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ストーリーログ9。みんなで遠征許可クエスト。 ファイル1

「じゃ、アヤメちゃん。シオンのサポート、任せるぜ」

「はい、引き続き任せてください」

 オーガさんがクエストを受けて、ぼくたちエリクシオン・サーガは

 今、アインスベルグを出るところ。

 

 ぼくの扱い、つまり介助者は、

 ちょっとした話し合いの結果、ウイト君がアヤメちゃんに

 一任することにしたんだ。

 

 

 今回の目的地は、リフィット草原の脇にある、ジャッコイーノの巣。

 場所はアインスベルグと、次の町アルフィーチアに向かう道。

 旅の出発点ヌルフルスと、今いる町アインスベルグを繋ぐ

 あの道の脇の森、ツリーングサン森林がまだ続いてて、

 どうも、その森の中にあるみたいなんだ。

 

 パーティの隊列は、

 オーガさんが先頭、ウイト君 ツヨシさんが二番目、

 ぼくとアヤメちゃんが三番目で、ダイさんが一番後ろ。

 職業と耐久力のバランスを考えて、こうなったんだって。

 

 隊列を考えたのは、オーガさんとウイト君がメインだったよ。

 ぼくたちは、まったく蚊帳の外でした。

 

 

「ほんと意外だったよなぁ。こんな、背景みたいな森の奥に

黄昏色の名装めいそうがあったなんてよぉ」

 改めて、って感じで言うウイト君に、みんな同意してる。

 ぼくが手に入れたところを見てる、アヤメちゃんも含めて。

 

「ぼくもそうだよ。誰もツリーングサン森林、

ヌルフルス側に入り込める、なんて話してないし」

 そう。話も出てないし、どの攻略サイトを見ても、

 今いるここ、リフィット草原側の森に入れることは、

 絶対通る、今受けてるクエストの性質上、書かれてるけど、

 

 旅に出たばっかりの、ヌルフルスの側については、

 一文字だって書かれてないんだよね。

 みんな、完全に背景だって思ってるんだろうな。

 

 

「ダッティーさまさまだったよね」

「うん、そうだね。ダッティーが、あっちに逃げて行かなかったら

ヌルフルス側の森が、入って行ける場所だなんて知らなかったもん」

 

「ほんとにお前ら、運よすぎだろ。

お前らいなかったら、黄昏色の名装、

永遠に、みつかんなかったんじゃねえか?」

 そうかもね。って、ぼくはクスっとしながら答える。

 

 一つ、足音が左に曲がった。オーガさんの足音かな?

 これから森に入るみたい。

 

「まったく。お前たち、ついて来るだけだから楽でいいよなぁ。

俺とオーガ、周りに気を配らなきゃいけないから、

気軽に喋れないんだぞ」

 愚痴っぽく、不満ですって気持ちを、

 そのまま声に乗せて言ったのはツヨシさんだ。

 

「そっか、それで喋ってないんだ」

「みたいだぜ」

 

「けっ。俺の隣にいるくせに、気楽なもんだよなぁ」

 つまんなそうに言うツヨシさんだけど、

「睨むなって。これでも、周りに気を回してるつもりなんだぜ」

 ウイト君は軽い調子。

 

 

 オーガさんだけじゃなくって、ぼくたちみんなの足音が、

 ザッ ザッ ザッ、って言う、土や砂なんかを踏んでる音から、

 ザク ザク ザク、って、草を踏んでるような音にかわった。

 足を動かすと少し、爪先の下半分の辺りが、

 ひっかかるような感触が増えた。

 

 本格的に森に入ったんだね。

 

 

「ウイトの場合は、モンスターの気配にじゃなくて

パーティメンバーに、だろ?」

 森に入っても特に変化なく、そのまま話を続けてるツヨシさん。

「あ、バレた?」

 ウイト君もそうだね。足音の変化は、気にしてない。

 

 事前に見てわかってるから、別に

 知らせるほどのことじゃない、ってことなのかな?

