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ストーリーログ10。クリアするミッション、行動範囲がエクステンション、レッツゴー深夜テンション! ファイル2

「ただいまー、っと」

 パーティハウスのドアを開けて第一声。これはウイト君だ。

 続けて、みんなパーティハウスに入って、ぼくがドアをしめた。

 

 音といい手触りといい。ドアが木製だってことが、今わかった。

 さっき、クエストを受ける前にここに来た時は、

 辿り着けた安堵と、事態がすごい勢いで動いてたせいで、

 ドアの質感に気持ちが向かなかったんだよね。

 

 

「さて。じゃあまずは、アヤメちゃんに

アイテムの確認の仕方を、試してもらうとするか」

「ウイト。このパーティのリーダーは、俺だと言っているではないか。

口を慎め口を」

 

「やかましい。遠征できることにテンション上がって、

ろくにリーダーらしいことやってないお前にゃ

仕切れんだろうに」

「貴様。さきほどから何度も、この俺を愚弄しおって。

対人戦リバレイドしてもかまわんのだぞ、この場で……!」

 

「まあまあ。ウイトも刺激しない」

 ダイさんが宥めに入った。

「ったく」

「解せん……」

 二人とも、まったく納得してない。

 

 でも、本気で仲が悪いって感じでもないんだよね。

 ほんとに怒ってるなら、声がおっきくなるもん。

 

「シオン、不思議そうだな。オーガがリーダーって言うわりに、

仕切るのあんまうまくないから、ウイトが見かねてるんだよ。

これはこれで関係としては、うまいことバランスとれてるんだぜ」

 ツヨシさんが教えてくれた。

 

「そうだよね。そうじゃなかったら、もっと……なんて言うか、

常に空気悪いだろうし」

「そういうことだよ。さて、アヤメちゃん。

どこをどうすればいいか、わかるかな?」

 ダイさんが聞いてる。

 

「更に話を進めるな!」

「えーっと。壁にくっつくように置いてある箱を

開けばいいんですよね?」

 ダイさんもアヤメちゃんも、オーガさんの言葉を

 まるっきりスルーしてるなぁ。

 

「そう。君たちのは、右前の端っこがアヤメちゃんで、

そのちょっとぼくら側 入り口側のがシオン君だよ」

「わかりました。たしか、他の町に行っても

配置はかわんないんですよね?」

 

「そうそう。双方が同意すれば、配置を変えることもできる。

知ってるかな?」

「大丈夫です」

「よしオッケイ」

 

「貴様らなぁ……」

 オーガさん、なんか……かわいそうになってきた。

「憐れんでくれるな、盲目のシオン。

だいたいこうなる、慣れているのだ。

これでも俺は」

 

 どうもぼく、そんな表情をしてたみたい。

 自分では、表情あんまり動かないと思ってるんだけど、

 案外顔に出てるのかな?

「そう……ですか」

 なんか、盲目のシオンって二つ名みたいで、かっこいいな。

 

 ただの事実なんだけど、ぼくの場合は。

 

 

「シオンくん。アイテム確認するけど、ボックスのとこ来る?

それともそこで聞く?」

「そうだなぁ。ハウスの広さ把握しておきたいし、

ボックスのところ行くよ」

 

「よし、じゃ」

 数歩、足音がこっちに来たかと思えば、

 パシっと左手を掴まれた。そのまま有無を言わせず引っ張られて、

 パシパシっと、ボックスであろう物を、叩く音をさせるアヤメちゃん。

 

「すげー。なるほど、たしかにこの手慣れっぷりは

シオンを介助して来た、ってのには納得できるぜ」

 感心するウイト君。

 

 続けて、ツヨシさんとダイさんも、

「だな」

「手慣れ過ぎてるなぁ。身内にシオン君レベルに見えない人、

いたりする?」

 そう言った。

 

 二人とも感心するかと思ったら、

 ダイさんが質問を投げた。このダイさんの質問は、一瞬空気を止めた。

 たしかに。アヤメちゃんのこの慣れっぷりは、

 そう考えても不思議じゃないよね。

 

