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ストーリーログ4。ぼくの戦いはこれからだ! ファイル1

大丈夫です、打ち切りませんよw

打ち切っていいほど綺麗に終わったけど……。

「下から来るのがわかりゃ、こっちのもんだ」

 ヒュン ヒュン。軽く素振りをしながら、モブはそう言う。

 

「流石村一番だね」

 苦笑するぼく。たった一撃で対応されちゃうなんて、

 また、どうしようタイムかな、これは。

 でも、攻撃しなくちゃ、どうしようもないし。

 隙をみつけるしかないか。また相打ち覚悟かなぁ?

 

「まあな」

 ニヤリ。でも今回のは、ちょっと恥ずかしそうな声だ。

 てれてるみたい。思わず口元がほころぶぼくに、

 なんだよってすねたようなモブの声。

「なんでもない」

 

「ったく。いくぞ」

 ビュン!

「うわっっ!」

 少し上からした風切り音に、慌てて木剣を振り上げて

 攻撃を右にそらす。んっ、と小さく呻いたモブ。

 

「そんな、あぶないてれかくし、聞いたことないよっ!」

 今のぼくの腕の位置は、木剣が左目の先。

 せっかく、モブの腕も防御もズレたんだ。

 このチャンスは生かさないとっ。

 

 突っ込みの勢い任せに、少し木剣を自分側に寄せて。

 そのまま振り下ろすっ。このままモブが動かなければ、

 当たる場所はモブの左肩のはずっ。

 

 バシーッ!

 

 手から肩まで、ジワっと染み込んで来る重み。

 たしかな手ごたえだ。

 当たった!

「ぐうっ!」

「効いてるっ!」

 

 思わず声に出てた。

 肩を打ち付けられたら、少し動けない。

 それなら。もう一撃いけるっ!

 左肩まで木剣を戻して、もう一回振り下ろす。

 

 ビュン!

 

 バシッ!

 

 衝撃が、今さっきの肩に比べて小さいし、音も違う。

「……どういうこと?」

 それに。

 押しても引いても、木剣が動かないっ?!

 

 

「村一番を、なめるんじゃねえよ、ってな」

 痛みを耐えてるような声だけど、それでも

 してやったり、ってニヤリ声だ。

「ま……さか?」

 

「ご名答だぜシオン。お前の一撃は、右手で握らせてもらった」

「ーー?!」

 信じられない。当たる。そう確信してたのに。

 なんてタフなんだ、モブ。

 

「お前相手でなきゃ、腹に蹴りでも入れて距離を離すところだが」

 ふっと、木剣にかかってた圧力が消えた。

 ゆっくりと、木剣を定位置に戻すぼく。

「素人相手にマジになるほど、俺ぁ落ちぶれちゃいねえ」

 厳しい顔になるぼく。

 

 三歩下がるモブ、間合いを調整したんだろうな。

 ムっとは来たけど、でもモブの言うことはその通り。

 ぼくは、剣術でも戦闘でも素人。それも、ド素人だ。

 

「お前がんな顔したって、なんにも怖かねぇぜ」

 クックック、っと楽しそうにかみ殺した笑いをした後、

 モブは、その笑いを口の中に溜めたまんまで、そう言って来た。

 

 

 た、たしかに。

 ぼく、蘭には

 『怒ってるのに、お兄ちゃんの顔キュン死にするぐらいかわいい』

 ってワーキャー騒がれたことあるけど。

 あれ、絶対蘭フィルターかかってるよね、間違いなく。

 

 ウイト君にも、

 『基本たれ目だから、逆にガチギレした時怖いんだろうな』

 って言われたことある。

 ウイト君の言うガチギレはわかるけど、

 蘭の言うキュン死には、よくわからない。雰囲気はわかるけど。

 

 前に死語特集番組で、そんなの聞いたような覚えがあるから、

 蘭はそこから持って来てたんだろうな。

 

「そうむくれんなよ」

「まったく、ケラケラ楽しそうに……」

「楽しいからなっ!」

 ブンッ!