「ったく」

 溜息交じりに言うと、ツヨシさんはそれっきり黙っちゃった。

 周り、モンスターへの警戒に、集中したみたい。

 

 

「ねえ、シオンくん?」

「なに?」

「前の二人、いつもこんな感じなの?」

 いつも、って言うのはオフライン。ゲーム外でのことだね。

 

「そうだなぁ」

 これまでの二人のやりとりを、ざっと思い出してみる。

「うん、だいたいあんな感じだね」

 

「そうそう。で、ぼくとシオン君が、

それ見て、面白がってる感じだねぇ」

 後ろからダイさんが補足。アヤメちゃん、びっくりしたみたいで

 ガサッって後ろ向いたのと同時に、足を止めた。

 

「あ、ああ。そうだったそうだった。

後ろに一人いたんだよね。びっくりしたぁ」

 独り言言った後で、ふぅって一息ついたアヤメちゃん。

 進行方向に向き直って歩き出した。

 

 ぼく、アヤメちゃんと並んでる状態だったから、、

 彼女がちょっと先、ぼくは左肘が伸びきった辺りで歩き始める。

 そうしないと、アヤメちゃんの右足のカカト、

 蹴っちゃうかもしれないからね。

 

「ひどいなぁ、アヤメちゃん。ぼく、そんなに影薄い?」

 ダイさん、いつもとかわらない感じの、おっとりで聞いてる。

 言われたアヤメちゃん、苦笑いでごめんなさいってちっちゃく言った。

 それ聞いて、ぼく、クスクスって吹き出しちゃったよ。

 そしたらアヤメちゃん、アハハって恥ずかしそうに笑った。

 

 

「かわいいなぁアヤメちゃん」

「っ!」

 ダイさん、ぼくの心読んだのっ!?

「シオンくん? なんで、顔赤いの?」

 

「あ、あの な なんでもないんだ、うん。なんでもない」

 慌てまくったぼくの声聞いて、ダイさんが後ろで大笑い。

 もぅ、誰のせいだと思ってるんだよ、この人は……。

 

 

「フフフ、シオンくんいたい。手、力抜いて」

「あっっ、ごっごめんっっ」

 ううう。恥ずかしさの上塗りだぁ……。

 

「ええい貴様らっ! 背後で、ラブコメするんじゃねえっ!」

「そうだぞ貴様ら。奇襲を受けても構わんと言うのかっ!」

 ツヨシさん、オーガさん。ご立腹のようで……。

 ラブコメしてるつもりなんて、ぜんぜんないのになぁ。

 

 で。ぼくはその直後言った、

 「うらやましい……!」

 って、かみしめるように噛み殺した、二人の声を聞き逃さなかった。

 

 

「なんだよ二人とも。ただのひがみじゃねーか」

 楽しそうにつっついたウイト君に、二人はそろって

 「ぐ、ぐうのねもでない」

 ってハモった。

 

 すごいな。「ぐ」から「ぐうのね」までの間まで、

 ピッタリいっしょだったよ。

「無駄に器用だなぁ、二人」

 

「それだけ羨ましいんだよシオン君。

最前列で、警戒担当してる二人からしてみれば、

お気楽の極地且つ、シオン君はかわいいかわいいアヤメちゃんと

イチャイチャしてるんだからねぇ」

 

「っ、い いちゃいちゃって……っ!」

「かわいいって二回も言わないでくださいっっ」

「アハハ、二人とも顔真っ赤だよぉ。

仲良きことは羨ましきかな、だねぇ」

 

「その辺にしてやれよダイ。二人が、顔から火ぃ吹くぞ」

 二人とも楽しそうな声だ。

 ダイさんはニコニコで、ウイト君はニヤニヤで。

 

「「ひどいなぁ二人とも」」

 不満つぶやきの、ぼくとアヤメちゃん。

 ……ぼくたちも、オーガさんとツヨシさんのこと言えない長さと間で、

 きっちりハモっちゃったや……。

 

 

「おいこらラブコメ担当ども。

気ぃ入れろ。敵の気配、来たぞ」

 また、不満満載で言ったツヨシさん。

「なぁに。ザコであれば、心配はいらん」

 オーガさん、なんだか自信たっぷりだ。

 

