ストーリーログ10。クリアするミッション、行動範囲がエクステンション、レッツゴー深夜テンション! ファイル1
「「とどめだ!」」
ツヨシさんとオーガさん、二人の叫びが、少し先から響いて来た。
デラッコイーノを追いつめたみたいだ。
その直後。ぼくたちと戦ってる二人の、ちょうど間ぐらいの位置から、
一つ足音が走り出した。たぶん、アヤメちゃんのだと思う。
「アヤメちゃん。ひょっとしたら、とどめに混じるつもりかな?」
ダイさんはそう言うと、急にぼくの手を掴んだ。
どうしたんだろうと思って、ダイさんを見る。
って言っても、当然目で見たんじゃなくて、
ダイさんの方に顔を向けただけ。
「初めての、ランクアップクエストのとどめだよ。
せっかくだから、ぼくらもとどめを刺したところに
居合わせたいじゃない?」
「ああ、そういうことですか。そうですね。
でも、間に合うんですか?」
「大した距離じゃないし、大丈夫大丈夫。
走るから、しっかり地面蹴ってね」
ぼくの返事を待たずに、ダイさんは走り出した。
ちょっとびっくりはしたけど、幸い走ることを予告してくれたおかげで、
ぼくも、しっかり走ることができてる。
この辺り、ウイト君 ツヨシさんと揃って、
ぼくとの付き合いに慣れてるだけはあるな。
「どうやら、しとめそこなったみたいだね。
とどめだー、なんてかっこつけたのに、かっこわるいなぁ」
クスクス、ダイさんは楽しそうに言う。
ぼくが、そうですねって笑いを含んで言ったのと同時に、
そうだな、ってウイト君の声がハモった。
「いいのかいウイト?」
「ああ。後はもう、前衛さんのお仕事だからな。
俺は言うなれば、ミッドフィールダーってところだし、
火力は、前の二人からすれば出せねえしで、暇だったんだわ」
この場合の火力は、攻撃力を指して言うんだ。ゲームのジャンルを問わずにね。
格闘ゲームで言うなら、コンボの威力を指して
コンボ火力なんて言ったりする。
「で、暇つぶしに湧いて来る、ジャッコイーノを狩ってたわけか」
「そういうことだな」
と。まるで、ウイト君が状況を伝え終わるのを
待ってたかのようなタイミングで、アヤメちゃんの声がした。
「漁夫の利ー」
まだ言葉が続く、そういう語尾の伸ばし方。
直後ジャンプ音、続けてチャージの音。
「パーンチー!」
声が終わったのと同時に、その攻撃が命中。
デラッコイーノの断末魔が、フィールドに響き渡った。
『クエスト、クリア』
「あっ、この!」
『一分間、魔法玉が出現します。
それを使えば、クエストを受注した
ギルドまでの移動が可能です』
「貴様。我々の無様を狙っていたか、くっ」
「ああ、違う違う。ちょうどよかったから、漁夫の利って言っただけで、
とどめもってくの、最初から狙ってたんじゃないですってばー」
「お前らがとどめを失敗するから、そんなことになったんだぜ。
八つ当たりはよくないなぁ」
合流しながらウイト君。明らかに、からかった声だ。
「く……」
「ったって、しかたねえだろウイト。
このゲーム、狩りゲーと同じで
敵のHP見えねえんだから」
「まあな。こんな序盤でHP計算できたら、
そいつはバカか神か変人だ」
そう言ってケタケタ笑ってる。
「っと、はぎ取るぞ、もったいねえし」
ウイト君の言葉に、全員同意する。
「シオン君。このゲームの、モンスター素材の
回収のやり方は知ってるかい?」
ダイさんに聞かれて、一応は、って答えて
やり方を伝えた。
「倒れてるモンスターに、触れればいいんですよね?」
「そうそう。仮にも全年齢対象だからね。
刃物で、肉をえぐり取ったりはしないよ」
ニコニコしながら言うダイさん。
勿論、顔はわからない。
「ひ……表情と言葉のギャップ、すごい」
思わず苦い顔のぼくに、アハハハって楽しそうなダイさんである。
バシバシと、次々にデラッコイーノに触る、ぼくたちエリクシオン・サーガ。
触れたことで、モンスター素材の回収は完了してるみたい。
でも、現物が手元に残らないと、
ほんとに回収できてるのか、ちょっと心配だなぁ。
「心配か? なら遠征許可出たら
パーティハウスで確認しようぜ」
ツヨシさんに言われた。顔に出てたみたい。
「アイテム確認の、チュートリアルにもなるしな、アヤメちゃんの」
ウイト君に、アヤメちゃんの、を強調して言われて、
「ぼくだって、やり方把握しておきたいって」
ちょっとむっとしちゃった。
「ははは、わりいわりい」
「反省してないでしょ」
「さーなー。俺、お前ほど、はっきり顔に出ないしー」
「まったくなぁ」
ぼくたちのやりとりで、メンバーに笑いが広がった。
「他、なんか回収するか? そろそろ、魔法玉消える時間だけど」
「くっ、貴様が仕切るな。このパーティのリーダーは俺だぞ」
「だってお前。俺達の会話に意識集中してて、動いてなかったじゃねえか。
それで仕切れると?」
「ぐ……」
