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キレイゴト

作者: 虚月


 ボクは綺麗事は好きじゃない。でも、今日は綺麗事ばかり言ってしまうかもしれない。


 人は、綺麗事を言ってなきゃ生きていけないから。


 だから、綺麗事を言うけれど、ボクの綺麗事は「綺麗事」になりきれない「キレイゴト」だ。嫌だったら、聞き流してよ。無理強いはしないから。




 ただ、死にたいなんて言わないでとか、大丈夫だよとか。そんな言葉を言う気はない。ボクはそんな言葉をかけても、救われないことを知っているから。


 どんなに繕ったって、今いる世界は変わらない。そんな言葉で救われるくらいなら、君はそんなところにいないよね。わかってる。


 話、聞いたよ。ひどいね。本当に居場所なかったんだね。こんな同情されて嬉しいかもわからないし、むしろ怒っているかもしれないけれど。……ごめんね、早く気付いてあげられなくて。……ああ、これも綺麗事だね。ごめん。


 大人たちは、子供を育てる。その為に厳しくする。だけど、そのやり方が間違っていれば、子供は全く想像もしていない方向に転がっていく。もっと、見て欲しかったんだ。ボクも君も。もっと、分かって欲しかったんだ。


 親との仲も悪くて、家に居場所なんかなくて。家はもっと安心する場所なはずなのに、そこにいるだけで息苦しくて。


 父親は、酒を飲めば殴るし。母と似ているからって何もしていない君を虐げた。君がどうしようもなくなって自傷行為をしていても、気づきもしない。


 ―――他にも居場所があればよかったのに。


 ……学校だって君は、周りからは何もしていないのに嫌われて、いじめられて。理不尽に攻め立てられて。友達だって表面だけで、裏では陰口を言ってた。だから、孤独で。


ずっとそれがつづいたから、中学に入って変わろうと思ってキャラまで変えたのに。嫌われて。それがいやで、もっともっとって続けてたら、いつの間にか自分がおかしくなってた。


はたから見れば滑稽でうっとうしい演技だった、でも演じている本人は本気で嫌われたくなくて、嫌われたくないから普段の自分を押し殺して演じてる。素直になれない。だって、周りが怖いから。本当の自分を、前と同じようにありのままでいたら、嫌われてしまうから。


―――それが、学校という場所。小さい社会で、子供が大人のまねごとをする場所。


部活だって、本当はやめたいのに周りが「辞めないで!辞めたら困るよ!」ってひきとめる。


本当だったら嬉しいのかもね。でも、そんなことはない。だって、そいつらが必要にしているのは、君ではなくて「君」という名のハリボテ。そこに中身がなくたって何も気にしない。


部活も学校も家も。どこにも居場所はなかった。どこにも、君の「本当」を見つける人も、見てくれた人もいなかった。


―――いたのかもしれない。でも、そんなことはない。だって、見えていたなら救いの手を差し伸べてよ。こんなことになる前に。


そうすれば、喜んで手を取ったさ。それが綺麗事で塗り固められた虚像だったとしても。


助けを求めればよかったじゃないか、本当の気持ちを伝えればよかったじゃないか、聞いてくれる人がいたかもしれないじゃないか、お前はその人を探す努力をしたのか?


そんなことを言うやつは、幸せな奴しかいない。いままで、大した辛い思いもせずに生きてきたような奴だ。


それができれば苦労はしない。それができないからこうなってる。そうだろう?わかってくれよ。


お前より辛い思いをしている人もいっぱいいるんだから。


それがどうした。そんなの、ボクには関係ない。だって、他人の事は分からない。いつだって辛い思いをしている人は、自分の周りの事か自分の事で悩んでる。なんで、ボクらが全く知らない、関係ない人のことを考えなきゃいけないんだ。


たったそれだけで、ボクらが悩み続けるのをやめろというのなら、ボクらはこの人生をやめてやる。


―――だって、それをやめろと言われたら、ただの人形になってしまうから。


……でも、ボクらはこの人生を放棄しちゃいけない。まだボクらは子供だから。


本当は今にでも、こんな人生を放棄してやりたい。今までの思いを全て、声が枯れるまで、喉が潰れるまで。どうせ誰にも届かなくても。でも、ダメなんだ。


ボクらはまだ子供だ。でも、もうすぐ大人になれる。


ボクらはまだ、この学校という小さな世界しか見ていない。その小さな世界に絶望したからって、全ての世界に絶望しちゃいけない。


中学より、高校。高校より大学。大学より本当の社会。


どんどん、ボクらの世界は広がっていく。


高校に行けば、中学よりも君を理解して、君を見てくれる人がいるかもしれない。


高校生になれば、今よりもやれることが増えて行く。親とも卒業してしまえばすぐに離れられる。


高校でも嫌なことがあれば、次は大学がある。大学の方がはるかに自由だしもっといっぱいやりたいことがやれるようになる。


大学が終われば次は本当の社会だ。社会は大変で、荒波に揉まれまくると思う。でも、そのぶん世界は無数にある。世界へ続く扉はいっぱいある。君がどの扉を選んで、その扉を開けた先に何を見るかはまだ分からないけれど。


