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ストーリーログ7。初めての対人戦。 ファイル1

「覚悟おおおお!」

 更に走って来ながら叫んでる、

 どう聞いても女の子な声のぬし

「シオンくんっ!」

 

「うわっ?」

 いきなりアヤメちゃんに、ぼくは右に突き飛ばされた。

「くっ」

 ズサっと倒れたぼく。

 

「いてて……」

 倒れてる場所は、今さっきまでジャッコイーノを狩ってた草むらだな。

 って、魔法玉が手から消えてる? 手放しちゃった?

 

 ーーどうしよう。地面に転がった音がしなかった。

 消えちゃったのかな?

 ……でも、大丈夫だ。一本道を歩いて行けば、

 アインスベルグまで戻れる。

 

 道が単純で助かった。

 

 

「ZANっ!」

 そんな声がしてすぐ後に、「くっ」ってアヤメちゃんの声。

 

 それといっしょに、ブンッて言う少し鈍い風切り音。

 更に続けて、ギャアンッて言う

 ちょっと濁った甲高い音がした。

 

 同時にドスって言う、さっきアヤメちゃんが

 ジャッコイーノを攻撃した時の、打撃音だけがした。

 たぶん甲高い方の音は、鉄装備がかち合った音なんだろうな。

 そうなると、打撃音はなんだろ?

 

 

「ずいぶんな初めましてね」

 アヤメちゃんの声が、少し低い。

「この、イアルマスである、カトリーヌのアンブッシュを、

パリーするとはやりマースね、リア充」

 リア充のリと同時にカチャリ。構えなおしたような音がする。

 

 パリー。そっか。今の打撃音は、拳で受け流したのか。

 ……もしかして。アヤメちゃんがぼくを突き飛ばしたのって

 ……この一撃からぼくを守るため?

 

「アンブッシュ?」

「いわゆる一つの、フイウチと言う奴デース。

戦士としては、それぐらい知ってて当然デース」

「知らないって。それより、今のはどう考えても

不意打ちじゃないでしょ?」

 

 

「イアイのように振り抜かれる一撃デース。

フイウチじゃなくて、なんなのデースか?」

 不思議そう……。ぼくでも、不意打ちにならないことぐらいわかるのに。

「真正面から突っ込んで来てたじゃない。

それは、不意打ちとは言わないの」

 

 やれやれ、って感じの声でアヤメちゃん言ったら、

 「ムウウ……」って、困ったような声だ。

 かわった子だなぁ、口調も考え方も。

 

 

「それで、さ。聞き違いじゃないと、思うんだけどさ」

 アヤメちゃん、どうしたんだろ? 遠慮がちに。

「どうしたデースか?」

「今さっき……イアルマスって、言ったように聞こえたんだけど。

間違ってないよね?」

 

「たしかに、そう言ったね」

「イエース。ヴェルゼルガ・ソードにいるカトリーヌは、

イアルマスなのデース」

 ニヤリ。違う。なんか、嬉しそうに言ってる。

 

「あの。聞いても、いいかな?」

「なんデースか? カトリーヌが、リア充を斬滅してるのは、

イアルマスとしてのシンネンだからデースよ」

「いや、それは別に聴きたくないです……」

 疲れた感じのアヤメちゃん。

 

「イアルマスって、あれだよね?

ステアワーズの、イアルマス……だよね?」

「オフコースじゃないデースか。それ以外にイアルマスがいたら、

バーグ・スティーブンスンが、黙ってないデース」

 

「……そう……ですね」

 アヤメちゃん、完全に引いてるなぁ。

 

「たしかに。そういう遊び方もありだよね」

 ぼくが声を出すと、

 「えっ?」

 と、自称イアルマスの女の子はびっくりした。

 なんで。一回目には気付かなかったんだろう?

 

 

 ーー ステアワーズ。

 バーグ・スティーブンスン監督が制作してる、

 外国のSF映画シリーズ。

 去年末に日本でも最新作、

 『クローンワンの覚醒』が公開されたんだ。

 

 イアルマスはその中に出て来る、特殊な力 フォルスを扱う剣士のこと。

 なんか話によると、侍をアルファベットで書いたのを

 逆から読んだのが語源みたい。 ーー

 

 

「ぼくのこと。見えてたんじゃ?」

 リア充って、ぼくたちのことを言ってたのに、

 ぼくが、アヤメちゃんの横からいなくなってたことに、

 気付かなかったんだ、この子。

 

「なるほど。その黒鉄くろてつの鎧は、

イアルマスのコスプレ、ってとこか。面白いな、それ」

 普通に感心して言うアヤメちゃん。

 ぼくの呟きは、スルーされたみたいだね。

 

「コレを買うのに、レベル二つ分必要だったデース。

アインスベルグから出たばっかリノ、レベル(いち)には

負けないデースよ」

 力強く言う女の子。

 

 日本語があんまり上手じゃない外国人キャラみたいな、

 かわった発音で喋ってるけど、

 レベル数字の数え方は、日本語なんだ。

 

 

「ってことは、レベル(さん)のファイターなんだね。

大人げないんじゃない? まだファイター認定が終わってないような

ファイター未満に、対人戦リバレイドなんて」

 

 

 対人戦リバレイドは読んで字の如し。

 モンスターとか|ノンプレイヤーキャラクター《NPC》じゃない

 プレイヤーから挑まれる、プレイヤーバーサスプレイヤー

 略して、PVPって言われる戦闘のこと。

 

「リア充には、手加ゲンなしデース」

 カチャリ。また剣かな? を持ち直した。

「あのね。勘違いしてるみたいだけど」

「ン?」

 

「あたしたち。リア充じゃないから」

 

 

「仲ヨク二人でクエストクリア。

同時に魔法玉持っテルような人が、リア充じゃナイ?