「オーガさんって。けっこう隙だらけなんですね」
ぼくの言葉に、
「ぐぐぐ……」
って、更に悔しそうな声になる。
あれ、悔しがらせるつもりじゃなかったんだけど……。
「みんな動く様子なし。じゃ、使うぞ、魔法玉」
すっかりリーダー状態のウイト君に、全員了解の意志を示した。
オーガさん、しぶしぶって感じだけど。
ぼくたちの声に答えるタイミングで、クエストクリアの音がまた鳴った。
「まぶしっ」
今のはアヤメちゃんの声。
オーガさん以外の男子三人からも、うめき声がした。
たぶん理由は、アヤメちゃんと同じなんだろうな。
***
「音が、かわった?」
僅かな風の音しかしてなかったのから、急に周りの音がかわった。
町のざわざわが、鳴り始めたんだ。
「これが、魔法玉を使った時の感覚か。
なるほど、覚えておこう」
今のはウイト君。
「そうだね。ぼくらいつも自力で帰ってたもんなぁ」
これはダイさん。
そっか。だからびっくりしてたんだ、三人とも。
「俺はとっくに慣れている」
ドヤ声で言ってるオーガさんに、五人から
そりゃそうでしょ、って内容で突っ込みが飛んだ。
この人はこの序盤で、既にレベルが5。
はっきり言っちゃうと、上げ過ぎなんだよね。
こう言えるのは、wikiやブログのプレイ日記では、
どこを見ても、
『早く冒険の幅を広げたかったら、レベル2辺りで
遠征クエストを突破してしまおう』
って言う内容が、言い方は様々だけど書かれてるからなんだ。
これで魔法玉の光に慣れてなかったら、
レベル上げに不正を疑うよ。
「白い光で周りが見えなくなって、光が消えたらギルド前。
ほんとに、アナウンスの通りなんだね」
これはアヤメちゃん。
「しかし、なるほど。シオンが盲目と言うのは、どうやら本当らしい。
魔法玉の光に、なんの反応も示さんとはな」
感心した調子で言うオーガさん。
「信じられないのも、無理はないですよ。
ぼく自身、このジャンルをやれるなんて、
思ってませんでしたから」
改めて、そう言う。
「そもそも、そういう者がゲームをしている、と言うこと
そのものが信じ難いがな。しかし、今の反応を見ては
信じるしかあるまい」
だが、しかし、やはり信じられん。そう、更に続けた。
「しつこいぞリーダー。さ、ちゃっちゃと、クリア報告いくぞ」
そう言ったのは、またウイト君だった。
「そういえば」
「どうしたのシオンくん?」
ギルドに入りながらのぼくの声に、少しだけ先にいる、
アヤメちゃんが返してくれた。
ぼくはアヤメちゃんの腕に、当然のこととして
掴まらせてもらってる。
最早、いつものスタイルになった手引き状態だ。
「うん。ぼくが倒したわけじゃないけど、
中型モンスター一匹倒してるじゃない?
ステータスは、レベル2とおんなじだけど、
ぼく、これでもレベル1だからさ。
レベル上がってもいいんじゃないかな、と思って」
「RPGと同じで、パーティーの人数分
経験値が分割されるから、まだちょっと
足りなかったんじゃないかな?」
「そっかー、残念」
あっさり納得できるのは、いろんなジャンルのゲームを、
自分ではできないけど、妹の蘭とか
ウイト君たちがプレイしてるのを、
横で見てたり、プレイ動画で見……じゃない、聞いてるから。)
「ファイターパーティ、エリクシオン・サーガの皆さん。
遠征クエスト、クリアですね。おめでとうございます。
これからは、アインスベルグより先、
様々な土地でファイターとして、活動することができます。
そして同時に、所属するファイターの皆さんは
ファイターランクが、2に上がりました。
それに伴って、受注できるクエストの危険度も上昇しています。
新しいクエストを受注する際には、準備をしっかりと整えて
挑んでくださいね」
ぼくたちが、ウイト君たちのところに付いた時には、
もうこんな風に、受付嬢さんから遠征可能になったことと、
ファイターランクが上がったこと、ランクアップしたことで
できるようになったことを、説明されていた。
「それでは、エリクシオン・サーガの皆さん。
ご活躍、楽しみにしていますね」
受付嬢さんの言葉の後、ガサガサ音がした。
「シオンくん、みんな会釈してる」
ポムポムっと腕を叩いてから、アヤメちゃんはそう教えてくれた。
だから慌てて、ぼくも頭を下げた。
「うし。エリクシオン・サーガの、パーティハウスいくか」
ぼくの横を通り過ぎながら、ウイト君がそう言った。
聞くからに嬉しそうな声だ。
「いよいよか」
オーガさん、通り過ぎながらやっぱり言う。
こっちも、わくわくしてるのを隠してない。
「あたしたちもいこっか」
更に二人分の足音が通り過ぎた後、
アヤメちゃんはそう言った。ツヨシさんとダイさんが、
通り過ぎるのを待ってたみたいだね。
「うん」
頷いて答えると、歩き出したアヤメちゃんに少し遅らせてから、
ぼくも歩き出した。