「いないですよ。ただ、シオンくんのこれまでの動き方と

耳に特化した感覚を見てて、ちょっとちょっと目を閉じて

視覚をなくしてみて。それで、

シオンくんはどうするのがいいのかを、

考えて動いてるんですよ」

 

 

「えっそうだったの!?」

 びっくりだ。びっくりするしかない。

 ぼくの立場に立ってみて、どうすればいいのか

 考えてたんだ。

 

「まだ出会ってから、そう経ってねえのにか?」

 ぼくだけじゃない。ウイト君も、

「こいつはたまげたな。出会ってからの時間の短さを抜きにしても、

そんな考え方、そうそうできないぜ」

 ツヨシさんも、

 

「旅立って、すぐに出会えたのは、なんとも運命的だねぇ」

 ダイさんも、

「恐ろしい女だな。たやすくできることではないぞ、それは」

 オーガさんまでもが驚いている。

 

 

「お昼に、強制的にシオンくんを、この世界に引き込んだ、

誰かさんとのやりとり見てなかったら、

シオンくんが見えないってことも信じなかったし、

こんな方法で、シオンくんを介助するなんてこと、

思いつかなかったですよ」

 

 なんだかアヤメちゃん、楽しそう。

「な……に!?」

 ウイト君、「に」が声裏返ってる。

 

「わ、笑うなお前らっ。驚くに決まってんだろっ!

アヤメちゃんが、あん時あの店にいたなんて

誰が想像するかっ!」

「それはぼくも驚いたよ」

 ぼくは、笑いが収まらないまんま答えた。

 

「あたしだってびっくりしましたよ。シオンくんが

あたしのたったひとことを、その声を

覚えてたなんて思わなかったもん」

「いつ喋ったんだアヤメちゃん?

もしかして店員か?」

 

 

「違うよ。店を出る直前に、一瞬ぼくが動き止めたの

覚えてる?」

「ああ。なんか、びっくりされた、とか言ってたっけか?

……あ? もしかして、そのびっくり声の主が、

このアヤメちゃんだって言うのか?」

 

 今の「あ?」は、怒ってるタイプの奴じゃなくて、

 びっくりしてるタイプの奴。

「そう。女の子の声だったって言ったら、

妄想じゃないかって、笑われそうな気がしたから、

そこまでは言わなかったんだ」

 

「おいおい。たしか『え?』だった、って言ってなかったか、そのびっくり声。

ひとことって言うか、一文字じゃねえか。

どうやったら、同じ声って判断すんだよ?

無理だぞ普通?」

 

「その声が、よっぽど印象に残ってない限りは、ね」

 なんだか、含みを持たせたダイさんの補足。

「なんですかダイさん、その言い方?」

 

「うーん、別に深い意味はないよぉ。ただ、アヤメちゃんの声が、

シオン君にはよっぽど、

印 象 に 残 っ て た

んだなーって。そう思っただけで」

 

「「なんでニヤニヤしてるんですか」」

 アヤメちゃんとハモっちゃった。

 

 

「でっ、シオンくんっ」

「あ、はい」

 むりやり話を進めたな、アヤメちゃん。

「素材ボックス、中身読み上げてもいいかな?」

「うん。別に、入ってて恥ずかしい物もないし」

 

「「入ってて恥ずかしいアイテム、ってなんだよ?」」

 ウイト君とツヨシさんに同時に突っ込まれて、

「え、あ。さ……さあ。自分でも、わかりません」

 苦笑いするぼくです。

 

「装備品はいいとして。他は

ジャッコイーノの皮が10と、鱗が8。

デラッコイーノの鱗が二つに爪が二つ、皮が一つだね。

一匹狩っただけだし、こんなもんかな。

 

いざとなったら。そこの、売るほど素材持ってる人に

素材工面してもらえばいいし」

 この「いざ」は、デラッコイーノの素材を使った装備品を、

 手に入れる時のことだと思う。

 

「ま、まて? 流石にこのクエストは、今回が初めてだぞ」

 オーガさん、よく動揺するなぁ。今回は動揺するのとはちょっと違うかな?

 なんて言うんだっけ? ……狼狽?

