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ストーリーログ2。VRゲームが始まることになりました! ファイル2

「よし。涙目の相手と戦うなんざ、やりづらくてしかたねえ。

シャキっとしろよな。ほら、ついたぜ」

 三歩進んだら、モブの足音にエコーがかかった。勿論ぼくの足音にも。

 やっぱり、建物の前にいたんだ。

 

「まったく。俺の後ろを、くっついてばっかだったヒョロっちいお前が、

俺と決闘するほどになるとは思わなかったぜ。

お前の控室はこっちだ。んじゃ、後でな」

 少し寂しそうに言うと、モブは左に向かって歩いて行く。

 エコーの広がり方は、正面側は狭い。ってことは、すぐ壁だ。

 

 

「えーっと、ってことは。ぼくは……右に行けばいいのかな?」

 体を右に90度向けて、開いた左手をゆっくり伸ばす。

 すると、肘を半分曲げた辺りでなにかに突き当たった。

 やっぱり、壁があったんだ。

 

 壁に触れたまま、真っ直ぐ開いた右手を前に突き出して、

 両手を白杖はくじょうのかわりにして、

 ぼくは、ゆっくり ゆっくりと前に進む。

 

 きっとこの様子を見てたら、あまりの遅さに

 いらいらするだろうな、と自分で思う。

 でも、なにがあるのかわからないんだから、

 こわごわ歩くしかない。

 

 

「いきなり、幼馴染との別れの決闘だなんて、聞いてないよ」

 はぁと重苦しい溜息が漏れた。

 ドン。右手がなにかに触れた。その衝撃で、そのなにかは

 ギィっと音を立てて開く。

 

「控室……かな?」

 そーっと控室に入って、たぶん扉がある方に手を伸ばす。

 触れたそれを利用して中に進み、ドアが途切れたところで

 手を少し戻して、触れた物を押して扉を閉めた。

 

 バタン、閉まった音は大きくなくって驚かずに済んだ。

 

 

「今の装備はただの服。だとしたら、ここは更衣室になってるはず」

 すり足で、足元になにかないかとチェックしながら、

 両腕は前に出して安全確認。やっぱり動く速度は、とってもスロー。

 なんかザワザワ聞こえる。決闘の観客かな?

 

 正面は、ザワザワが少し大きくて、少しクリアな音だ。

 とすると、もしかして出口が二か所あって、

 正面の出口は決闘上に近いか、直接フィールドに出るのかも。

 

「ん?」

 コツンと、足になにかが触れた。すると、直後に声が聞こえた。

 

『ステータスウィンドウの閲覧が可能になりました。

ステータスウィンドウでは

 

自分を含めたパーティメンバーのアバターネーム

それぞれの

 

物理攻撃力

魔力

物理防御力

魔法防御力

素早さ

 

取得スキル

所持アイテム

 

の確認ができます。

 

使用方法は、指を開きながら

『ステータス』

と唱えてください。

 

ウィンドウを閉じる時は、指を閉じながら

『クローズ』

と唱えればウィンドウが閉じます。

 

各種項目選択 決定 キャンセルは音声で行ってください』

 

 

 どうも、HPとMPは体感で判断しないといけないみたいだ。

 でも、それは没入間を少しでも上げるための、

 メーカー側の配慮なのかな、

 なんてかわいくないことを思ったりして。

 

「とりあえず、この足にぶつかったのを拾ってみよう」

 言葉通り、しゃがんでそれを触って、大きさ 形を調べる。

 どうも、これは鎧みたい。軽く握り拳で叩いてみた。

 けっこう硬いけど、感触は鉄じゃない。

 たぶんこれは……革の鎧っぽい。

 

「装備するにはどうしたらいいんだろう。着ればいいのかな?」

 こういう基本動作は調べてないんだよね。

 ぼく、基本的に「習うより慣れろ」でゲームするから。

 だって、チュートリアルに時間使うより、早く本編やりたいもん。

 

 でもヴェルソは、チュートリアルが

 ストーリーに組み込まれてるタイプだから、飛ばせないんだよね。

 戦いに慣れてもらうって意図があるはずだから、

 飛ばすわけにはいかないってことだね。

 

 

 着ればいいって答えを実行。

 まずは鎧を持ち上げよう。

 すると、ピコンって高い電子音がするのと同時に、

『革の鎧を入手しました』

 ってアナウンスがあの、女の子な声で流れた。

 