ボクだってまだ子供だし、世間の事は全く知らないだから全ては聞いた話だし、憶測さ。でも、ボクは思うんだ。今にこだわり続けちゃだめなんじゃないかって。今が嫌なら、小さなことでもいい、そんな先の事じゃなくて明日のことだっていい。何か楽しみを作って行こうと思う。


―――嫌なことがずっと続くかもしれない。今よりもひどい事になるかもしれない。


これも、ボクの持論なんだけどさ。悪かったことって、絶対いつか覆されるんだよ。


だから、今すごく嫌なことがつづいているってことは、いつか良いことがつづくのかななんて。思ったりして。


実際嫌なことだらけでも、小さな良かったことって数えてみればいくらでもあると思うんだ。


ボクは神様なんて信じていないし、いるとも思ってないけど。もし、いたとしたなら神様が良かったことと嫌なことを交互に起こさせるような感じに操っているなら、見ているんだろうなって思うんだ。


だから、辛い時に八つ当たりとかいろいろ。悪い事をしてしまえば、良いことが来るのはもっと後になるのかな。って。


友達から聞いた話だけど、人間には誰かしら生まれた時から試練を持っているんだって。欠点のない人なんて、どこにもいないでしょ?人は皆、試練を終えたら死んでいくんだ。そう言ってた。


それで、ボクが思ったのは神様がボク達を使って実験をしているんじゃないかって。


この理不尽で混沌でなにが正解か分からない世界で、どう生きるのかを。


それで、面白い人生を送った人は最後に笑って死ねるようにしてくれるんじゃないかな。


―――そう、なのかな。


そうだよ。結局、綺麗事みたいになっちゃったけど。ただのおとぎ話だって笑ってくれてもいいよ。これはボクのキレイゴトだから。中途半端でしょ?


それに、忘れないでよ。ボクの事。全然ボクの事知らないみたいな顔しちゃって。


―――え、だって、初めて会ったじゃない…?


ふふ、そうかもね。少なくとも、ボクは今までの君を知っている。これからの君も。


とりあえず、まだ死なないでよ。ボクがいるから。君がいないとボクは退屈で死んでしまうよ。


いつだって、聞いてあげるよ。嫌なことは全て受け止めてあげるから。1人で貯めこまないでよ。慰めて欲しくない時は、ただただ話を聞いてあげるから。


君は独りじゃない。そう見えるだけ。ボクがいる。忘れないで。


いつでも、こんなに小さくてみじめで、汚れきってしまった胸でもいいなら、いくらでも貸してあげる。


泣きたかったら泣きなよ。泣けるのは神様がくれた大事な機能なんだから、使わなきゃもったいないでしょ。


ほら、もう泣いてる。そこに突っ立って泣いてないで、ボクが受け止めるって言ったじゃん。


ほら、この手をとって。そんなあぶない所に立ってないで。


―――。


そこから、飛びおりようなんて思わないでよ。そんな泣き顔のまま死なないでよ。


せめて、自殺するならボクと一緒に笑いながらしよう?


全部、全部。全てが要らなくなったら。捨ててしまえるなら。


だから、新しいドアを開けた先に見えた世界をしっかり見てから。絶望するか、生きて行くか決めよう。


 ボクがずっと見ていてあげるから。


 しっかり覚えていてよ?そうじゃないと、君の事をボクは見ていられないから。


 もうそろそろ帰らなくちゃ。


 ―――え、待って。どういうことなの。説明してよ。


 そうだな、ボクは君が生まれた時から君のそばにいて、君をずっと見ていた。そしてこれからも見てる。


 ボクは君の叫びをずっと聞いてる。君の言葉を。どうしようもなくなったらボクの名を呼んでよ。


 もし、ボクも消えたいと、全てを捨てられると。そう思えたその時には、君と一緒に叫んであげる。君と一緒に消えてあげる。ひとりじゃ届かなくても、ボクと二人ならきっと届く。他の人となんてダメだよ?ボクとじゃなきゃ。


 だから一人で行かないで。


 本当は、君が笑いながら『辛かったけど、楽しい人生だった。』って言って終わることができればいいのにって思ってる。その最期の時に、ボクの名前を呼んでくれたらって。でも、ボクに強制する権利はないから。


 時間切れだ。本当にそろそろ行かないと、ボクが消える。


 ―――名前、名前聞いてない!


 大丈夫、その時になれば思い出す。君はもうボクの名前を知っているから。


 ―――知らないの、思い出せないの!


 知ってるさ。じゃなかったら、ボクはここにいない。君が呼んだからここに来れた。ありがとね。結局、最後までボクのキレイゴト聞いてくれたね。


 ―――待って!行かないで!…一人にしないでよ!


 一人じゃないって。ボクはいつでも、君のそばに。


 じゃあね。ボクの愛しい―――。


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