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ストーリーログ8。エリクシオン・サーガ。 ファイル3

「やかましいぞ、この厨二病患者」

「ごふぁっ!」

 そんな声を出したかと思ったら、ドタンって派手に倒れた。

 

「ウイト君。今……なにしたの?」

 呆れかえって言うと、「ん? どついただけ」とさらっと。

「し、して。お前たちは、なにものだ」

 起き上がりながら言うオーガさん。

 

 

「あ、そうだった。えっと。シオンです、剣士です。

よろしくおねがいします」

 知り合いが三人もいたおかげで、大して緊張せずに言えた。

 

「アヤメです。格闘家グラップラーです。よろしくおねがいします」

 アヤメちゃんがそう名乗ったのに、

「なるほど。通りで始めたばっかりで、溜め攻撃使えるはずだわ」

 ウイト君が、すごい納得してる。

 

「しかし。よろしくおねがいします、とは。

まるで。この、我がエリクシオン・サーガに

所属したいかのような言い回しだが?」

 オーガさん、ぼくたちにそう聞いてきた。

 

 あれ? アヤメちゃんはともかく、

 ウイト君から聞いてないのかな、ぼくのこと?

 

「あ……そうだった。すっ飛ばしちゃった」

 えへへ、っと苦笑いのアヤメちゃん。

 こんな、かわいらしいリアクションするんだ。

「ニヤニヤすんなシオン」

 

「うわっ」

 ぼくも、ドタンっと倒されてしまいました。

 カッカラカラ、ッと木剣が床に転がる。

 

「いってって」

 背中をさすりながら起き上がると、

「ほれ」

 パシっと、ウイト君が、ぼくの右腕に木剣を当てた。

 

「いたっ、もうちょっと、優しい渡し方あるでしょっ」

 左手で受け取りながら、ちょっと怒る。

「へいへい」

 まったく反省してないな、これ。

 

 

「すっ飛ばした。つまり、二人はここに入るつもり

ってことかな?」

 ダイさんの問いに、ぼくは頷く。

 

「ぼくは、ウイト君にここで合流するように言われてたから

所属、確定してるのかな、って思ってたんだけど

……違ったの?」

「いや。シオンについては、オーガに既に話は通してある。

ただ、アヤメちゃんの方が意外だった」

 

「からかうように、『ちゃん』」を付けるの、やめてくれませんか?」

「こっちだって、女子呼び捨てにすんの、てれんだよ。言わせんな」

 恥ずかしそうに言うウイト君。

 こんなリアクションするんだ。

 

「お前。またひっくり返すぞコラ?」

 「アハハ。ごめん」っと苦笑いするぼく。

 笑顔噛み殺してるの、見破られたみたい。

 

「せっかく、シオンくんと知り合えたんだし。

できればいっしょに、ここに厄介になりたいな

って思ったんですけど、大丈夫ですか?」

 アヤメちゃん、距離置いてるなぁ。

 

「ぼくは大歓迎だよぉ。ここ、見ての通り

花がなくってさぁ」

「そうだな。シオンも、ある意味華やかだし、二輪追加ってところか。

いいじゃねえの。なぁ?」

 

「ツヨシさん。それ、どういう意味?」

 言わんとしてることはわかる。でも、やっぱり納得できない。

 

男の娘おとこのむすめってのはなシオン。女の子と見間違えるぐらい

かわいらしい見た目の男子、ってことだぞ。

って言うか蘭ちゃ……妹ちゃんに、あんだけキャーキャー言われてんだから、

いい加減自覚持てよ」

 蘭の名前出して、慌てて言い直したな。

 

 リアルは持ち込まない、ってポリシーなのかな、ウイト君。

 ーーでも。蘭とヴェルソの中であったら、

 それ、まったく意味なくなると思うんだけどね。

 

 わざと「おとこのむすめ」って言ったのは、

 男の子だと、分かりにくいからだろうな。

 合成音声が、男の娘って書くと

 「おとこのむすめ」って読むから、この方がわかるって気遣いだろうと思う。

 とはいえ。

 

「やれやれな言い方されても。鏡が見えるわけでもないし、

自覚持てって言われたって……」

 ヴィジュアル面の話をされて、それに頷けって言うのは、

 なかなかに難しい。特に、自分のことは。

 

 

「で? どうなんだ、リーダーは?」

 ウイト君が、話に乗って来ないオーガさんに話を振った。

「あ、ああ。も……勿論歓迎する。

まだ、パーティメンバー上限には

四人も余ってるしな」

 

 

 このヴェルゼルガ・ソード。

 パーティ一つは、8人までって決まってるんだ。

 って、ことは。エリクシオン・サーガ。

 ここにいる四人で、全員なんだ。

 

「なにシドロモドロになってんだよ、珍しく。

もしかして、アヤメちゃんに見惚れでもしたか?」

 女子を下の名前で呼ぶのはてれるのに、

 惚れるとか、からかって言うのは平気なんだ。

 面白い感覚。

 

「な、ぬなななにをいっているっ。

あまり女性プレイヤーを見かけなかったから

むめめめずらしかった武田っ!」

「武田?」

 全員がハモった。

 

「め 珍しかっただけだ」

「キリっと言い直したところで、今更だぞ」

 ウイト君に、更に突っ込まれたオーガさんは、

 また、床をドンってしながら、大きく咳払い。

 