寝言はオン・ザ・ベッドデース」

 言葉終わりに、ビュンっと、高い風切り音がした。

 

 その音と同時に、「うわ~っ?」ってアヤメちゃん言った。

 ってことは、剣振った音か、今の。

 

「どっから見てたの……」

 また呆れたような声。

「そ……そういえば。魔法玉使おうとした時。

アヤメちゃんの手が重なってたような……」

「シオンくん。い……いまきづいたみたいにいわないでよ」

 

「しょうがないでしょ。今気付いたんだから」

 モゴモゴ言っちゃった。顔、熱いんだもん。

 しょうがないよね、うん。

 

「なにも、いまいわなくてもいいじゃない」

 こっちを見ないどころか、そっぽ向いて言った。

 声が、ちょっと遠くなってこもったから、

 ぼくと逆向いてるって、わかったんだけどね。

 

 そのおかげで、ぼくの顔熱いのは、

 気付かれてないみたいでよかったよ。

 

「わ……わらわないでっ」

「ごめん。いじけたように言ったのが、

か……かわいくって」

 ぼくの顔。どこまで熱くなるのっ?

 熱出たみたいになってるんだけど……?

 

「もぅ、シオンくんってば……」

 ちっちゃく、モゴモゴ言うアヤメちゃん。

 やっぱりかわいくて、にこーってなりそうになったけど

 むりやり噛み殺した。

 

 

「それのどこがリア充じゃないって言うデースかー!」

 言葉の最中ずーっと、ビュンビュン言ってる。

 す……すごいスピードで振ってるなぁ。

「なぁもぉっがむしゃらに振り回さないでっ!」

 シュッ バシッ。そんな音がした。

 

「うわッツ?!」

 今のWhats、うわっとみたいな発音だったな。

 ガシャって派手な音がした、ってことは……

 今のは、アヤメちゃんの足払いか?

 

「イアルマスでもなんでもいいけど。

勘違いで襲い掛かって来るって言うのは

どうかと思うよ」

「ぐ、ぐむむ」

 

 カシャ、

「意地でも、リア充じゃないって言い張るデースね」

 カシャ カシャ、ガシャン。

 言葉の最中、こんな音がしてた。

 たぶん起き上がったんだと思う。

 

「だって、リア充じゃないもん。ねぇ?」

「え、あ。うん。アヤメちゃんは、

介助してくれてるだけだからね」

 いきなり話を振られて、ちょっとびっくりしたけど、なんとか。

 

 ーーちょっと、残念だな。

 なんてことは、がんばっておくびにも出さない。

 

「Kai-joe?」

「カイ ジョーって、誰よ。違うよ、介助。

んーと、手助けする事」

 

「助太刀? ニンジャデースと?!

グラップラーで、レベル1で、でもニンジャ。

カトリーヌ、頭ぐるぐるしてきたデース」

 ヘロヘロだよ、そんな声。

 ウイトくんとかモブみたいに、分かり易い子だなぁ。

 

「違うって。手助けだよ、て だ す け。

どうしたら、助太刀に聞こえるのもぅ」

 はぁ。アヤメちゃんが、そう疲れを隠さない溜息をはいた。

 

 

「で、落ち着いたの?」

「落ち着く? なんの話デースか?

カトリーヌは、リア充を斬滅すると心に決めたイアルマス。

シンネンは曲げないデース」

 カチャリ。また構えなおす音。

 

「話、聞いてた?」

 ちょっと、いらだってるようなアヤメちゃんの声。

 

「ルーン・オン」

 答えるように言った女の子の、そんな、静かな声。

 その直後に、魔法玉が出たのと同じ、

 キーンって言う、高く済んだ音。

 ……たしか、この言葉は……。

 

 

魔玉単剣ルノセイブっ! 人の話は聞かないし、

ほんとに容赦しないし。んもぅっ。魔力展開キャストっ!」

 やけになったように叫ぶと、アヤメちゃんのところから、

 今の音より少し鈍い、キュオーンって言う音がした。

 

 

「あなたも、キャスティングレッドを

最初の装備に選んだデースか。同じデースね」

 

 キャスティングレッド。

 たしかアクセサリのカテゴリの装備で、赤い腕輪だったかな。

 呪文詠唱をカットするかわりに、使用MPが1.5倍になる、

 って言う効果があるんだったと思う。

 

「ヘビー・リインフォース!」

 答えるように、そうアヤメちゃんが声を張った。

 フ と同時にブンッて言う空気を裂く音。

 そしたら今度は、回復の音と魔法玉が出た音が同時に鳴った。

 

「話を聞かないんなら。物理的に、

おちついてもらうしかないよね」

 「お」と同時に、ザッて音。

 本格的に、戦うつもりみたいだ、アヤメちゃん。

 雰囲気がかわって、いっきに緊張感が広がった。

 

 

 モブと戦った時より、ずっと緊張する。

 ーーなんでだろう?

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