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リアルダンジョン  作者: 真城まひろ
一章 迷宮出現
9/20

1-9 楽しいひと時

「何故俺は幼児向けのアトラクションに乗っているんだ……」


 テッテーテ、テッテーテとメルヘンチックでゆるい音楽が流れながらゆっくりと進む完全に幼児向けの小さなアトラクションに黒猫と共に乗っていた。


「ねぇ? なんであの人お兄さんなのにこれに乗ってるの?」


 後ろから幼い声が聞こえる。

 あのお兄さんというのは俺しかいないだろう。これは被害妄想でもなく現実である。

 黒猫がクスクスと笑いを押し殺して俺を馬鹿にしているので間違いない。


「ほら駄目でしょ、人に指を指しちゃ」


 どうやら母親にやんわりと怒られているらしい。

 恥ずかし過ぎて後ろを向くに向けないのだが……なんていう拷問なんだ。

 そして黒猫は笑い過ぎて肩から転げ落ち俺の膝で腹を抱えて笑う。

 貴様、後で覚えておけ。


「はぁはぁ……腹が痛いわ。あの晴人というお主の友人は面白い事を思い付いたな」


 息切れをしながら黒猫は言う。

 そう。俺が今この状況に陥っているのは晴人のせいなのだ。

 落武者を黒猫が倒して戻った俺は三十分も待たされた罰を受けてもらう、と晴人に言われこのアトラクションに乗せられた。


 『出発進行ー!』と言う青い機関車に跨って写真を撮られながら俺は罰を渋々受け入れていたのだ。


「あ! 戻ってきた!」


 七瀬の声がして俺は視線を向ける。

 その手にはスマホがあり動画か、写真かが撮られているようだった。


 お疲れ様でしたー、と職員の人が声を掛けて青い機関車は停止し俺は三人の元へ向かう。


「お疲れー」

「楽しかったか?」


 全然楽しくなかった。

 純粋な視線に俺は浄化されそうになっていたのだから。


「ねぇ! これ見て!」


 七瀬が撮った写真と動画を俺に見せてくる。

 それを覗くようにして見る晴人と遠坂。

 そこには死んだような瞳をした俺が映っていた。


 そして何より気になったのが、黒猫が映っていなかったことだ。

 ちらりと視線を向ける。写真と動画を俺の肩から覗いて見ていた黒猫は、


「人に見えないならカメラにも映らなくて当然だ」


 そう言って俺の写真を見て再び笑いのツボに入ったのかクスクスと笑いだした。


「ねぇ、上坂君は体調大丈夫なの?」

「うん。遠坂は?」

「大丈夫……だけどアトラクションはもういいかな」


 隣にいた遠坂が心配して声を掛けてくれた。

 それを聞いていた晴人達は苦手だと気が付かなくてごめんと遠坂に誤謝っていた。


「全然大丈夫だよ! それより……お昼ご飯食べよっか。皆お弁当持ってきたよね?」


 頷く俺達。

 今朝、早起きして作った弁当がバッグにちゃんと入っている。


「じゃあ休憩所に行こうか」


 晴人の提案に皆が賛成して休憩所で昼食を食べることになった。


■□


「あー、美味しかった……」


 晴人はお腹を撫でながら満腹だと言わんばかりだったが、同時に不満げというか申し訳なさそうにしている。


「でもさ……俺だけ手作り弁当じゃないのは無いよなぁ……」

「いやいや、美味しかったよ! 晴人くんのお母さんのお弁当」

「そうだよ。安定した美味しさというか、ね?」


 彼は慰められていた。美少女二人に。傍から見たらハーレムである。

 しかも納得させるようなルックスの晴人だからか、これじゃない感が一切ない。

 そして、復活を果たした晴人は俺に言う。


「安定といえば悠斗の弁当は美味かったな」

「うんうん、びっくりしちゃったよ! 女子力高いよね、私より……」

「妾も美味かったぞ! あとで魔力も讓渡することを忘れるでないぞ」


 晴人と七瀬と遠坂、そして黒猫は純粋に褒めてくれるているようだ。

 褒められて悪い気はしない。むしろ嬉しい。


 黒猫は俺を馬鹿にしたので飯抜きにしてやろうとしたがあまりにも欲しそうに俺の食べる姿を目の前で見てくるので仕方なくあげてしまった。弱い心が仇となり悔しい思いである。

 しかし、喜んでくれるならいいかとも思っていた。


「そう言えば、こないだの白米事件のお返しを果たせて良かったよ」


 遠坂と七瀬に弁当を作るという約束もしていたことを思い出してもう少し会話に参加してみようとする。

 普段会話をしないから何を話せばいいのか分からないのだ。


「うん。料理教えて欲しいくらい美味しかったよ!」


 しかし、予想とは裏腹に遠坂が感激した様子で俺ににじり寄ってきた。

 かなり熱心な様子である。


「あ、うん、機会があればね」


 行けたら行く、と同じくらいの確率で実現しない言葉である。

 それはそうと……近い近い! スゲェいい匂いがするんですけど!