「ずいぶんな自信だなリーダー」

 不思議そうで、でもなんだか

 ニヤリな感じの声で聞いてるツヨシさん。

「当然だ。なぜなら」

 カチャ、剣を掴んだみたい。

 

「このいらだちで。今の俺の攻撃力は」

 ガシャリ。抜いたみたいだ、双つのつるぎを。

 

「レベルの三倍は強い! デュアルーン・オン!」

 オーガさんの言葉の後、キーンって言う澄んだ高い音。

 その音が、終わるか終わらないかの辺りで、

 ズボウーって、炎が燃え盛ったような音がした。

 

「我が怒りを吸った、このブラッドスコール。

纏う闇の焔は、貴様らを抱いて殺すに余りあるっ!」

 「キエエエエエイっっ!!」って、

 悲鳴みたいに高い声で叫ぶのと同時に、

 オーガさんが走り出した。

 

 それから間を置かずに、斬撃音とジャッコイーノのギョラーンの声が、

 立て続けに鳴り始めた。

「すげーすげー。まさに無双だぞ、こりゃ」

「たしかに、これは凄まじい勢いだぜ」

 ウイト君の言葉に同意してるのは、ツヨシさん。

 

「そっか。これが無双なんだ」

 凄まじい勢いで、敵をちぎっては投げる。

 これが、世に言う無双ってことなんだね。

 聞いてるだけでも、爽快な音の連続。

 

 

「負ける気がしない、って奴だね」

 アヤメちゃん、かみしめる感じで呟いてる。

「さて。暴走したリーダーのかわりに、ぼくは索敵でもしてよっかな。

って言っても、耳を澄ましたり、目を凝らしたりするだけだけどね」

 気楽に言うダイさん。

 

「あ、そうだ。ぼくも手伝わないとだね」

「そうだね。シオンくん、こと音については

パーティの中で、一番敏感そうだし」

 アヤメちゃんに言われると、なんでか無性にてれくさい。

 

 ウイト君とツヨシさん、口数が減ってるなぁ。

 二人も周りの警戒に、意識を回してるのかな?

 

 

「次はどこだぁ!」

「オーガさん、まだ暴れてる……」

 思わず声がもれちゃった。

「どんだけ羨ましかったんだよ、あいつは」

 呆れた声で、ウイト君。

 

「ん?」

「どうしたのシオンくん? なんか聞こえた?」

 

「うん」

 声が、シリアスになっちゃってる。

 でも、しかたないんだ。

 だって。

 

 

「一つ。鈍い足音が、森の奥から近づいて来るんだ」

 正面を見るぼく。

 勿論、実際にはなにも見えてないけど、ぼくは目を見開いた。

 けど、この目の動きはまったく意識してない。心に動かされたって感じ。

 

 たとえ見えてなくても、目って動く物なんだなぁ。

 

「それって」

 確信を持った感じの、アヤメちゃんの呟き声。

「どうやら、ターゲットのおでましみたいだねぇ」

 それに答えるように言ったのは、ダイさんだ。

 

 

「いいだろう。

ジャッコイーノのグループリーダー、デラッコイーノ。

叩き切って素材にしてやる!」

 オーガさんはまだまだやる気……いや、

 最早殺る気満々だ。

 

「ここはスーパー()アーマー()持ちの俺が様子を見る。

お前は、とりあえず頭を冷やせ」

 

 ツヨシさんに言われるものの、オーガさんは

「くぅぅ……!」

 って、「ぅ」が「う」と「え」の中間みたいな発音で答えた。

 納得してないみたい。

 

「しかたがない。任せるぞ」

 ガジャリガジャリ。剣を構えたまんまで、

 ツヨシさんの後ろまで下がったオーガさん。

 ウイト君が、それに倣って後ろに下がる。

 だからぼくたちも、自然と後ろに下がった。

 

「ツヨシさん、大丈夫かなぁ?

一人だけ突出してるんでしょ? 今の並び」

「自分で言い出したことだからねぇ。

パーティメンバーを、信じてみようよシオン君」

 ダイさんは、まったりと、ぼくの右肩に手を乗せて言った。

 

「そう……ですね。わかりました」

 生唾を飲むぼく。

 これから。

 

 

 

 いよいよ戦いだ。

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