「よいしょっと」

 ちょっと重たい程度の重量だ。

 革の鎧を、普通の服みたいに着るぼく。

 勿論、後ろ前は確認した。

 

 体に少しだけ、重みが加わった感じがしたけど、

 すぐに、丸腰状態と同じ軽さにかわった。

 

 ステータスを見て、見えないぼくが

 数値の上下や、装備未装備なんかを、確認できるかわかんないけど

 やってみよう。

 

「えーっと。指を開きながら」

 指だけでやるのが、なんかしっくり来ないから、

 ぼくは、握り拳を開くことで動作にすることにした。

 

「ステータス」

 キュウンって、少し低めの音が聞こえた。

 この音は、キャラクリの時もヴェルソの中に入った時もした、

 決定の音だ。

 

「それじゃ。防御力」

 少し考えて指示を出すと、決定音の後ナビ音声が答えた。

『物理防御力40 プラス5、魔法防御力40』

 よし。装備されたことと、防御力のプラス数値はわかった。

 革の鎧は、物理防御力だけが、5上がる装備なんだ。

 

「えっと、ウィンドウを閉じる時は、指を閉じながら。

クローズ」

 低めの音で、ピュウンって音。これは、項目キャンセル時に鳴る音。

 

 

「よし。決闘って言うなら、後は武器だよね。探さないと」

 言ってからぼくは、控室の中を手足の感覚を総動員して、

 武器の探索をした。

 

「……ない。まさか、チュートリアルって、殴り合い?」

 これまでの路を戻るわけにもいかないし。

 しかたない。本当の意味で覚悟を決めよう。

 ウイト君が待ってるから、チュートリアルに、いつまでも時間をかけるわけにはいかないし。

 

 それに、

 ーーモブを待たせるのも悪いからね。

 きっとモブは、とっくに着替えてフィールドに出てるはずだもん。

 

 

「こっちか」

 大きめのザワザワを耳で探して、

 そっちに右手を出しながら、少しだけ足を上げて歩く。

 

 よし、取っ手発見。一つ頷いて、一つ呼吸。

「せーのっ」

 意を決して扉を押し開く。

 すると。

 

「っ!」

 あまりの音に、一歩後ずさっちゃった。

 割れんばかりの歓声って言うのは、

 まさにこういうのを言うんだろうな。

 

 

「すごい人。こんなにいたんだ」

 あんまりのうるささに、自分の声が殆ど聞こえない。

 試しに足踏みしてみたけど、自分の足音も殆ど聞こえない。

 蚊の鳴くようなボリュームになっちゃってる。

 

「道中静かだったのって、もしかして

みんなここに来てたからなのかな?」

 こ……この中を移動するのは、はっきり言って 怖い。

 だって。

 

 どんな構造の場所でなにがあるのか、まったくわからないのに

 指針になる音が聞こえないんだから。

 

 

「静まれ! 静まらんか! シオンが困ってしまっておろうが!」

「長老……?」

 長老……のはず、の一声で、徐々に静かになって行くフィールド。

 まるで、ぼくのために用意されたようなリアクション。

 いやでも、きっと違う。

 

 そんなことがあったら、それは奇跡って言ってもいい。

 だって。ぼくみたいな存在なんて、メーカーさんは

 想定してるわけがないんだから。

 

「す、すごい。あんなにうるさかったのに」

 すっかり静まり返った世界に、あっけにとられてると、

 誰かがこっちに歩いて来るのが聞こえて来る。

 このステップを踏むような感じは、階段があるんだな。

 

 この、少しだけ湿ったような足音は、

 石を進んで来てる。

 階段は、少し縦に広い感じかな?

 ああ言うタイプの階段、踏み外しそうで心配になるんだよなぁ。

 

 相手は迷いなくこっちに来てるな、

 それに足音が力強い。ということは。

「これなら来れるだろ。シオン、長老にゃ

感謝しねえとな」

「やっぱり、モブか」

 

「おいおい、どこ見てたんだよ。俺以外の誰に見えるんだ?」

 からかったりバカにしたりする意図のない、純粋に冗談だと思ってる声だ。

 答えたぼくの苦笑いには、力がなかった。

 

 

 当然なのは理解してるつもりだったけど。

 いざ、こう。見えることが、前提の言葉で切り返されると

 以外と重たい。

 

