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ストーリーログ2。VRゲームが始まることになりました! ファイル1

面ファスナーって言うのは、マ○ックテープの言い換えです。

マジ○クテープって、商標登録されてるらしいですよ。

使う場合はご注意を。疑わしいなら、検索エンジン様の力を借りて見てください。

「いよいよか」

 午後9時前。

 自室でコントローラーを握った状態で、ぼくは動きを止めていた。

 緊張で鼓動が早鐘を打っていて、思わず胸に左手をあてがってしまう。

 

 こんな時間からゲームを始めるのは、

 後はもう寝るだけ、の状態にしたかったから。

 

 ほんとはぼくだって、晩御飯が終わったら

 すぐにでも始めたかったけど、もしプレイを終えたらぐったり疲れてて、

 お風呂も入らず、そのまま寝ちゃったらやだなーって思ったから、

 やることやってから開始することにしたんだ。

 

 

 あの後ウイト君と蘭の二人は、テンションについていけずに

 なにも言わないぼくをほっといて、ベルソを起動。

 ぼくの方をちらちら見ながら、ああでもないこうでもないと

 ぼくのアバターを作っていた。

 

 なんでぼくの方を見ながらかが、わかったのかって言えば簡単な理由で、

 画面の方を見ながら話してる時は、少しだけ声がくぐもってるんだけど、

 ぼくの方を見て、「うーん」とか「ちょっと違うかなぁ」とか言ってる時は

 声の音質が、ちょっとだけクリアになってたんだ。

 

 それに向きを変える時に、衣擦れの音もしてたしね。

 動きが素早かったんだよ。そんなに慌てなくてもいいんじゃないかな?

 って思ってた。

 

 それで、終わった時には五時近かったから、

 二時間ぐらいかかってたんだよね。

 その殆どが、アバターの見た目を作るのに費やされた時間だったんだ。

 狩りゲーもそうで、主人公の見た目に凝れる作品は、

 それを作るのにものすごく時間がかかる。

 

 狩りゲーする時、うちだと蘭が手伝ってくれるんだけど、

 ゲーム開始時のキャラメイクもそうだし、

 装備一式での見た目にも蘭が拘るから、

 ある程度装備が強くなったら、縛りプレイになるのが困るところ。

 

 

 それで、なんでキャラクリ

 ーー ゲーム上ではキャラクターメイキングってなってるけど、

 なんでかみんな略す時はキャラクタークリエーションを縮めた

 キャラクリって言うんだよね。キャラメイよりキャラクリの方が

 語感がいいからかな? 勿論ぼくもキャラクリ派 ーー が終わったのに、

 

 どうしてまだ、ゲームが始まってないのかって言うと。

 

 ヴェルゼルガ・ソードは、キャラメイクを完了した段階で

 一端セーブデータを作る。

 その後で、ゲームを始めるのかの問いにはいを選ぶことで、

 本格的にゲームが始まるんだってキャラクリ中に聞いた。

 

 だからウイト君は、VR機器を使わない初期セッティング

 つまり、キャラメイクまでは付き合ってくれる、って言ったみたい。

 

 

 深呼吸しよう。気持ちを落ち着けないと……。

「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。よし」

 ゲームを開始しますか、に意を決して決定ボタンを押した。

 

 でも鳴ったのは、実行できないことを知らせる警告音。

 なんでだろうって思う間もなく、ゲームから聞こえて来る

『VRギアが接続されていません。VRギアを接続してください』

 って言うシステム音声。

 

「あ……そうだった」

 緊張しすぎて、例のセット商品をゲーム機の

 コントローラーの接続部の右側、2p側に刺すのと、

 それを装着するのを忘れてた。

 

 ゲームディスクが入ってる箱の上に、重ねて机に置いたから、

 見つけることそのものは簡単。

 さっき確認したところ、頭 肘 膝 腰の四か所に、

 パーツをつけないといけない。

 箱からパーツを取り出す手が、戻って来た緊張で小刻みに震える。

 

 

 まずは膝から。正しい方向を、自分の膝にあてがって確認して、

 バリバリっと膝の裏で、面ファスナーを止める。

 左が終われば、次は右。

 

