネが小声で謝る。
「い、いいよ、気にしないで。もう、ここまで来ると手をつなぐことも大した問題じゃなくなったから……」
僕は『時すでに遅し』ということを踏まえた返答を返す。
「す、すごく……すっごく、恥ずかしいね、ラウ君。でも、勇気を振り絞っていざ行動にしたおかげで私、またひとつ自分を好きになれたと思う……ありがとうね」
「そ、そんな僕は何もしてないし。勇気を振り絞ったミレーネの行動力がすごいんだよ!」
僕は素直にミレーネに感心した。
これまで消極的で人前では顔を上げられない臆病だったミレーネが、今、こうして胸を張って、しかも、僕と一緒に学校に通っている……この行動力はやはりミレーネの才能のひとつだと思う。
「そ、そうかな……?」
「そうだよ! ミレーネの勇気と行動力は僕は本当にすごいと思う。それは誇りにしていいと思うよ」
「あ、ありがとう! ラウ君にそこまで言ってもらえるとすごく自信に繋がるし、何よりも……嬉しい!!」
ミレーネはそう言うと、顔を紅潮させながら屈託の無い笑顔を見せた。
そうして、自分に自信の付いたミレーネと僕は周囲の声に特に気にすることなく教室に入っていった。
「お、おはようございます、皆さん!」
「お、おはよう……ございます」
ミレーネと一緒に教室に入り、ミレーネの朝の挨拶の後から僕も挨拶をする。
そんな光景を目の当たりにしたすべてのクラスメートが固まる。
ああ、なんかデジャブ……。
特に昨日、ひと悶着あったライオネルやその取り巻き連中においてはわかりやすいくらいに嫌な顔をされる。まあ、そりゃ~そういう顔するよな~……。
しかし、ミレーネが『自分らしさ』を得る為に一歩踏み出したのだから、僕もできるだけ彼女の役に立ちたいと思い、矢面に立っていろいろと周囲の生徒を巻き込もうと決意し行動する。
「みんなー! ミレーネ様が入学当初に言っていたとおり、今後は気兼ねなく接していいよって言ってくれたんだ! だから、みんないろいろとお話したいことがあったらこっちに来てよ。どうせ、朝礼まで時間はまだあるんだから! さあ、さあっ!」
僕は周囲に男子女子問わず声をかける。
しかし、僕の言葉だけではすぐに動く人はいなかった。
それもそのはず……昨日まではライオネルたちの支配下だったのだから。
でも、それを察したのかミレーネが僕に続いて声を上げる。
「皆様! 私はやはり皆様と身分に関係なくお話したいです。なので、ぜひ、私のお友達になってください!」
そう言うとミレーネは皆に対して頭を下げた。
王族や貴族ではまずあり得ない行動だっただけに、それが周囲の生徒の心に響いたのだろう……そのミレーネの言葉を皮切りに一斉に生徒たちが集まって挨拶しだした。
皆、本当はいろいろとミレーネと話をしたがっていたのが顔に出ていた。
そんな中、その輪に入ってこない連中がいた……そう、ライオネルたち上級貴族だ。
僕はライオネルが何かしてこないか警戒していたが、ライオネルは僕を睨み続けるだけでそれ以上のことはしてこなかった。
何も言ってこないライオネルはそれはそれで不気味だったが、とりあえず、クラスの皆が今日を皮切りにミレーネと溶け込むようになってクラスの空気がパッと良くなったので結果オーライとしておくことにした。
その後、しばらくライオネルは何もしてこなかったので、日を追うごとにクラスは平和で楽しい雰囲気がどんどん出来上がってきていた。
しかし、ずっと沈黙を保ってきたライオネルが運動会前日、再び動き出すこととなる。