 五感が鋭くなったからなのかより遠坂をより強く感じ取れる。

 これは色々不味いと思い未だ勢いが強い遠坂をなだめて席へ戻ってもらう。


「むむ。じゃあ、私も。仕事がない日にお願いします」


 遠坂に便乗するように七瀬も頼んできたので同じように返して矛先を変えるべく次に何をするのかを聞いてみた。


「アウトレットで色々見て回りたいかも。莉乃は?」

「私も少し見て回りたいかな。あと……観覧車に乗ってみない?」

「観覧車? 乗ってもいいんだっけ?」


 晴人も俺と同じことを思ったようで遠坂に聞いていた。

 というか遠坂はジェットコースターは駄目でも高所は平気なのか。


「うん。お金は掛かるけど乗れるよ」

「へー、私も知らなかった」


 七瀬も知らなかった様子聞いていた。


「莉乃はなんでも知ってるなぁ」

「いや、なんでもは知らないんだけどね?  それに、諸注意の時に言ってたよ」


 聞いてない。いつの話だよそれ。

 同じく俺含む三人は首を傾げていた。本当にいつだよ。


「まぁ、いっか。先に観覧車に乗ってアウトレット行くってことでいいかな?」


 否定の意見は出ない。

 そして、既に中心となりつつある晴人の提案で観覧車へ向かうことにした。



「わぁー! 高いねー!」


 七瀬は興奮した様子で景色を見下ろしている。

 観覧車なんて乗ったのいつぶりだろうと続けて懐かしむように言った。

 確かに結構な高さで、風で揺れた日にはちょっと縮こまっちゃうかなぁと思う。とは言いつつ今の俺はここから落ちても生還できそうな気がする。羽生えてるし、多分飛べるし。

 俺を除く三人は海の方を見て綺麗だねー! とはしゃいでいたりする中、遊園地の方を見下ろしていたら……。


「ん? あれって……」


 俺と黒猫にしか見えていないであろう光景に驚きを隠せない。


「あぁ、彷徨う霊魂の浄化だな」


 そこに見えていたのは例のお化け屋敷から霊魂が放出するように拡散して青白い花火のようになっていたものだった。


「あの落武者に縛られていた霊魂が解放されて元あるべき場所へ戻っているのだ」

「そうなのか。ちゃんと戻れるといいんだけど」


 何故だかホッコリした気分になる。

 黒猫を抱きしめてモフモフしながら天に還る霊魂を静かに見つめていた。



 観覧車で満喫した後にアウトレットへ向かった。

 やはりと言うべきか、女子二人の買い物は長くて俺は暇を持て余していたが、晴人は二人と普通に話しながら買い物をしていたりするので凄いと思う。


 一応性別は女ということになっている黒猫だが、彼女もまた普段は見ないものに興味を惹かれてフラフラと歩いている。


 やることが無い。欲しいものも無い。お土産を買うならソフィー達に何かいいものがないだろうかと探す。

 ソフィーに食べ物は無いとして、ストラップとかぬいぐるみ? 可愛いデザインの腕時計とかは……機能性に劣るし。

 やばい、俺ってお土産選びのセンスが無さすぎる。


 そう気が付いて直接聞いたほうが早くね? と思ったので念話を使ってラピスに聞いてみる。


『それは……マスター自身が選ばないといけないのでは無いでしょうか? それにマスターが選んだものなら喜んで受け取ってもらえますよ。私も含めて』


 そういうものなのか、と少し腑に落ちない気もしたけど他力本願より自分の力で物事を進めようと気持ちを切り替えた。


「クッキー美味そう……食べたいなぁ……」


 何かいいものはないか探していると黒猫が俺を何度もチラッチラッと熱い視線を向けてくるので盗みを働く前に買ってやることにした。

 これで俺との契約はさらに延長されるだろう。


「貸しだからな」

「菓子だけにか? うまいのう」


 そんなつもりは無かったのだが、意図せず親父ギャグを放っていたらしい。あれ? なんか寒いなぁ……。


 そして、眷属達の土産は結局、クッキーとキャラデザインの腕時計をチョイスした。

 何だかんだで悩みに悩んだ俺も長い間買い物をしていたらしく三人が買い物を終わるのとほぼ同時だった。

 

「なんか買った?」


 晴人は俺の土産袋を見て言った。


「まぁ、一応……。晴人達は?」


 「俺は妹に」と晴人。「私は家族に」と七瀬。「私も家族かな」と遠坂。

 晴人に関しては妹がうるさくてな……と苦笑いしていた。


 家族か……。今では父が唯一の家族だけど、殆ど帰ってこないから一人に慣れてしまったな。

 いや、今は違う。眷属のラピスにソフィー、レイリー、あとジャイアントアント達。

 例え数日前の関係だろうと眷属達とは強い絆で結ばれているのだと信じたいし信じてる。

 後は黒猫も何だかんだで俺に付き合ってくれたし……最近は毎日が充実している。


「もうすぐ集合時間だからバスに戻ろうか」


 遠坂が腕時計を確認して言った。

 楽しいと時間が経つのは早く感じるものだ。

 楽しんだ生徒はそう思っているに違いない。

 俺はやっと帰れることに安堵していた。

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