 

 また、喋りながら打って来るっ!

「っ!」

 風切り音は少し右からっ? なにはなくとも、それを防ぐっ!

 

 ブンッ! ガッ!

 

「あれ? 手ごたえが……?」

「いっつー……」

 足の小指を箪笥の角にぶつけた時みたいな声で、痛がったモブ。

 声が終わった直後。カランカランと、木剣が落ちた音がした。

 

 ーーそっか。

 今当たったの、剣じゃなくてモブの手だったんだ。

 道理で、手ごたえが違ったはずだ。

 

「また左からか」

 ヒュンヒュン小さな音をさせながら、そういうモブ。

 もしかして……手を振ってるのかな?

 かなり痛かったみたいだし。

 

 

「どうしたシオン? チャンスだぜ?」

 手の振りを大きくしながらそう言うモブに、

 ぼくは笑いを含んで言った。

「なに言ってるのモブ。そっちが、丸腰を攻撃しないって言うのに、

ぼくだけ攻撃していいんじゃ、フェアじゃないよ」

 

「なるほどな」

 そう言いながらしゃがんで、モブは木剣を拾った。

 ヒシって音がしたから、たぶんそれが

 そっと持った音なんだと思う。

 

「お人よしだなぁお前は」

 言ってザッて音。構えるのとは違う、静かな音。

 立ち上がった音だね、これは。

 その直後に、静かなザって音。構えなおしたのかな?

 

 

「言っとくけどな。

お互い、状況が同じにならなきゃ攻撃しない、

なんて言う戦いが成立すんのは、

よっぽど特殊な状況だけだぞ。覚えとけ」

 

 呆れたような声で言うモブに、

「うん。わかった」

 ぼくはまた一つ、戦うってことへの、心構えを教わった。

 

「よし。じゃ、再開だっ!」

 ガサッ。動いた音。

 どうもモブは、喋りながら打って来る癖があるみたいだ。

 今の音は、少し上の方から。

 

 なら、ぼくは……よし。

 声の位置と、ぼくの木剣の位置を考えると、一番近いのは……!

 

「ーーここだっ!」

 木剣を、左下から振り上げる。

 狙う位置、最短で狙える場所はここしかない!

 

「ぐぁぁっっ!」

 モブから、さっきよりも大きな苦痛の声っ!

 よしっ、左の脛にクリーンヒット!

 また剣を落としたっ!

 

 ビュッ!

 今、ここが。

 ヒュンッ!

 ーー力の出し時だっっ!

 

「だゃぁぁっっ!」

 ブオンッ! ドガッ!!

「っぐ、う。あぁぁ……!」

 これまでまったく聞かなかった種類の、

 力の抜けきったようなモブの声だ。

 

「うぐっっ」

 ほぼ同時に伝わって来た感覚が重たい。

 手から手首 腕 肩。

 ぼくの全身に伝わる感覚の響きが……重たいっ。

 

 ぼくの声に答えるように、ドサリ。

 この世界に来てから初めて聞く、

 重苦しい、そして……なんだか、聞いちゃいけない種類の

 全てを預けたように重たい音。

 

 

「っ!! モブ! モブっ!」

 木剣を手放して、ぼくは音の位置にしゃがみこんで

 師匠をゆする。

「モブ、モブってば!」

 ゆすっても、呼びかけても返事がない。

 

「おきてっ! おきてって!」

 でも、ぼくはゆする。叫ぶ。

「冗談やめてよモブっ。ぼくなんかの……

ひょろっちいぼくなんかの攻撃で。そんな……!」

 見えてる人なら、今のぼくを自分で表現する言葉は、こうだろうと思う。

 

 ぼくの視界は、今。にじんで、ぼやけていて、

 世界をはっきりとは映していない。

 

 何度ゆすっても、声をかけても。

 モブは、なんの反応もしめしてくれない。

 くれないんだっ!