 ぼくが緊張してるのは、初めてのVRギア装着だから、だけじゃない。

 自分にパーツを取り付けて行くこの作業が、

 まるで戦士への武装みたいで。ヒーローへの変身みたいで。

 きっとこの震えは、緊張と……高揚なんだと思う。

 

 

 左ひじのパーツの取り付け終了。次は右肘。

 ぼくはこれでも、オタクって言われる人種だ。

 ゲームだけじゃない。アニメや特撮なんかも好きで

 見て……じゃない、聞いてる。それら全ては、

 ぼくにとってサウンドドラマだ。

 

 たしかに、音 声 音楽だけじゃ、全部の場面を把握することは

 できないけど、それでも物語を楽しむのには充分足りる。

 そう、蘭やウイト君たちと。見える人たちと同じように、

 作品の話題で盛り上がることができるくらいには。

 

 だから。

 変身や特別武装の装着に、

 憧れないわけがないのであるっ。

 次は腰パーツ……!

 

 

 キャラクリを終えて、少し雑談した後で、

 晩飯まで居座るのは悪いから、ってウイト君は帰ったんだよね。

 

 帰り際に、

「アインスベルグの、エリクシオン・サーガってパーティーにいるから、

セーブ終わったら来てくれ」

 。そう言ってたんだ。

 

 今日の目標は、チュートリアルを終えて次の町、アインスベルグの

 エリクシオン・サーガに行くこと。

 ……そこまでいけるのかなぁ、ぼく。

 それで、ウイト君が帰った後に気付いたんだ。

 

 VRギアの使い方訊くの忘れた

 

 って。

 だから蘭から聞いたんだけど、蘭によれば

 説明書には、付け方の順番は書かれてないみたい。

 だからこの付ける順番は、ぼくなりのこだわりだ。

 

 

 腰パーツも装備完了。

 ついに最後の一つ、頭の装備に取り掛かる。

 目までを覆うヘルメットの左側に、ゲーム機と接続するコードがついてる。

 右側には、口元に来るようにマイクがある。

 

 んとバイザーって言うんだっけ?

 目を隠す方を当然だけど前にして、頭からスッポリかぶる。

 かぶって見てわかった。

 両耳に丸い部分が当たって、ヘッドホンみたいになってる。

 

 ヘッドホンスピーカーみたいな場所の位置を調節、

 マイクの場所も整えた。

 これで本当に準備完了。

 後は、コードを2p側に接続してっと。

 

 カチリと噛みあって、完全にプレイ開始の用意が整った。

 

 

「あー、あーあー」

 試しに声を出してみた。こうやってヘッドホンみたいなのをすると、

 自分の声って、こもった上で遠くに聞こえるんだけど、

 マイクのおかげなのか、普段とかわらないように聞こえる。

 

「よし」

 決定ボタンを一度押して、警告メッセージを画面から消す。

 これぐらいのことは、ゲームしてれば、見えてなくてもわかること。

 それで、改めて決定ボタンを押した。

 

 

『VRギア、接続を確認。ロードを開始します』

 なんだかこのシステムメッセージ、キャラクターが喋ってるみたいだ。

 大人しそうな女の子の声なんだけどね。データロード開始を宣言してるのは、

 もしかしたら音量に慣らすためかもしれない。

 

「なんだ、この音?」

 ヘルメットから駆動音がしてるみたい。

 パソコンが起動した時みたいな、

 キュイイイイイインって静かな甲高い音が、

 まるで頭の中に聞こえる感じだ。

 

『VRリンク完了。ボタンを押してください』

 指示に従って、決定ボタンを押した。

「っ」

 まるで静電気が弾けたような刺激が、ぼくの体を走り抜けた。

 

『ようこそ、ヴェルゼルガ・ソードの世界へ』

 その声を聞いた直後。ぼくの意識は、ふわっとして……。

 

 

*****

 

 

「シオン。シオン」

 誰だろう? ぼくのことを呼んでるのは?

「これシオン、なにをぼやっとしておるかっ!」

 

「いてっ?」

 なんだ? 左前腕を叩かれた。周りから笑いが起きる。

 でも、いやな笑われ方じゃない。

 ……ん? 周り? ぼく以外に人がいる?

