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ストーリーログ8。エリクシオン・サーガ。 ファイル2

「ここね。エリクシオン・サーガ」

 どうやら見つけたみたいだ。

「はぁ……はぁ。ちょっと、休ませて」

 木剣を支えにして、荒い呼吸でぼくは言う。

 

「あ、うん。そうだね、お疲れさま」

 困ったような声で、アヤメちゃん。

 了承してもらって、ぼくは「ふぅぅ」と

 一つ深い息を吐いた。

 

 

 いくら、引っ張られ方に慣れたって言っても、

 ソロプレイ用パーティーハウス区画を抜けるまで走って後も、

 ぼくは、ずっと小走りと通常歩きの中間みたいな、

 中途半端な速度で歩かされてたんだ。足が軽く痛い。

 

 レベルが上がって行ったら、ぼくは引っ張られるどころか

 振り回されながら、移動することになるかもしれない。

 アヤメちゃんは、素早さにキャラビルドのボーナスポイントを、

 かなり回してるみたいだし、どうにかして素早さを上げないとな。

 ちょっと、気が早い話かもしれないけどね。

 

 

「大丈夫?」

「うん。息、整ったよ」

「オッケー。じゃ、叩くね」

 なにをだろう、って考えるより前に、コンコンと音が

 少し前で鳴る。ああ、パーティハウスのドアか。

 

 

「ウイト君、いますか? シオンです」

 アヤメちゃんのかわりに、ぼくが声をかけた。

 声が中に通るのかは、わからないけど。

 

「おう、シオ……誰だその娘っ?」

 ウイト君、出てくれたけどアヤメちゃんの姿を見てだろう、

 言葉の途中で、ものすごいびっくりにリアクションがかわった。

「ウイト君、やっと来れたよ」

 

「いや、来れたよ……はいいんだけどよ。

誰だよそのかわいこちゃんは?」

「か……かわいこちゃんって、そんな骨董品な表現を……」

 ぼくは、この「かわいこちゃん」って言う言い方に、

 こういう印象を持ってるんだ。

 

 

「あの、初めまして。アy」

「って うおおっ?!」

 アヤメちゃんが、名乗り終える直前。そうやってウイト君がいきなり叫んだ。

「こ 今度はなにっ?」

 ぼく、ビクってしちゃった。

 

「だってお前。それ、黄昏色の名装めいそうじゃねぇか!」

「え、あ、うん。そう……」

 ぼくは頷いた。あまりの勢いに、ポカンとしながら。

「そっかぁ。シオン。お前だったのか」

 そんなフレーズ。小学校のころに、読聞たことがあったような?

 

 

「いやー、まさかお前が発見者だったとはなぁ。

なぁなぁどこにあったんだよそれ? なぁ?」

 

「ウイト君。嬉しいのはわかったけど。誰か聞いといて、

それを無視するのはどうかと思うよ」

 両肩をバシバシ叩いて来るのを、うっとおしく思いながら、

 ぼくは、せいいっぱいじとめで、ウイト君を見て言う。

 

「ん、ああ。そうだったな、わりい。思いがけなくってさ」

 手を止めて、ぼくから離して、苦笑して。

 ウイト君は、一つ咳払いした。

「改めまして、だ。お嬢さん、いったい誰者だ?」

「また変な言い回しして……」

 

「アヤメです。シオンくんと同じ、始めたばっかりで、

いっしょに、ファイター認定クエストを終わったところです」

「ほら、アヤメちゃん怒ってる」

 

「アヤメ……ちゃん? ずいぶんと軟派になりましたなぁシオン君。

いきなり女の子に、「ちゃん」を付けて呼ぶなんて、

これまでの君にはなかったではないか」

「なんでニヤニヤしてるんだよ」「なんでニヤニヤしてるんですか」

 

「おうおう、息までバッチリじゃあないか。

このリア充め」

 また、パシパシと両肩を叩いて来る。

 ので、左手で、片方だけを止める。

 それで察してくれたのか、両肩叩きをやめた。

 

 

「だから、リア充じゃないですってば」

「ウイト君。中、入ってもいいかな?

黄昏色の名装のことは、中で話そうと思うんだけど」

「ん? ああ、そうだな」

 そう言って、ウイト君はぼくの肩から手を引っ込めた。

 

「アヤメちゃんも、中入るかい?」

「ニヤニヤしないでください。中には入らせてもらいますけど、

話したいこともありますし」

 

「そっか、わかった。ようこそ、エリクシオン・サーガへ」

 そう言ってウイト君は、いつのまにか閉めてたらしいドアを

 またガチャっと開けた。

 

 

「「おじゃましまーす」」

 アヤメちゃんも緊張してたみたいで、おんなじような言い方で

 またもやハモってしまった。タタっと先に行ったアヤメちゃんが、

 ぼくの左手を引っ張ってくれた。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 にっこりしてるのがわかる声に、ぼくもちっちゃくにこっとして頷いた。

 ウイト君相手は、第一印象があれだったし、しょうがないよね。

 

「おお、ウイト。その二人が待ちわびていた友か」

「へ?」

 変な声が出たのは、しょうがないと思う。この口調を聞いたら。

「友は、こっちの男の娘で、こっちの美少女は……

おまけ? だ」

 

「失礼だなぁ」「失礼な」

 またハモっちゃったよ。ずいぶん息が合うなぁ、ぼくとアヤメちゃん。

 勿論。いろんな人に、美少女って言われてる女の子と息が合ってる。

 悪い気はしないんだけどね。

 「失礼な」の方がアヤメちゃんね。

 

「ほう。黄昏色の名装を持っているか。

お前が発見者と見て、間違いはないだろうな」

「え、あ、はい。そうです」

 確認するような口調で聞かれて、

 ぼくは、ちょっとオドオドしながら頷いた。

 

 ウイト君も、この人も、他のプレイヤーさんたちも、

 黄昏色の名装を、見てすぐわかったってことは、

 イラストは公開されてたんだな、この装備。

 

「んで? 改めて聞くけど。どこにあったんだ、それ?」

「それがね。アインスベルグまでの道あるでしょ?