 

「でも。これからは、今回のクエスト

受注し放題だぞ。お前、素材ほしさに狩るだろ。

現状の素材ボックスの状態、聞いてればわかる」

 

 きっぱりと言い切るウイト君と、

「たぶん今。俺達に資金として素材渡したの、

ちょっと『失敗したなー』

って思ってるかもな」

 つっつくツヨシさん。

 

「残念だったな。俺はそこまで、素材ばかりを求めるような思考回路ではない。

今回は、俺が目標レベルに到達するまで、

このアインスベルグに、とどまっていた結果」

 

「だーかーらぁ。その武器の資金が、ほしかっただけでしょって。

余りまくってる素材を売れば、もっと早く済んだのに、ねぇ?」

 ダイさん、たぶんえーっと……ブラッドスコール、だっけ?

 オーガさんの武器を、指差してるんだと思う。

 

 すごい楽しそうに言ってるところを見るに、

 ウイト君たちに便乗してるんだろうなぁ。

「もののついでだ。己を高めることは、悪いことではなかろうが。

おかげで、あの大雑魚だいざつぎょをあの程度の短時間で

討伐できたのだからな。感謝されこそすれ、いじくられる道理はない」

 

「へいへい、ありがとうございますよリーダー殿」

 さらっと受け止めたウイト君。

 「さて」って、話を切り替えた。

 

 

「ベルソ外の話で悪いけどよ。もうけっこうな時間だろうと思うんだ。

アルフィーチアまで、今日行っちまうか?

それとも、ここまでにしとくか。どうする?」

 アルフィーチアは、アインスベルグの先で一番近くの町の名前。

 次の目的地として、大概のプレイヤーが目指す処なんだ。

 

「そっか。考えてみれば、ぼくがログインしてから

けっこう経ってるかも?」

 もしかして、パーティハウスがあるのって、

 こういう、ゲームの外の話題をしやすくするため、

 って言う意味もあるのかな?

 

「なっ、それはリーダーの問う事柄ではないかっ!」

 考えてなかった、って感じの驚き声で、

 抗議する感じのオーガさん。

「なら。突っつかれたのを、切り返すついでで言うべきだったな」

 ニヤニヤ言うウイト君。

 

「おのれ。どいつもこいつも、

トークスキルを、高レベルで持ちおって……!」

いんキャだったんですね?」

 大して興味なさそうに言うアヤメちゃん。

 

「っえええい! よってたかって!」

 いらいらした風に言って、その一秒ぐらい後に

 大きく咳払いするオーガさんは、

 「ウイトよ」って、テンションが落ち着いたように言う。

 

 

「今がいつかは承知しているだろう?」

「いつ? なんだ、そりゃ?」

「夏深い時世。我々にもたらされる、阿鼻叫喚と享楽の時。

今はそれだ。枠外わくそとの時のことなど、関係あるまい」

 

「え、あの。……なんて?」

 困惑するぼくに、

 

「リーダーは、こう言ってるんだよ、きっと。

『夏休みに、なにをたわけたことを言っている。

気にせず続けようではないかー』

って」

 

 って、 意外なことにダイさんから解説が来た。

「そうなんですか?」

 

「正に。ゆえに、こよい。目的地は新天地。

アルフィーチアだ!」

 気合の入ったオーガさんの声に、

 彼以外の時間が、一瞬停止。

 

「って、言ってるが。俺達は大丈夫だけど、

シオンとアヤメちゃんはどうだ?」

 そして、冷静なウイト君の質問。

 あまりに空気が違って、軽く吹き出しちゃったよ。

 これは、明日の予定の話だね。

 

「特に予定はないよ」

「あたしも」

 

 ぼくとアヤメちゃんの答えに、よっしゃって相槌打つと、

「んじゃ。リーダーがこんなにノリノリなんだし、

アルフィーチアまで行っちまうか」

 ってのびをしたような感じでウイト君は言った。

 

「そうだね」

 ぼくと、

「うん」

 アヤメちゃんが答えたのを確認したみたいで、

 

「よし、ならば改めて宣言するっ」

 オーガさんは、勢いを取り戻した感じで、

 高らかに宣言した。

 

 

「いざ行かん。アルフィーチアへ!」

 オーガさんの再度の気合に、

「「「「「「おお!」」」」」」

 ぼくたちも乗ったのだった。

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