 

 

 ……そっか。ここはもう……ベルソの中かっ。

 

 

「あ、あはは。ごめんなさい」

 

 苦笑いすると、

「やれやれ。今日はおぬしの旅立ちの日じゃろう。

そんなことでは、これから始まる模擬戦にすら

まともな成績はおさめられんぞ」

 困ったように、ぼくの前の人は言う。

 

 また苦笑を返すことしかできない。手も体も軽いな。

 どうも今のぼくはまったくの丸腰みたいだ。

 ぼくの正面にいる人が誰なのか、今の段階じゃわからない。

 

 口調としゃがれた、でも優しげな声からすると……

 アバターのおじいちゃんか、それとも村長さんなのか。

 

「おい、いくぞシオン。俺と勝負だ、約束してただろ」

 ぼくの右後ろから声をかけた声の主は……。

 話の転回から見ると、チュートリアル戦闘の相手だ。

 ってことは。

 

「あ、うん。わかったよモブ、いこう」

 モブト・ライアルって言う、かわいそうな名前のこのキャラは、

 愛称がモブ。

 

 発音が下がるおかげで、

 名前として成立してる感じが、かろうじてしてるだけで、

 やっぱりモブなのだ。

 

 歩いて行く足音を追いかけて、ぼくもこの場から移動する。

 うぅ、追いつきたいのに、出口までの距離が

 ちょっとあっちが近かったからおいつけないっ。

 足音は同じリズムで成り続けてる。そうなんだ。

 

 だいたいNPCノンプレイヤーキャラクターって、

 特定地点から出たら、次の場所に瞬間移動するのが

 お約束だけど、ベルソはそうじゃないみたい。

 ぼくからすると、それはとってもありがたい。

 

 だって、そうじゃないと本当にチュートリアルで、どころか

 チュートリアルに入る前に積みかねないから。

 

 

「なあシオン。約束、覚えてるか?」

 ゆっくり歩くモブの、その足取りはなんだか寂しそうに思える。

 足音に力がないんだ。

「約束?」

 ふぅ、おいついた。

 

 いつものように、左手で相手の右二の腕を掴む。

 よし。いつもより距離が近くて、いつカカトを踏んじゃうか、

 相手に左爪先を踏まれちゃうかわからないけど、

 接触はできた。

 

 ーー硬い。なにこの腕。丸太みたいってよく表現としては聞くけど、

 ほんとにそうだ。これが……鍛えてる人の腕なのかな?

 

「俺とお前、どっちが勝っても恨みっこ無し。

俺が勝ったら、俺といっしょにここに残る。

でも、お前が勝ったら」

 

 まるで続きを促すような言い方に、

「ぼくは旅に出る。そうだったね」

 そうぼくは答えた。

 密かに、モブとの足の距離を一歩分ぐらいまで空けながら。

 

 なんだ、覚えてるんじゃねえかよ、

 そう言ってモブは笑った。

 

 

「なんせこのヌルフルスの村じゃ、俺とお前が双剣だからな。

村一番の俺を超えられねえお前じゃ、

この先やってけやしねえ。

だから、ちょっと竜の巫女様に願掛けをしたんだ。

お前が負けるようにな」

 

「ひどいなぁ」

 ぼくも小さく笑って返した。

 

 ーーなんだよ。

 もっと軽い感じで、チュートリアルするんだと思ってたのに。

 しょっぱなからせつないじゃない。

 

 つまりそれって、モブはぼくと別れたくないってことだよね?

 それなのに、ぼくの旅立ちを祝ってくれたくて。

 でも、素直に言うのがてれくさい。

 それで、決闘で白黒つけようってこと。

 

 ーーやめてよ。なんで、最初に涙腺壊しに来るのっ!

 

 

「そんな顔すんなって。俺もお前も、覚悟したことだろ?」

 あくまでも、その声は優しい。うぅ、よけいつらい。

「それに、さ」

「ん?」

 

「俺に負けたんなら、また強くなって挑んで来りゃそれでいいことだ。

何度だって戦ってやる」

「そっか。そう、だね」

 足音の反響が、少し前で少しこもった。近くに壁がある。

 

 ってことは、どうもぼくたちは壁の前……

 もしかすると、建物の前にいるのかもしれない。

 

 

 

 ーー涙を、ひっこめないとね。

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