009「ラウ六歳(初等部一年生) 女王陛下のお迎え」
――次の日の朝
ハイドライト家では毎朝必ず皆で朝食を取る。
そして、その朝の食卓で昨日あった出来事などを話したりする。
「入学して一ヶ月……そろそろ学校にも慣れたか、ラウ?」
ロイが僕にいつものように声をかける……が僕はギクッとした態度を一瞬見せてしまう。
「!……どうした、ラウ。学校で何かあったのか?」
「な、何もないよ、父さん……学校は慣れたし、友達もできたしね……はは」
「そうか……それならばいいが、もしやイジメにでもあっていないかと思ってな、つい……」
「ラウ! そんなふざけた奴がいたら言えよ! 俺がとっちめてやるから!!」
そうサイモンがテンション高く僕のことを心配してくれた。昔と比べてすごく変わったサイモンは本当に頼もしい。
「……とは言え、ハイドライト家の男子たるものただ逃げるなんて情けないことはするなよ。助けてはやるがその前にちゃんと立ち向かえよ。おめおめと逃げて助けを乞うようなら俺がその性根を叩き直してやる……それは覚悟しておけよ?」
「!? は、はい……」
と、サイモンがギラリと鋭い目つきで僕に忠告をする。昔に比べ丸くなったとはいえ、相変わらず怖い兄さんであることに変わりはない。
「まあ、そうは言ってもあまり無理しなくていいからな、ラウ。つらいことがあったら僕にでもいいから相談しろ。僕は学園の生徒会長でもあるんだからいろいろと助けることができるかもしれないからね」
「ありがとう、フィネス兄さん」
昔と変わらず優しい一番上の兄フィネスが穏やかな口調でアドバイスを送る。
「そうだぞ、ラウ。何かあったらフィネスやサイモン、私やネルでもいいからちゃんと話しなさい。私たちは何があってもずっとお前の味方なんだからな」
「そうよ、ラウ。あなたは私たちの大切な宝なんですからね。いつでも相談しなさい」
「わかったよ。ありがとう、父さん、母さん」
フィネスもサイモンもロイもネルも、この家の人たちの僕へ向ける愛情は大きく広い。こういう家族の愛情を受けると本当に生まれ変わって新しい人生を歩んでいるんだな……と改めて感じさせくれる。
僕は新しい人生をくれた女神につくづく感謝した。
そんな心がジーンとなって想いに耽っているとフィネスが、
「そうだ。そう言えばラウのクラスメートにミレーネ女王陛下がいらっしゃるだろ?」
「……えっ? あ、うん」
僕が油断しているタイミングにフィネスが『ミレーネ』の話題をぶっこんできた。
「そうだよ! すげーよな、女王陛下と同じクラスメートだなんて!」
サイモンもフィネスの話題に食いついてきた。
「そうか、そういえばそうだったな。では、女王陛下と会話などすることがあるのかい?」
「あ、まあ……多少は」
「いや~それは難しいだろう、なあ、ラウ?」
「え?」
「下級生から聞いたぞ。ミレーネ様の周囲に上級貴族……あのオードリッチ家のバカ息子がいて気軽に話できないんだろ?」
「あ、う、うん……」
「そう、そのことなんだけど生徒会にもその件で話が回ってきていてね……ラウのクラスメートの子たちが彼らに委縮して教室にいるのがつらいなんて言ってきているんだ……ラウは大丈夫かい?」
「え? あ、ぼ、僕は……大……丈夫、だよ」
「それならいいが、まあ、上級貴族……しかもあのオードリッチ家だと生徒会としても対応が難しくてね。子供のこととはいえ貴族の多くは世間体や見栄をすごく気にするから、よっぽどのことがない限り生徒会が介入して彼らに注意することは難しい」
「まあ、その点、ウチの家は領地にいる村人に対して厳しい税を設けずのびのびと暮らしてもらっているからな~……まあ、その分、収入は他の貴族より寂しいけど」
「ほう、言うじゃないか、サイモン……こいつめ」
「痛てっ! じょ、冗談だよ、父さん。俺はそんな父さんを誇りに思ってるし、かっこいいと思ってるよ!」
そう、ハイドライト家当主であり、家長であり、村の領主でもあるロイは他の領地を持つ貴族と違って村人に重い税をかけず、むしろかなり低い税金にしてその少ない税収で村を運営していた。
しかし実際、その低い税収では村の運営は難しかったため、ロイは村の領主以外にもたまにバイトのようなこともしていた。内容は詳しくは知らないがどうやら王族やギルドから魔物討伐や護衛などといった仕事をしているようだった。
うーむ、そう考えるとウチの父さん……ロイは何者なのだろう?
