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大天狗と僕の大冒険  作者: DRYひつじ
1/1

序章

「…や……なさい。…きなさい…。」


「んー…」


「…や、起きなさい…。」


「んー、今日は3限からだからもうちょい寝かせて…」


「…や、起きなさい…。起きなさい…。」


「もー、わかったよ…。」


僕は何度も起こされるもんだからしつこいなぁと思いながら「んーっ。」

と伸びをしながら目を開けた。


「…………ぅわあーーーーー!!」


目の前には長い黒髪の薄紫色の和服を着た女の人が

着物の袖口を口元にあてがいながらクスクスと笑っていた。


僕は去年、大学進学の為単身都会へやってきていた。

その為1ルームの部屋を借り一人暮らしをしている。


当然ながら目の前の女性は母ではない。

そして僕が連れ込んだ女性という訳でもない。


「ようやく起きてくれましたね、坊や。」


見知らぬ女性はまだクスクスと笑いながら言った。


「だ、だ、だ、誰だ…。け、警察を警察を呼ぶぞ…!…いてっ!!」


あまりの出来事に気が動転してしまい、僕は後退りをしながらベッドから転げ落ちた。



今思えばこのご時世和服を着た人なんて早々いない。

いたとしても長い髪を一切束ねずに着物でそのまま歩いてる人を僕は見たことがない。



女性は僕の様子を見ながら未だにクスクスと笑っている。


「ごめんなさいね、坊や。タツオさんと初めて会ったときと同じ反応をするものだから…おかしくて…。」


呆然としながら後ずさる僕に笑いを堪えながら女性はそう言った。



僕はその言葉を聞いて引っかかった事があり、恐怖を忘れ尋ねた。


「タツオさん…って、…じいちゃん…?」


すると女性は笑うのをやめて代わりに微笑みながら答えた


「ええ、そうですよ。」


そう言いながら小窓の外を見ながら懐かしそうな遠い目をしていた。


知っている名前を聞いて少し安心したのか僕はその得体の知れない女に話しかけてた


「あなたはじいちゃんの、、知り合いなの?」


すると小窓を眺めていた女はこちらに向き直り


「知り合い…というよりも使役の方が正しいですかね?」


「使役…?」


僕はよくわからず首を捻りながらそう答えると、女は答えた。


「わたくしは代々神坂家、そして高尾におわす大天狗様に使える尼天狗。名を葛と申します。」


「天狗…?じゃあ君は人ではないの?」


「ええそうですよ。」


よくよく考えればわかることだ。

ここは3階だし、ベランダもない。


鍵もいつもちゃんと閉めている。

普通の人間のそれに着物を着ている人なんか

入って来れやしない。


「それで、僕は天狗がいるなんてはじめて知ったんだけど・・・その、カズラさんは何をしにきたの…?」


「わたくしの事はカズラと呼び捨てにしてくださいまし。

私は貴方様にも使える身なのです。」


「は、はい…。で、かずらは僕のところに何をしにきたの…?」


「わたくしが安志様の元を訪れたのは2つ理由がございます。

 ひとつは代替わりの儀を行う為、もうひとつは大天狗様のわがま…コホン、

 お願いを聞いて頂きたく参上した次第でございます。」


(今わがままって…)


僕はその言葉はあえてスルーすることにした。


「代替わりの儀って?僕が後継者なの?父さんはまだ生きているよ?」


「竜夫様が次の後継者には安志様をと仰ったのです。御父上よりもあなた様の方が幼少の頃、神通力がおありでしたので・・・。」


「神通力…?」


「はい。物心つく前には貴方様にも私の姿はお見えになっていたんですよ。」


という事は初対面ではないのか…。

「すいません、覚えてなくて…。」


「いいえ、物心つく前の事。気にしなくて良いのですよ。」

そう言いながらかずらはまた、くすくすと笑っている。


「それで、代替わりの儀っていうのはどうすればいいの??」


かずらは咳ばらいをしてから僕に向き直ってこう告げた。


「簡単なものですよ。まずは、高尾に帰りましょう。」


帰りましょうというのは、一度実家に帰るということだろう。

こないだじいちゃんの葬式で帰ったばっかなのに…。


どうしてその時言ってくれなかったんだろう…。

そんな僕の考えが顔に出ていたみたいでかずらはこう告げた


「申し訳ございません。安志様。代替わりの儀の準備が御座いましたのでしばらくは姿を表すことが出来なかったのです。」


「そうだったんだね。なんかごめんね。それでいつ高尾に帰ればいいの?」


「現代を生きる安志様の事を考えて、来週の土曜日と日曜日で儀式を行う事と決まりました。どうぞご予定をお空け頂きますようお願いいたします。」


そう言いながらかずらは綺麗な所作で深々と頭を垂れた。


確かに土日に講義はない。しかし確か土曜日はバイトを入れていたはずだ…。

まぁ後輩に代わってもらえばいいか…。


「わかったよ。どうにかして予定を空けておくよ。だから…その、頭をあげてくれないかい?」


そういうと

「かしこまりました。」

と素早くかずらは頭をあげてくれた。


「で、どうすればいいの?来週高尾に帰ってからなんだけど…」


「段取りはこちらで手配しておりますゆえご安心くださいませ。安志様には高尾でまたお会いした際にお教え致しますので…」


ん?なんかはぐらかされた気がする…。

てか、またお会いした時というのは一旦ここから去るという事だろうか?

さっき使えていると言っていたので僕はこのまま一緒に来週までいるのかと思った。


「高尾に先に帰るんだね?」


僕の疑問を読み取ったのかかずらは補足してくれた。


「はい。代替わりの儀の準備もまだ残ってございます。

 そして、私は神坂家に使えておりますが竜夫様亡き今は使役するものがいない状態なのです。

 ですので早々に代替わりの儀を行い、正式に貴方様にお仕えしとう思っております。」


なるほど、そういう事か。

まぁじいちゃんが残してくれた遺産だと思って僕は軽く後を継ぐことを決めた。



【本当に軽く受けてしまった。今はそう思う…。】


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