あの森の奥にあったんだ」

 

 

「は? マジか? あれ、背景じゃなかったのかっ!」

 徐々に、テンションが上がってったウイト君。

「そうです。元々は、あたしとダッティー争奪戦やってたんですけど。

ダッティーが、岩壁いわかべの先に逃げ込んじゃって。

でも、シオンくんが岩壁いわかべに入り込めるところを見つけて」

 

「ダッティー捕獲といっしょに見つけたんだ」

 アヤメちゃんの話を、ぼくが補足した。

 

「ダッティーを、その目で捕獲できただけでも驚きだけど。

あげくレア装備まで手に入れる。おまけに美少女まで付いて来た。

お前……人生の運気、使い切ったんじゃねぇか?」

 またからかって来る。

 

「ついてきた。って、あたし。おまけじゃありません。

シオンくんを出会ってからここまで、

ずっと介助して来たんですよ」

 むくれた声で言うアヤメちゃん。

 

「え、そうだったのかよ? わりい。マジで、おまけだと思ってたわ」

「……最大溜めで。グー。行きますよ」

 グググっと、拳を握り込んだ音。

 声が、自分のことをイアルマスって言ってた、あの女の子と戦ってた時

 たまになってたような、低い声になった。

 

「い……いや、それは勘弁してください。パーティーハウス的にも」

 困ったようにウイト君。「まったく」と溜息交じりのアヤメちゃん。

 苦笑いのぼく。

 

 

「それでウイト。『その目』、とは。いったいどういうことだ?」

 不思議な口調の人が、びっくりしたように聞いてる。

 そりゃ、そうだよね。

「こないだ話したじゃないか。俺のダチには

盲目のゲーマーがいるって」

 

「な……?! ずいぶんと質の悪い冗談だと思っていたのだが。

……本当なのか?」

 信じられないって声。

 そうだよね、やっぱり。

 

 ぼくって、ゲームするような人達からしてみれば

 ありえない存在だもん。

 わかってる。わかってるんだけど。

 いざこうやって、目の前でびっくりされると

 ……複雑だなぁ。

 

「バカにすんな。冗談でそんなこと言うかよ。

この木剣を、地面に突き刺すように持ってんのが証拠だ」

 言いながらウイト君は、ぼくの木剣を

 指の関節でコツコツ叩いた。

「それに、証人は俺以外に二人いる。だろ、ツヨシ ダイ」

 

「え?」

 後ろに向かって声を出した、ウイト君が出したその名前に、

 ぼくは思わず声を漏らした。

 

「だな」

「シオン君。どうやら、ぼくらがいるとは

思わなかったみたいだねぇ」

「メンバーぐらい言っとけよなウイト」

 

「しょうがねえだろ、キャラクリで体力ゴッソリ

もってかれたんだからよぉ」

「え? ほんとに、ツヨシさんとダイさん?」

 思わず確認しちゃったけど、このノリは間違いない。

 いつもの三人だ。

 

「その通り。体格大のスーパー(S)アーマー(A)剣士、ツヨシだ」

「補助ならまかせろ、魔法士ウィズのダイだよぉ。

まあ、まだレベル(さん)だから、大したこと

できないんだけどねぇ」

 いつもみたいに、まったりした調子のダイさん。

 

 でも、ダイさん。こんな喋り方なのに、けっこうゲーム強いんだよね。

 そこがすごい。

 ツヨシさんも、いつもとかわらないな。

 たまに格闘ゲームの用語、使うところとか。

 

 でも、スーパーアーマー以外に、あの効果を簡単に言い表す言葉、

 ぼくもわかんないけど。

「ついでだ、俺も名乗っておこう。

ニュートラルモーフでガンガン攻める、

剣士のウイト、レベル(フォー)だぜ」

 

「では、俺も名乗らせてもらうとしよう」

 かわった口調の人が、徐にそう言う。

 

「オーガ・ザ・シーマスター。

エリクシオン・サーガのリーダーだ」

 

「「……はい?」」

 突拍子もないフレーズを出されて、

 ぼくも、どうやらアヤメちゃんも目を点にしたみたい。

「気軽に、オーガとでも呼んでやれ。これでも、こいつは

レベル()の、レア装備持ちだ」

 

「双剣使いであることは忘れてはならない。

ブラッドスコール、聞いたことはないだろうか」

「ブラッド」

 ぼくと、

「スコール?」

 アヤメちゃんが、疑問の声を出した。

 

 

「なにっっ!?」

 

 

「「っ!」」

 突然床をドンっと鳴らされれば、びっくりするのは当然。

 声もおっきかったし。

 で。また、アヤメちゃんとハモっちゃったみたいです、はい。

 

 

魔玉スキルーンの組み合わせによって、

黒きほむらを剣身より放つことのできる、

この魔玉双剣デュアルノセイブ

ブラッドスコールを、知らんと言うのかっ!」

 「嘆かわしい。あぁ実に嘆かわしいっ!」って言いながら、

 

 えーっと? オーガさんは、何度も床を

 地団太踏むみたいに、ドンドン鳴らしてる。

 

 

 

 ーーすごい個性的な人だなぁ、この人。

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