王族やギルドから何度も依頼があるということは、それだけ人としての信頼、仕事に対しての信頼があるということに他ならない。となると、ひとつ考えられるのは、ロイは王族やギルドと何かしらの古い付き合いがあるのではないかということだ。
そう考えると、ウチの父さんは何者なのかという興味が俄然湧いてきた。今度、ロイがバイトに出る時に後をつけるのもいいかも……そんな余裕をぶっこいていた時、それは突然現れた。
ピンポーン。
「ご、ごめんくださいませー!」
(ギクッ!? 今の……聞き覚えのある声は……ま、まさか、本当に)
ラウは来客の声を聞いて驚きと共に戦慄が走る。
「はーい!……」
とネルが玄関へ向かっていき、扉を開いた。
「お、おはようございます! は、はじめまして! 私、ミレーネ・クイーン・ルミアと申します……」
「!?…………じょ、女王陛下……様!!!!!」
ネルの驚いた声とその単語を聞いて僕以外の皆が一斉に玄関に向かった。
「ミ、ミレーネ女王陛下……様!?」
「ほ、本物だ! 本物の女王陛下様じゃねーかよ……」
フィネスとサイモンが当然のことながら驚きの表情を全面に押し出している。
「ミ、ミレーネ女王陛下様……! どうしてこちらへ……?」
そんなフィネスとサイモンとは違って、ロイは驚いてはいるもののけっこう冷静な態度でミレーネに対応していた。
「はい、昨日ラウ君とお友達になりまして……そして、今日からラウ君と一緒に学校に行くということで迎えに来ました!」
「「「「え……ええぇええぇぇええ~~~!!!!!!!!」」」」
家族の皆が僕を見ながら『え』の大合唱を奏でる。
「あ、いや、まあ、その……そういうことですので」
と僕は家族が唖然とする横を擦り抜け、ミレーネのところにやってきた。
「おはよう、ラウ君! さ、一緒に学校に行きましょう!」
「ほ、本当に迎えに来るなんて……!!」
「え? だって昨日言ったでしょ? 明日迎えに行くって……」
「い、いや、言ってたけど……でも、ミレーネ様のおウチって……」
「ミレーネ!……もう! いいかげん言い慣れてください!」
「ご、ごめん。それにしてもミレーネの家ってあの首都のど真ん中にあるお城でしょ? そんな家から学校がすぐ近いのにわざわざ首都から離れている僕のウチに迎えに来るなんて、さすがにないかと思ったから……」
「迎えに行くわよ! だってそう言ったじゃない。距離なんて関係ないですっ!」
「そ、そうなんだ……ありがとう……うれしいよ」
「どういたしまして」
と、ミレーネは昨日と同じ素敵な笑顔を見せてくれた。
「あ、そうだ、ラウ君! あなたの家族、紹介してよ!」
「あ、そうか……そうだったね、ごめん」
「ううん、私もつい自己紹介するの忘れちゃってたし……ごめんね」
「そんな謝らないでよ……じゃあ、改めて紹介するね」
「うん」
「父さん、母さん、フィネス兄さん、サイモン兄さん……学校で初めてお友達になったミレーネ・クイーン・ルミアさんです」
「「「「いや、知ってるわっ!!!!」」」」
混乱の家族は、突然の女王陛下訪問……というか、ラウのお迎えというイミフな状況に、つい、冷静さと礼儀を欠いたツッコミを入れることとなった。
一日はまだ始まったばかりである。