 ぼくの事情を知ってる、ウイト君たちならそれでもいいんだけど、

 事情を知らない人から、これ言われると、

 なんかシュンとなってしまう。

「ほら、こいって」

 言うとモブは、元来た道を戻って行く。

 

「っ まっt」

 慌てて、彼の腕に掴まろうとしたけど、伸ばした手は空を切った。

「うわっ?」

 おまけに。階段が既に始まってたみたいで、見事に踏み外して。

 

「ぐはっ」

 右腕を前に伸ばしたかっこうで、足とあばらの辺りに段差があるから、

 二段前の半ば辺りに、顔を投げ出したみたい。

 

 鎧のおかげで殆ど痛みはないけど、打ち付けられた衝撃は、

 しっかりとぼくの呼吸を一瞬止めさせた。

 

 

「おいおい、しっかりしろよ。戦う前からそんな調子で大丈夫か?」

 しょうがないな。そういうニュアンスを含んだ優しい声色で、

 モブがぼくを起き上がらせてくれる。

「ごめん。緊張しちゃって」

 

「ハハ、むりもねえ。しかたねえな、俺がもってってやるよ」

「えっ?」

 ぼく……14歳にして、男の人にだっこされました。

 

「は……はずかしいって」

「気にすんなって。この方が確実だろ?」

「そ、そりゃ そうだけど……」

 なんだか、ウイト君と喋ってるような気になって来た。

 

 でもウイト君は、とっくにこんなところは超えてるし

 このスタート地点の村、ヌルフルスは、

 チュートリアルさえ終わってしまえば、殆ど用事のない場所だ。

 だからモブのふりして、ウイト君がここにいる、なんてことはない。

 

 

「ほれ、ついた」

 ぼくを降ろしたモブは、そのままぼくの正面に歩いて行く。

「長老。武器を」

 こっちに向き直ったモブは、真剣な声でそう言った。

 向き直ったのがわかったのは、足踏みみたいにその場で足音がしたから。

 

 長老はモブの言葉に、うむって静かに答える。

 その直後、ヒュンって風を切る音がして、音が終わった直後

 今度はぼくの足元で、カランカランと、

 まるで木製の棒が落ちたような、軽い音が響いた。

 

 

「これ、は?」

 拾ってみる。取得アナウンスは流れない。

 ってことは、これはひょっとして、

 チュートリアル専用の武器ってこと?

 持った感じは……棒。いや、違う。これは。

 

 

「木剣だ。旅立ち前に

バッサリやっちまうわけにもいかねえだろ」

 ニヤリ。声が表情を隠さないところも、ウイト君に似てるな。

 

「木剣か。決闘なんて言うから、

どんな武器を持ち出して来るのかと思ったよ」

 安心が声に出た。

 

「なにも決闘だからって、殺し合うこともねえってわけさ」

 笑顔でそう言うモブ。顔は見えなくても声でわかる。

 素直な性格なんだろうな、モブって。

 

「そっか。よし。それじゃ」

 木剣を一通りなでて、正しい上下を調べながら、

 ぼくは知らず、顔がニヤけていた。

 

 ……ワクワクしてきたっ。

 

 

「お、やる気じゃねーか。よっし、んじゃ。やるか」

 パシッ。モブの方から、そんな小気味いい音が聞こえた。

 その直後に、ザって言う足を動かした音。

 たぶん、構えたんだろうな。

 

「うん!」

 ぼくも、木剣の上下をちゃんとして、

 左手をつかの下側に、右手を上側にあてて

 胸の前辺りに、木剣をもってった。

 

 なんか、木剣って言うより、お土産の木刀みたい。

 勿論、すごいしっかりしたタイプの奴ね。

 

「ハッハッハ、足が真っ直ぐじゃねーか。

そんなんで相手に対応できると思ってるのか?」

 これでも……これでも構えてるつもりなんだよぅ!

 

「し、しかたないじゃないかっ。ぼく ぜんぜん戦ったこと、

ないんだからっ!」

 ついつい言い返しちゃった。

 ぜんぜんどころか、まったく戦ったことなんてないけど、

 今のは勢いだったので許してください。

 

「そういやそうだったな。なら、復習と体を慣らすついでだと思って。

かかってこい!」

「よ……よぉし !」

「準備はいいようじゃな。では。はじめ!」

 そう言って、長老は杖を地面に打ち付けた。

 

 低いけど澄んだ力強い音が、フィールドに響き渡る。

 

 

 

 今……ゴングは鳴らされた!

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