「ええ。ようこそ我がパーティ、エリクシオン・サーガへ。

歓迎しよう。シオン、そして、アヤメ」

 またキリっとした、かっこつけましたってわかる声。

 

 ぼく、思わず吹き出しちゃった。

 そしたら、アヤメちゃんも噴き出したみたい。

 ほんと。よくハモるなぁ、アヤメちゃんと。

 

 

「で、シオン。君に尋ねたいことが一つある」

 気を取り直したのか、それとも調子を取り戻したのか。

 オーガさんが、ちょっと近づいてからぼくに言った。

「なんですか?」

 

「別に近づく必要ないぞ」

 ウイト君が、オーガさんの後ろに行ったみたいで。

 言葉といっしょに、トン トンって、足音が少し離れた。

 ウイト君が引っ張ったみたいだね。

 

「ああ、うん。その黄昏色の名装。

パーティ持ち装備品として、必要があれば

誰かに貸す、と言うことは可能か?」

 ちょっと、ばつが悪そうに聞いてきた。

 たぶん、意味もなく近づいたことに対して……かな?

 

「それなら」

「駄目だ」

 ぼくが答えようとしたら、ウイト君に逆のことを言われちゃった。

 

「どうして?」

 ぼくが聞くと、ウイト君は「だってそうだろ」って言ってから

 言葉を続けた。

 

「細かい装備効果は覚えてねぇけど、レア防具である以上

生存率の上昇にかかわるはずだ。それもそれなりに高い値で」

「そう……だったかなぁ?」

 正直なところ、ぼくもちゃんとは、装備効果を覚えてない。

 

「そうだねぇ。たしか、

地形ダメージ無効

 

即死無効

と、後は

 

属性ダメージ30%パーカット

だったかなぁ?」

 

「後は、

バッドステータスに、熱さ 寒さなどの、

フィールドダメージも無効だ」

 って、ダイさんに続けて、オーガさんが教えてくれた。

 

 

「そ……想像以上にすごい装備だったんだ」

 聞いてびっくりした。

「で、なぜ装備者でなく、お前が駄目を出したのだウイトよ?」

 

「こいつは、相手の攻撃が見えない。接近戦ならまだいいが、

飛び道具をさけることは、不可能に近え。

更にそこに来て、毒や麻痺なんかを受けてみろ。

俺達以上の苦を強いられるのは、火を見るより明らかだ」

 

 ウイト君。やっぱり、見えないぼくのことを考えて、

 できる限り、生存率を上げようとしてくれてるんだ。

 

 

「よどみなく、言い切った」

 アヤメちゃん、びっくりしてる。

「さっすがウイトだねぇ。シオン君のこと、

しっかり考えてる~」

 

「お前のまったりトークだと、褒められてる気がしねぇよ」

 苦笑で、ちょっと疲れた感じでウイト君は言った。

「だから。生存率を下げるようなまねは、させねぇ」

 真剣な声に、みんな言葉が出ないみたい。

 

 

「ううむ。やはり、シオンが盲目のプレイヤーと言うのが、

いまいち信じられんのだが……。

ウイトが、それほどにキッパリと言い切るのであれば……

うむ。しかたない。黄昏色の名装はシオン。

お前の物として使ってくれ」

 

「あ、はい、わかりました。ウイト君、ありがとう」

「当然だろ。むりやりベルソに手を付けさせたんだ。

これぐらいのフォローはしねぇとな」

「こういう時にはてれないんだ」

 アヤメちゃんが、不思議そう。

 

 

「さて。新メンバーも入ったことだし、ランク上げクエ行くか。

ランク上がれば、アインスベルグから、先に行けるんだしな」

 ツヨシさんの提案に、ぼくたち新入りの二人以外が

「おお!」

 って気合入った。

 

「え? ウイト君。もしかして、オーガさんって

まだランク(いち)なの?」

 思わず聞いたら、「そうなんだよ」って

 愚痴でも始めそうな言い方で、ウイト君が答えた。

 

「こいつ。自分のレベルが()になるまで、

ランクは上げない、って頑なに言い続けててな。

ついさっき、ようやくレベル()になったとこなんだよ」

「そうなんだ」

 

「ちょっと、ここでレベル()は、上げすぎじゃないですか?」

 アヤメちゃんは、相変わらず距離取った口調だ。

 

「HP200。つまり、レベル(ろく)まで、ここにいるつもりだったのだが。

流石に、クエストも三周は悠にやり通してしまってはな。

素材も、この段階で集められる物は、一種類毎

素材ボックス三枠ずつまで、溜まってしまった」

 200で、レベルアップが五回。

 

 ってことは、この人。ビルドボーナスポイント50ポイント、

 全部HPに回したんだ。

「売りなさいよ」「売ればいいのに」

 呆れたぼくたちの声。アヤメちゃん、こんな言葉遣いするんだなぁ。

 

「でもな。そのおかげで、俺は、この赤銅しゃくどうの鎧が買えたから

ありがたく思ってるぜ」

 って言ったのは、ウイト君。

「俺も、大頑たいがんの鎧に買い替えられたしな」

 これは、ツヨシさん。

 

「HP200まで、なぁんて今言ったけど。

ほんとは、ブラッドスコールと、火のエンチャントの魔玉スキルーン

買うのにお金がほしかっただけなんだよねぇ」

 ダイさんが、楽しそうにそう教えてくれた。

 

 

 それを聞いてぼくは、

「あぁあ。なるほど」

 すっごく納得した。

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