 

「シオン」

「っ!?」

 優しい声といっしょに、ぼくの左肩に、強く 叩きつけられるような衝撃が

 バシーっと落とされて、ぼくは息を詰まらせた。

 

「寝かせてやるんじゃ」

「長……老?」

 歪む声で、ぼくは左からした声に顔だけを向けた。

 

 

「シオン。お前の勝ちじゃよ。今の額への一撃でモブ

ーーモブトは戦闘不能になった」

「戦……闘。不能……?」

 今のモブの状態と、戦闘不能って言葉。

 ぼくの目から一筋、頬を伝って溜まってた物が流れた。

 

「大丈夫じゃ、安心せい」

 柔らかく言う長老は、ぼくの左手を持って、

 モブの鎧の胸に、手をあてがわせた。

 

「鎧越しではわからんかもしれんが。

こいつは、気を失っとるだけじゃ。

死んではおらんよ」

 

「本当……?」

 パチパチまばたきするたんびに、

 後から後から、涙が流れて行く。

「ああ、本当じゃ。じゃから、今は休ませてやれ」

 

「うぅ……」

 それ以上は声が詰まってうまく出せないから、かわりにぼくは頷いた。

 すると。

 

 

「これまで」

「っ!」

 ゴン ゴンと、強く地面を杖で叩きながら、

 長老がそう大声で言うから。

 ……びっくりして、涙がひっこんじゃった。

 

「勝者。シオン!」

 またゴンって地面を叩きながら、高らかにぼくの名前を発した。

 

「ぅゎっ!」

 長老の声を聞いてから一秒ぐらい後。

 このフィールド……たぶん闘技場に入った時と同じような、

 割れんばかりの歓声が上がった。

 

 思わず耳をふさいだ、ぼくの左手がどけられた。

 なんだろうと思ったら、耳元で長老の声がした。

「最後の一撃。その覚悟。見事じゃったぞ」

 

「あ……ありがとう。ございます」

 さっきとは違う理由で。ぼくの涙腺は。

 また。水滴をこぼした。

 

 

***

 

 

「シオン。モブトを倒したおぬしは、晴れて

この村を出立することになったわけじゃが」

「はい」

 長老の家に戻ったぼくは、スタートした時と同じように

 長老と向き合って話をしている。

 

 気絶したモブは、村の人たちに任せて

 ぼくは、長老を介助者にして戻って来たんだ。

 やっぱり、鍛えてるモブと、おじいさんな長老とじゃ、

 腕の感じがぜんぜん違った。

 

 掴む力を間違えたら、腕が折れちゃうんじゃないかって思って、

 こわごわ掴まってたよ。ぼくが掴まってることについては、

 モブといっしょでなにも言わなかった。

 

 こういうリアクションは、やっぱりぼくみたいな人の

 こんな動きを想定されてない、見える人のためのゲームなんだなって

 ちょっと冷めた気持ちが出て来ちゃった。

 

 明らかに恐る恐る掴まってたら、気にしないでいいとか

 もっとしっかり掴め、とか言いそうな人だから長老このひと

 

 

「幾つか、せねばならん事があってな。

それをせんことには、おぬしを出立させることは

できんのじゃ。よいか?」

 

「はい、かまわないです」

 ちょっと寂しい思いを追いやって。

 ぼくは、なにをするのかを聞くかわりに、そう返事した。

 

「まずは、おぬしの傷を回復せんとな」

 そう言うと、またさっきと同じ回復の音がした。

「ありがとうございます」

「これから旅に出る男を、傷付いた状態で送り出すバカはおらんよ」

 

 笑顔な声で言う長老は、続けて

「さて。次は状態の確認じゃな」

 って言う。

 どうするつもりなんだろうな、って考えた直後。

 

「。ぬっ」

 そんな、力の入った声の直後、決定音が聞こえた。

 もしかして……ステータスを見たのかな?

 

 

『ステータスウィンドウで、HP MPの閲覧が可能になりました』

 あ、見られないわけじゃなかったんだ。

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